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ターン17

「喧嘩売ってしまったわね」


「初めから分かっていたさ」


「俺は家名が知られていなくて良かったよ」


食糧を補給して森に入ると襲撃者に会った。


王都に利益を齎す者なら良いが他国へ利益を齎すのなら始末するようにと指示があったのは簡単に予想できた。


国が潤えば戦争をするにしても有利だ。


「王都が領土を増やしたいっていう噂は本当だったのね」


「そうだな」


「俺たちが見つけた遺跡すべて国が管理するようになったからな」


「さしずめ金の卵を産む鵞鳥ってところね」


「卵を産まないなら殺してしまえって随分安直だな」


矢が飛んでくるがフェンリルがすべて尻尾で叩き落す。


ケットシーは木から木へと飛んで追手がいない道を案内する。


スライムはただ運ばれている。


「この先は風都があるわ」


「王都嫌いで有名だな」


「とにかく通り道にさせてもらいましょう」


だが追手もそれは理解している。


王都を出る前に仕留めてくるのは分かっている。


反撃しなければ数は増える一方だ。


「風都まで距離にして約五日」


「食糧は問題ない」


「問題は体力だな。大人しく休ませてくれるとは思えないな」


どこかで隠れて休むことはできるが人海戦術を取られれば逃げ場はなくなる。


今は走って逃げるしかない。


「こっちの思惑には気付いているでしょうね」


「あぁ」


「攻撃が激しくなってきたからな」


ナイフは持っているが接近戦のためだ。


飛び道具の銃は戦争でなければ使用できない。


弓は使用可能だが走りながら狙うのは難しい。


それに根本的に持っていない。


「これだから思い通りになると思っている権力者は嫌なのよ」


「思い通りにできない権力者はいないぞ」


「私たち庶民を虫けらのように思っているのでしょうね」


「人と虫の区別は付いていると思うが」


「物のたとえでしょ」


話しながら走れるくらいには余裕なのだろうが飲まず食わずで走れる者はいない。


戦闘を魔物に任せていて体力のない魔導士も多いがウィリーたちは体力勝負の魔導士だ。


半日くらいは走り通せる。


「向こうは馬とかに乗っているのに間合いを詰めて来ないのはどういうことかしら?」


「直線なら馬が早いが入り組んだ森では余程の騎手でなければ難しいだろうな」


「早馬なら入り組んだ森を走っているうちに騎手を振り落とすだろう」


遥か後方で人の叫び声と馬の嘶きが響いた。


攻撃は激しさを増すが当たっていない。


「良いわよね」


「何がだ?」


「武器とか無尽蔵に使えて」


ずっと飛んでくる矢の数に辟易していた。


そのほとんどが地面か木に刺さっている。


「動く的を狙ったことないのかしら?」


「無いだろうな」


「動いていたとしても逃げる敵ではなく向かってくる敵に射るくらいだろう」


「本当に良いわよね」


「アンヌ?」


目の据わったアンヌの手には手榴弾が握られていた。


手榴弾の形をしているが中身は催涙弾だ。


ちょうど風上に向かって走っているため手っ取り早く使うことにした。


「先に行くぞ」


「えぇ」


後方に向けて投げつける。


形状が手榴弾だから追手は足を止めて引き返す。


軽い爆発と共に広がるのは催涙効果のある薬品だ。


「げほっ」


「なんだこれは」


「目が、目がぁぁぁぁ」


しっかり効果が現れた。


見届けてからアンヌは追いかける。


「ごめんなさいね」


「悪いと思っていないだろう」


「悪いと思っているわよ、馬に」


「・・・そうだな」


これで時間は稼げる。


姿を消すことができれば見つからずに進むことは可能だ。



※※※



「風都に行くキャラバンがいて助かったわね」


「助かったな」


「五日もの間、走るのは大変だからな」


「それにまさか魔導師バルクラ様がいるとは思わなかったわ」


急いで風都に入ったウィリーたちを見たバルクラは王都からの追手に気付いた。


そこから早かった。


風都の王を丸め込むと宣戦布告をしてしまった。


それも魔導師と風都の連合軍として。


「一番の戦闘狂だからな」


「そうね。魔導師と呼ばれるよりも戦闘狂と呼ばれることを好む方だから」


誰よりも前線に立ち敵を殲滅する。


一般人であっても容赦はしない。


「ふふふっはははっ、温い、温すぎる!この程度の攻撃が通用すると思うな」


「キョエェ」


バルクラのパートナーのフェニックスは旋回をしながら火の玉を降らせて同意する。


火の玉ひとつで小隊くらいは殲滅する。


「王都の精鋭と言っても手応えがないな」


「キョキョキョ」


「チッ、ゾフィのやつが余計なことを」


ゾフィという女性も魔導師だ。


見た目は修道女だが慈愛の笑みで敵を殲滅していく。


パートナーは鳴き声を聞いただけで死ぬと言われているマンドラゴラだ。


「・・・ちょっと気が遠くなったわ」


「あぁ」


「目まいがする」


はっきり聞こえる距離ではないがマンドラゴラの歌が聞こえる。


神を称える讃美歌だ。


「この分だと王都にいた魔導士は全員投入されているわね」


「そうだな」


「王都って無くなるのかしら?」


「大半を風都に譲渡して終わりだろう」


「そうね。どうせ明日には終わっているでしょうし」


連合軍と言っても風都の軍は動いていない。


たった二人の魔導師で圧倒的な戦力だからだ。


下手に戦場に出れば死体となる以外に道はない。


「あっ」


「どうしたの?」


「父だ」


「ウィリーのお父さんが?」


「戦場で活躍して名を上げるつもりなのだろうな」


火の玉を避けるだけで反撃ひとつできないでいる。


一介の魔導士が魔導師に勝てるはずがない。


さらに上位種すぎるフェニックスとマンドラゴラだ。


勝ち目はない。


「目の前で死ぬと分かっていても助けようと思う気持ちがまったくないのは薄情なのだろうな」


「助けたいと思わせる魅力がない彼らが悪いのではないの?」


「危ないと思えば助けるのは普通だが戦場においては死することが誉れだと思う人種もいる。一概には言えないのではないか?」


「そうだな」


周りの魔導士たちが次々と死んでいく中で逃げることもせずに戦うのは死に場所を選んだからだとも言える。


魔導士が最後まで戦った証なのかもしれない。


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