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12 文化の違いはとってもとっても大きいです

 考えた末、私はりゅーりゅーを抱き上げてロリ様の部屋を出た。

 驚きと制止の声が上がるのを無視する。

 

 どのぐらいの時間の猶予があるのか分からない。

 ただ確実に死の足音が聞こえる。

 何度も死んだ経験から幻聴ではないと信じられる。

 

 どうすれば助かるのかというのは私自身に死んだ際の記憶が抜けているので予想しかできない。

 状況証拠の当てずっぽうを繰り返すしかない。

 もちろん、兄やロリ様に相談して力を借りるのが正しいし結果的に早いだろう。

 きちんとした説明が私に出来たら苦労はしない。

 無理だからこそ廊下を走っている。

 

 周りから白い目で見られても「またアイツか」というノリでゆるされる立場にいつの間にかなっている。

 

 私というか私の家の立場は王と懇意にしている貴族という扱いだ。

 両親の具体的な役職や仕事は知らない。

 王子であるロリ様が食糧を小出しにして民を適度に飢えさせていることを思うと両親も国の闇を背負っていそうで知るのが怖い。

 必要になったら兄か、兄の命令でスレイヤーが説明してくれるだろう。

 

 

「スレイヤーさん、何かおかしなことはありませんか」

 

 

 いくつか階段を下がってスレイヤーが待機をしている部屋に転がり込む。

 私が毒見をしていないときに時間をつぶす部屋だ。

 具体的に話さなければ兄は動かない。ロリ様は場合によってはどうにかしてくれるかもしれないが、頼るのは最後の手段だ。

 

 まずは私が言わんとすることを一番汲み取ってくれるスレイヤーに話を聞くのがいい。

 それで私を巻き込んだ王子暗殺計画が未遂に終わったこともある。

 スレイヤーのことを私は信頼していた。

 冷たい視線はときどき怖くても出来る男だ。最高の執事だ。そう思っていた。

 

 

「この変態っ!!」

 

 

 スレイヤーは私の下着を頭にかぶっていた。

 そんな人だなんて思わなかった。死ぬか生きるか切羽詰まった状態なのに吹き飛んでしまう。

 クールな真面目な執事がまさかの変態。

 こんな裏切り、あんまりだ。

 スレイヤーの年齢は知らない。見た目は二十歳でも十四歳の兄だって二十歳を超えているように見える。

 兄との会話を聞いている限りだと兄よりも年上だ。

 そんなクールな仕事男が十歳の女の子の下着を頭に被っている。

 

 

「パンツがほしいなら、パンツくださいって本人である私に言ってください!! なんでこういうことするんですか!? 泥棒ですよ。下着ドロはいけません」

「下着の強度を確認をさせてもらっているだけです」

「そんな言い訳が通用すると思ってるんですか!?」

「事実です。あなたの下着が欲しいと思ったことはありません」

 

 

 私が知らないだけでこの世界では執事が令嬢のパンツを頭にかぶるものなのか。

 職務に忠実なスレイヤーを知っている分、ここでの常識だと言われると納得してしまう。

 文句を言っている私がおかしいとスレイヤーの目が言っている。

 

 堂々としているスレイヤーにどこか安心して私は膝から崩れ落ちる。

 

 一分一秒惜しいかもしれないのにビックリしすぎて立ち上がる気力がない。

 りゅーりゅーが私を心配するように床にびったんびったん叩きつける。

 スレイヤーを変態扱いする私が変だと言われる世界。割り切らないといけないんだろうか。

 

 

「どうされたんです? お食事は終わりましたか?」

「私の服が並べられているのはどうして?」

 

 

 布の上にパンツ以外も一式、私の服が置かれている。

 この国は服に統一感がない。

 あくまでも私の印象としての統一感のなさだ。

 言葉に関しても基本的には日本語なのに一部の固有名詞や人の名前は中国語とドイツ語を合わせたような発音で非常に難しい。破裂音と濁音いっぱいは一回で聞き取れないし発音しにくい。

 

 ドレスと言ってもロリータ全開なエプロンドレスからインドのサリーみたいなものがある。

 

 男性は基本が大人の紳士調。キッチリ、カッチリとしたスーツ姿か軍服っぽい制服。Tシャツとかはない。

 貴族階級以外は国からの支給品。

 逆にいえば貴族たちはオーダーメイドの服を着ていることになる。

 

 お金の出所や取り引き方法を考えると王子であるロリ様を思い浮かべることになる。

 

 私の服は下着も含めてオーダーメイドの特注品。

 元々、量産体制がないから工場製品がない。

 

 

「あなたの衣類には刃を通さない加工をお願いしていました」

「そうだったんですか。お高いんでしょう?」

「死なないならそれが一番、そうですね」

「痛み入ります」

 

 先日のリューナイによる事件で服の防御力に疑問が出たらしい。

 いくら加工していてもあの状態でナイフが突き刺さらないのは魔法の服だ。

 売り文句と違うのでスレイヤーはぼったくられたと感じて、いくつかの服を下着を含めて確認してくいる最中だという。

 いやらしい意味がないという言い分はスレイヤーを信じるしかない。

 

「……でも、スレイヤーさん。頭にかぶる必要はないのでは?」

「毒ガスが発生した場合、いざという時に口を覆って使用するらしいです」

「あぁ、そうでしたか。実際に使ってたしかめたんですね」

 

 だとしても、下着を被るのはいただけない。

 執事として私のもしものときを考えて動いてくれているにしてもデリカシーがない。

 この世界に元々ないのかもしれないと思い至って肩を落とす。

 気にしている私が繊細で面倒な子という扱いになるだけだ。


 ここは耐えるしかない。


 アメリカかどこかでガスマスクがブラジャーだか、ブラジャーがガスマスクだかが商品として売り出していた。

 下着といういつも身に着けるものが緊急避難に使える道具になるのはいい考えだ。

 そう思って閃いた。

 

「スレイヤーさん、最近燃えやすいものがこの近くの部屋に持ち込まれたりしていませんか?」

 

 この部屋の周辺は私が暇つぶしに転々とするので休憩用に家具があるが、ほとんど倉庫だ。

 どこかの国から手に入れた荷物を借りに置いたりする。

 ときどき驚くような劇物が雑に放置されている。私が死なないからかロリ様から注意もされない。

 それとも、私が死ぬことによってどの程度のレベルか荷物の危険度をはかっているかもしれない。そういった打算的な部分が食糧の件から見えてしまう。前は私の被害妄想や慣れない深読みだと呆れていた考えも事実である可能性が出てきた。

 

「つい先程、廊下を荷物が通り過ぎました。それが燃えやすいかまでは確認できておりません」

「これから一緒に確認しに行きましょう。戦闘準備をバッチリして」

「準備はしますが、戦闘はしません」

「あくまで執事だからですか?」

「するのは戦闘ではなく殲滅です」

 

 私の下着を頭に被っていた人とは思えないキリっとした表情のスレイヤー。

 いまだに実は変態が言い訳をして無知な私を騙そうとしているのではと疑っていた。

 スレイヤーを疑ったのが恥ずかしくなるぐらいにスレイヤーは私を信じてくれていた。

 

「あなたが自主的に戦おうとするのは自分か誰かの生命が脅かされているからでしょう」

「その通りです。猶予がどのぐらいあるかも、規模もわかりません」

 

 ふつうなら私のあいまいで根拠のない発言で動くことはできない。

 でも、スレイヤーなら一緒に私が死ぬ原因を排除してくれる。そう、信じられた。

 いつの間にか広げていた服を片付けたスレイヤーが謎のバッグを持って部屋から出ようとする。

 準備が早く手際が良い。

 

「あなたを監視するのが仕事です。監視対象が居なくなったら困ります」

 

 私が死なないように手を貸すのも仕事の内だとスレイヤーは言ってくれる。

 よくできた執事だ。



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