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ターン11

「普通は入りやすいところを正面として罠を仕掛けるわよね」


「罠を解除するとしても多くの人間の目に触れることは避けたいな」


「裏にあるのが可能性として高いか」


アンヌは石を二つほど持って換金所に行く。


こっそりとウィリーとジェイクはベラニア遺跡に向かう。


アンヌの役割は換金することではない。


自分の姿を印象付けることだ。


「マハラミヤの石が二つもあるのよ!もっと高値がつくでしょ」


「これ以上は高値にできませんよ。こちらも商売です」


「どれだけ命がけで取ってきたと思ってるのよ」


「それが冒険者の役目でしょう」


「冒険者じゃないわよ。魔導士よ」


かれこれ三十分は押し問答をしている。


これだけ騒げば魔導士協会にも噂くらいは届く。


「この質の良いものを安値で買い叩く根性が間違ってるのよ」


「ではお引き取りを」


「そうさせてもらうわ」


純度の高さでは過去に類を見ないくらいだ。


それを二つも用意しているのだから換金所も喉から手が出るくらいに欲しい。


交渉決裂を言い出したのは換金所の所員だが悔しそうな顔をしている。


アンヌはさらに細かくしたマハラミヤの石を一つだけ落とす。


気づいてないフリをして外に出る。


三十分も営業妨害をしたのだからこれくらいはしておかないといけない。


初めから換金するつもりは無かったからだ。


おそらくは石を拾ってさりげなく売り飛ばしているはずだ。


「そろそろかしらね」


あの石を見せびらかして騒いだから近くの冒険者と魔導士がアンヌを狙っている。


簡単にやられるつもりは無いが用心しながらベラニア遺跡に向かう。


どうせ監視されている。


それなら騒ぎを起こして目晦ましにさせてもらう。


「たしかこの辺りに落ちてたのよね」


遺跡を取り囲む塀を覗き込む。


もちろん落ちていなった。


後ろの団体に聞かせるためだ。


これで塀を壊すなり色々としてくれる。


急いで姿を隠す。


こっそりと裏に回ると怪しい窪みを見つけていたウィリーとジェイクに合流した。


「今頃、表は破壊者で溢れかえってるわよ」


「よくやった」


「それで見つかったのね」


壁の中に例の単語の窪みがあった。


この他に怪しいところは無かった。


「ライム、頼む」


「いつ見ても不思議だな」


表で騒ぎが起きているうちに終わらせる。


スライムを嵌めて押すと振動とともに遺跡の壁に入口が現れた。


本当に罠が解除されたか分からないが石が欲しい彼らは何も考えずに突入する。


「入口が増えるとは考えなかったわ」


「叫び声は聞こえないから大丈夫そうだな」


「いろいろと壊している音はするけどな」


内部の構造も変わっているだろう。


これで魔導士協会の思惑は崩せたはずだ。


「ここから離れましょうか」


「そうだな」


「待て」


「勝手なことをしてくれたな」


魔導士協会の受付にいた女が背後にいた。


監視から連絡が行ったのだろう。


「まさか解除するための鍵を持っていたとはな。回収させてもらうぞ」


「砕いて使えなくしたからな」


「それを信じるとでも言うのか?」


「信じる信じないは好きにすれば良いが後ろを気にした方が良いぞ」


遺跡内部の構造が変わったことと手当たり次第に破壊している影響で女が立っている近くで地割れが起きていた。


逃げなければ必ず落ちる。


ケガで済めば御の字というような状況だ。


「その手にはのらんぞ」


「せっかく忠告してやったのに」


「忠告?・・・なっ」


叫ぶことも出来ないまま落ちていった。


恐ろしいくらいの奈落の底だ。


助かることはまずないと見て間違いなかった。


「ちょっと騒ぎを起こしてもらうだけのつもりだったのだけど、後味悪いわね」


「そうだな」


「落ち着いたら助けに来よう」


ゾンビになったものは死体を残さないが罠にかかって命を落とした者はいる。


その遺体はどこかに存在する。


遺族に返すことは出来ないが弔うことはできる。



※※※



「魔導士協会の受付の人がいなくなって騒ぎになっているわ」


「遺跡が半崩落しているからな。俺たちも動けないな」


「だが崩落していながら死者がいないのは奇跡としか言いようがないな」


内部構造を把握しないまま好きなように破壊して石を持ち帰っているわりには死んだ者がいなかった。


ケガをした者はいるが全員が自力で帰還できる程度のものだ。


死者ゼロというのは語弊があるが、行方不明になり十中八九死亡している受付の女が見つかっていない。


「あの女は見つかっていないのよね」


「たぶん死んでいるだろうな」


「生きてても不思議ではないけどな」


あの図太さは生きていることを信じさせる何かがあった。


でも目の前で落ちていく姿を見ているから死んでいると思っている。


「この石も高価じゃなくなったし」


「道端の石と変わらないくらいにまで下落したからな」


「次はどうする?」


「地道に魔物を討伐するか」


魔導士や冒険者がベラニア遺跡に集まっているから魔物が増えている。


今ここにいない魔導士や冒険者も噂を聞けば来るだろう。


石なら大量に持っているから別の方法で金を稼ぐ。


「今なら高報酬よね」


「そうだな」


「よし、海沿いの町に行きましょう」


「理由は?」


「シルヴィに魚を食べさせたいからよ」


魔導士はパートナーを大切にする。


それが行動原理になることもしばしばある。


魚と聞いて機嫌が悪くなったフェンリルはふて寝した。


「ならリナジーはどうだ?」


「なにかあるの?」


「魚も肉も果物も集まる貿易の町だ」


ジェイクの行動原理もフェンリルだ。


誰からも異論がなければ移動するために準備をする。


今は外に出るために手続きや監視が厳しいから大人しくする。


下手に動いて拘束時間を長くしたくはない。


「下が騒がしいわね」


「何だ?」


窓から下を覗き込むと調査に行っていた魔導士協会の会員が走っていた。


大声で話すから十分に聞こえた。


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