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ターン14

旅費を国が負担すると言っても元は自分たちが収めた税であり立ち寄る町の人たちが収めたものだ。


無駄に使うのは気が引ける。


「会話は聞こえないでしょうけど、監視はいるでしょうね」


「そうだな」


「野宿とかできそうもないな」


本当に王都に向かうか報告係として使者の一部がそのまま残っている。


野宿をするのは彼らへの嫌がらせだ。


素人が簡単にできるほど野宿は甘くない。


「夜通し歩いても良いけど」


「そんな体力は無いだろうな」


「訓練所で徹夜で歩く訓練があったな」


「あったわね」


「そんなものがあったのか」


ジェイクは違う訓練所出身であるから習った内容も異なってくる。


厳しいところもあれば甘いところもある。


「魔物だらけの森を日暮れから日の出まで歩くのよ」


「運悪く群れに遭遇したら全滅だしな」


「引率もないしね」


いくら魔導士の卵と言っても連携を取れるわけではない。


何もなければ生きて帰り、魔物に遭遇すれば半分は死体になる。


仲間の死を前にしても帰るという精神力を養う訓練らしいが評判は悪い。


中には死んだ者の親が訓練所に文句を言うこともある。


「卒業できるのって十人くらいなのよね」


「はっ?」


「半分は訓練の厳しさに辞めていくが残りは死んで終わりだ」


「私たちの代で卒業して生きているのは誰もいないしね」


「それって」


ウィリーとアンヌ以外は死んでいるということだ。


魔導士は命を落としやすい職業だが同期が二人だけになるほど危険ではない。


現にジェイクの同期は百人単位で魔導士を続けている。


「訓練所と言っても実地で必要なことは何も教えてくれないわ。ひたすらに武術の稽古になるから」


「野宿も自分で考えてする。冬に訓練した奴の中には凍死した者もいる」


「劣悪すぎるだろう」


「でも入所金が安いのよ」


ウィリーの家は魔導士として有名だったから訓練所の方から入所してくれるのなら無料だと言われ選んでいる。


それでも成り立つのは一攫千金を夢見る者が多いからだ。


「魔導士になりたくても金がなければなれないからな」


「生まれ持って魔物に愛される人はいるけど訓練所を出ていないから協会に登録できないものね」


「協会に所属していないと依頼も受けられない。因果な商売だよな」


訓練所を運営しているのは魔導士協会だ。


どのランクの魔導士が少なくなっているかを把握して適切に人員を補充している。


「だから私たちがいた訓練所が成り立つのよね。環境が劣悪でも孤児でも払えるくらいの金額だもの」


「・・・夜が明けてきたな」


「すっかり徹夜したわね」


「監視は耐え切れずに寝たみたいだな」


このあたりの森は魔物が少ないことと温厚な魔物の縄張りだ。


ただ歩いているだけなら危険はない。


「このままおいていきましょ」


「都に行く必要があるのは変わらないからな」


「風邪をひくくらいだな」


「代わりに手紙を置いていきましょう」


雇われている護衛ではないから守るつもりはない。


目の前で襲われていれば助けるが報酬は貰う。


ウィリーたちはしないが報酬がなければ目の前で襲われていても助けることすらしない魔導士もいる。


慈善事業で魔導士をしているわけではないから利にならないことは極力しない。


「護衛くらい連れてくればいいのにね」


「まさか森を歩くとは思っていなかったのだろう」


「馬車も使わずに都まで二週間で王都に着くには森を歩くくらい考えついてくれても良いと思うのだけどね」


万が一に監視が追いかけて来ることを考えて比較的安全な道を選ぶ。


近くの町では幼いときに森の歩き方を教わるくらいだ。


魔物と棲み分けができている。


「何もなく王都に着いたわね」


「約束の日は明日だからな。今日は宿で休むか」


「そうだな。久しぶりに酒が飲みたい」


「魚もな」


二週間でたどり着くには魔物との戦闘を極力避ける必要があった。


だから起きている間は歩くことに専念した。


待ち合わせ場所を決めていなかったが王都に着いたことは知られている。


待っていれば向こうからやって来る。


「さすが王都だな。値段がほかの町の三倍だ」


「そして量は三分の一程度だな」


「これでマハラミヤの石を換金していなかったら破産だな」


「まさかマハラミヤの石ひとつが子爵位を買えるとはな」


大量に持っている石は王都ではまだ値崩れしていない。


罠が解除されてから多くの人が発掘に向かっているが石の硬さに苦戦しているようだ。


「・・・お待ちしておりました」


「約束の日は明日だと思っていたのだけど?まだ二時間もあるわ」


「・・・店主、支払いを」


「結構よ。施しを受けなければならないほど魔導士としての腕が悪いわけではないわ」


「王都滞在の間は不自由なくお過ごしいただけるようにと仰せつかっております」


「では、自分たちで払うことの方が不自由なく過ごせるわ。それとも私たちに不自由さを求めるのかしら?」


「・・・かしこまりました」


「あと、勝手に食事を終わらせているようだけど、勝手なことをしないでいただけるかしら?」


アンヌの逆鱗に触れたようだ。


さらに場所も悪い。


この食事処は魔導士や冒険者など流れ者が多い。


「良いぞ、ねぇちゃん」


「もっとやれ」


「よっ、いい女」


「ありがとう、正直な人は好きよ」


伊達に魔導士をやっていない。


若いというだけで囃し立てられる。


「約束の日より早く行かなければならないのかしら?」


「陛下はお忙しいのだ。お待たせするなど不敬であろう」


「私たちは賓客ではなかったのかしら?」


「魔導士ごときが賓客扱いされていることに誉れを感じるべきである」


命令されて迎えに来ているが魔導士という職業そのものが嫌いなのだろう。


上から目線が分かりやすい。


「誉れ、ねぇ。なら私たちのような平民では陛下の御前に並ぶなど恐れ多いことでございます、とでも伝えてくれるかしら?」


「最初から分を弁えておけば良いのだ。二週間も待たせよって」


ウィリーたちがいることで呼び出された使者は帰った。


アンヌが伝えた言葉をより曲解して伝えることになる。


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