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7 どこの世界にも格差社会がありますね

 結婚の話題は数年後に持ち越しになった。

 もう、この段階で私は勝った。

 

 リューナイにロリ様へのおばかアピールをしてもらい、並行して私は賢くなる。

 バカではなくなった私にロリ様はガッカリしてリューナイが婚約者に戻るはずだ。

 

 そして、私は予定通り神殿っぽい場所に行く。

 私はもともと誰かと結婚するなんて考えられない。

 居ても居なくても魔王を思い出して身構えてしまうので人を好きになることは、この先ずっとないかもしれない。

 十歳で枯れた気持ちになる私の分まで妹には恋愛を楽しんでほしい。

 若いうちに結婚する文化なら八歳の妹が大恋愛を経験するとしても不思議じゃない。たぶん。

 

 

 今日のランチも最高でしたと私はスレイヤーに自慢する。

 兄に言ったら冷たい目で見られるし、りゅーりゅーに言うのもおかしい。

 友達もいないし、ちょっとした日常のことを話せる相手がスレイヤーしかいない。

 迷惑かも知れないけれど執事なら仕事だと思って我慢してほしい。

 

 自室で浮かれていても誰にも迷惑は掛からない。

 

 

「私はいつまで毒見をするんでしょうか。スレイヤーさん、知っていますか?」

「……あなたの命がつきるまで、ではないですか」

「命がつきるって不死ですよ? 死にませんよ??」

「本当にそうお思いですか」


 

 質問に質問を返すのは会話が進まなくなるからダメだって聞いたことがある。

 でも、スレイヤーは平然とこういうことをする。

 その思い切りの良さを尊敬するべきなのかマナー違反を批難するべきか。

 

 勇者として不死だった私がなぜかこの家の子供として生まれ直しているので、不死にも限界があるのかもしれない。

 

 どうやって死んだのかは全然覚えていない。

 自分が死んだ瞬間はいつのものでも思い出したくないので深く考えないようにしている。

 必要な記憶は思い出そうとしなくても勝手にいつか甦るはずだ。

 思い出せないままの記憶はそもそも思い出す必要もないどうでもいいことだろう。

 

 

「仮に私が死ぬとして、それはいつです? スレイヤーさんはわかります?」

「あなたは不死であって不老ではない。年をとったら死ぬでしょう」

 

 

 考えても見なかった老衰。

 病気には絶対にならない。

 身体が巻き戻って病気の前の状態になるはずだからだ。

 でも、加齢による死は考えていなかった。苦しまずに死ねるならそれに越したことはない。

 

 そう考えてから首をかしげる。

 

 死んだ瞬間に死ぬ前の健康状態に戻るはずだ。

 普通に考えると老婆として長生きをする。

 加齢によるどんなことが原因でも私の身体は死なない。

 

 十四歳で以前の人生は終わった。

 それは思い出せる。

 私は十五歳になる前に死んだ。

 この世界に愛着を持つこともなく死んで、今の人生が始まった。

 

 カナリヤの人生もカナリ嫌だと思っているけれど、勇者よりもマシだ。

 人の形をしたものを自分の都合で傷つけなければいけないことは精神的につらい。

 りゅーりゅーの鱗を引っぺがして深呼吸をする。

 あたらしい柔らかなりゅーりゅーの鱗をつつく。

 ぷにぷにしていて癒される。

 

 私は勇者じゃない。

 以前は勇者だとしても今は関係ない。

 昔と今のつながりは私が不死であることだけ。

 

 

「あなたが思っている以上にあなたはこの国のために死んでいます」

「具体的に言いますと?」

「そうですね。実際に見られるのが一番でしょう」

 

 

 壷に入るように言われた。

 ダンボールに入って人知れず移動する人を想像して笑っていると強めに頭を押される。

 十歳はそこまで小さくない。頭が飛び出ていてもハンカチを置いて誤魔化してもらいたい。

 

 壷にりゅーりゅーが入るスペースがないので留守番をしてもらう。

 ガルルと不満気に鳴くりゅーりゅーを残して私は部屋を出た。

 スレイヤーが見せたいものとはなんだろう。

 

 

 運搬に使う台車はどこの世界にもあるんだと思いながら壷の中から廊下を見る。

 自分で歩かず周囲の景色が動いていくのは面白い。

 

 勇者の時はなんとも思っていなかったけど、この国はお城の中に街がある。

 

 国民がみんなお城の中に住んでいると表現するとちょっと違う。

 お城と表現する範囲が広い。

 

 デザインは違うけれどシンデレラのお城が王や王子や私が住んでいるとすると普通の国民はその他のアトラクションの場所を居住地にしている。敷地面積も含めてそういう感覚だ。

 

 王子であるロリ様がいる場所は静かだ。

 けれど、十分ほど歩くだけで市場のような活気のある場所に出られる。

 

 通称、庶民スペースは賑やかで人が多い。

 気を付けて歩いていても誰かとぶつかる。

 売り文句や値引き交渉なんかが大声で行われていて自国にもかかわらず異国情緒を感じてしまう。

 こんなに人がいたのかと驚きたくなる混雑にジェットコースターに乗るのに四十分待ちという案内を連想する。

 ご飯を食べるのも苦労しそうな過密状態。

 ロリ様たちがゆったりとスペースを使っているのとは対照的だ。

 

 国民全体の人口は知らない。

 でも、市場にいる人が全体の半分以上なら国としての規模は小さい。

 アトラクションの待ち時間を長くするほど人がいてもランドはあくまで千葉の一部だ。

 夢の国と言っても独立国じゃない。

 元々の世界にだって小さな国はいっぱいあった。

 だから、国全体の面積は千葉より狭い気がする。

 

 私の知らない地下なんかがあって、そちらの方が国のメインならこの考えは間違いだ。

 そんなアリの巣穴式の国なのかはともかく、目に見える範囲以外の土地はこの国のものじゃない。それは確実だ。

 

 王は高いところにいるもので王様に会いに行くときはお城の階段をどんどん登らなければいけない。

 結果、窓の外から見る風景は壮大なものになる。

 大きな湖が城の塀の周りにあるのがわかる。日本の城のお堀を思わせる水の配置に異文化交流を果たした気分になる。建築士の方に「いい仕事してますね」と言いたくなる。自分でもどこ目線なのか混乱しながらスレイヤーに湖の向こうの森に行けるのかたずねたことがある。

 

 答えは他国の敷地だからダメだというもの。

 小さな国だと思いながら、小さいのに生活水準は高い。

 発展途上国の貧しい生活は授業でもとりあげられたし、チャリティー活動にも何度か参加した。

 だから、どこか違和感があった。

 友達に見せてもらったゲームの勇者が立ち寄る街みたい。

 勇者が回りきれるだけの建物しか配置していない。国としての規模が小さい。

 

 

 私の見える範囲が狭すぎたというのはスレイヤーが見せてくれたものでわかった。


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