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ターン16

「フェンリル、ありがとう。用事が終わったら王都の上等なお肉ご馳走するからね」


「俺のフェイドを誘惑するな」


「誘惑じゃないわ。お礼よ、お礼」


何をするのか聞かなくても分かる。


地獄の番人であるフェンリルが何を望まれているのか。


ワイバーンの獲物である人間を横取りしろということだ。


「気づいたみたいね」


「でかいな」


「フェンリルもね」


庭で丸くなって眠っているワイバーンの前には簀巻きにされたモルドルタが転がっていた。


逃げようとしているが上手くいかないようだ。


「フェンリルもいつも小さくなっているのね」


「俺も初めて知った」


「しかも恰好よくなってるし」


小さいときは幼い感じの顔だったフェンリルが逞しくなっていた。


大きさが重要なのは間違いない。


「でもワイバーンは攻撃して来ないわね」


「そうだな」


「フェンリルの方が格が上ってことよね」


簀巻きのモルドルタを咥えるとワイバーンから引き離す。


助けるのはここまでだ。


これ以上は知らない。


「お前たち魔導士だろう。あの魔物を倒せ」


「いやよ。だいたい主持ちの魔物を倒す意味が分からないわ」


「あの魔物は俺を食おうとしたんだぞ」


「人だって鳥や牛を食べるじゃない。それと何が違うのよ」


人が食べ物に好みがあるように魔物にもある。


簀巻きにされて転がされている間に何度か齧られたのだろう。


「助けてあげたんだから感謝しなさいよ」


「俺が何をしたというのだ!いきなり人を簀巻きにしよって」


「魔導士を下に見る発言をしたからでしょ!それが魔導師様の逆鱗に触れたのよ!」


「魔導師様、だと?」


魔導士を下に見ていても魔導師を下に見ることはできない。


まず教えられる。


だが魔導士と魔導師の違いを正確に知っている者は少ない。


「魔導師ラキア様で良かったわね。他の方なら即死よ即死」


「俺は魔導師様を侮辱した覚えはないぞ」


「魔導士すべてを率いることができるのが魔導師様なのよ。自分の手駒を侮辱されて怒らない指導者はいないわ」


長年、魔導士を続けると実力とともに地位も上がる。


魔導師と呼ばれるようになり、畏怖を与える存在になる。


絶対的な権力というものを持つことになる。


残忍性は魔導師というものを守る一種の武器だ。


「とにかく大人しくしてなさい」


「・・・待て!フェイド」


ワイバーンの首にいきなり噛みついた。


牙が食い込み血が溢れ出す。


「フェイド、放せ!」


「ちょっと何があったのよ」


『魔物としての格は上でも子供だと言ったまでのこと』


「えっ?ワイバーンって喋るの?」


「知るか!それよりフェイド、放せ」


ジェイクに怒られて尻尾と耳が垂れ下がっている。


口の周りが血で汚れているが気にすることなくジェイクは顔を掴む。


「主持ちに噛みつくなって言ってんだろうが!どれだけ面倒なことになると思ってるんだ!」


『これしきの傷はすぐ塞がる。そう怒ってやるな』


「いや、申し訳ない。主である俺の責任でもある」


『それと餌として出された人間は好みではない。我としてはもう少し脂がのった肉が好みだ』


「ひぃっ」


「好みじゃないと言われて怯えてどうする」


「朝早くから騒がせてごめんなさいね」


『かまわん』


ワイバーンが話せるのは年嵩なだけだ。


フェンリルもケットシーもあと数十年もしたら話せるようになる。


でもスライムは話せないと思う。


「ガキがガキと言われて怒ってどうする!」


『主のためよ。それよりも良い魔導士と出会ったのぅ』


「どういうことかしら?」


『言葉通りよ。魔物だからと言って恐れることなく、駒として扱うことなく』


「あたりまえだろう。フェイドは俺のパートナーだからな」


その当たり前のことを忘れている魔導士も多い。


そして魔導師も。


『そろそろ完全に陽が昇る。その男を連れて離れたほうが良い』


「ありがとう。そうさせてもらうわ。行くわよ」


簀巻きのままの引き摺られる。


命は助けたが待遇までは改善するつもりはない。


それにワイバーンは初めから食べるつもりがなかった。


これは結果論だが必要は無かった。


「それで王様にはいつ会えるのかしら?」


「朝食後に予定しております」


「そう。それで私たちの食事はあるのかしら?」


「もちろん用意してございます」


用意はされていたが使用人が食べるものと大差はなかった。


豪勢な食事を用意しろとは言わないが賓客なら相応のもてなしというものがあるはずだ。


そこに文句は言わない。


おそらくは上からの指示であったり都合より早く来たから食事が無いからというような内輪の理由だ。


「どっかの国の三日三晩食べ明かす食事を用意しろとは言わないけど」


「まさか本当に余り物だったとはな」


「冷めていたしな」


なかなか用意されなかったことで空腹を訴えていたが出てきたのは少量で冷めていた。


なんの嫌がらせかと思うが黙っておく。


どうせ話を聞いたら出発する。


「王がお呼びでございます」


「すぐ行くわ」


食事が終わっても王の支度があるとか言われ昼近くになっている。


これが魔導師ならすぐに通されただろう。


「よく来た」


「・・・・・・」


「おい、王のお言葉であるぞ。返事をせんか」


「・・・発言の許可をいただいておりませんので沈黙にてお答えをさせていただいたのですが何か問題がありましたでしょうか」


「屁理屈を申すな」


「直答を許可する。して、そなたらに命ずる。これからも王都のために発掘に勤しむがよい」


ウィリーたちは魔導士ではあるが宝探しや遺跡には興味がない。


路銀を稼ぐためにしているだけだ。


命じられてするものでもない。


「お断りいたします」


「貴様、王の寛大な処置をなんだと思っておる!」


「私たちは王都の民ではありません。ここよりはるか北にあります水都の民です。他国の民に命ずることは国際条約で禁止されています」


「なら王都に骨を埋めよ」


「それもお断りします。お話は以上のようですので失礼いたします」


魔導士の中には国お抱えの魔導士になることを夢見る者がいる。


だが全員がそうとは限らない。


他国の民であるとしても王に真っ向から喧嘩を売ったことはすぐに知れ渡ってしまう。


仕事は激減することになる。


わき目も振らずに真っすぐに正門から出る。


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