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11 とても原始的な分析の仕方です

 生き返って、目を覚ました私が一番初めにしなければならないことはいくつかある。

 

 原因だろう物質の特定と再現だ。

 再現ってどういうことなのかと言いたい。

 むかしは有り得ないとドン引きした。

 

 つまり私が立てた仮説を立証するためにもう一度死ぬのだ。

 

 今回なら赤い色のベリーソースっぽいものが毒物なら、致死量はどのぐらいなのか、かたまり切っていない牛乳ゼリーを先に胃に入れていない場合はどうなるのかなどを確認する。

 

 赤いソースが犯人で単体摂取で危険かどうかを見るのは仕方がない。

 胃の中で別々の食品が反応して死ぬということがあるので必要なのはわかる。

 でも、私が食べた状況を分解して検証していくのはだいぶ無茶だ。

 細かく検証するのは言い方を変えると複数の食べ方をして私が何度も死ぬということになる。

 

 死なない方法を見つけるわけじゃない。

 こういう食べ方をしたら確実に死ぬという分析を実証するためにロリ様の指示で私は毒だと判明しているものを口にしないといけない。

 毒見ではなく実験にしようされるモルモットやマウスのようだ。

 

 今まで遅行性の毒やしびれ程度の軽い症状はなく、いつも血を吐いたり、もがき苦しむ痛みを感じたりするひどい毒が多い。

 

 たしかにこんな毒物は食料として取り入れる人たちはいないから大安売りかもしれない。

 むしろ、品物はタダで運搬に費用がかかりそうだ。

 

 湖の向こうにある森で大量に取れたりするんだろうか。

 それなら、どうにかして食べようと思うのも納得できる。

 

 

 地道でとても原始的な分析をロリ様と兄がする。

 私は小竜のりゅーりゅーを撫でながら分かる範囲で返事をする。

 身体のどこにどんな反応が出たのかは私しか伝えられない。だからなるべく協力をしている。とはいえ、あまりにも死んだときの症状を思い出そうとすると精神的にどんでもなく不調になる。

 

 顔色を悪くする私にロリ様は自分の推測が正しいのか再現を頼んでくる。

 軽くあかるく十歳に死ねと言ってくる十四歳の王子は国のことを考えているかもしれない。

 国や自分の利益や探究心を満たそうとしているロリ様の姿は王子として正しいだろうし、十四歳なら年相応だろう。

 

 ロリ様から恋愛的に好かれていると思えないのは私の扱われ方がときどき道具っぽいからだ。

 今回のように「こんな食べ方をしてくれ」と直接的な死の宣告をするロリ様に遠い目をする。

 好きな相手にこんなことを言うものだろうか。

 

 王子からすれば毒見は使い捨ての道具かもしれない。

 今まで悲しいとは思わなかった。

 せつないというかさみしさはあった。

 生き返っても死んだことによる不安感がある。生きていて良かったよりも本当に自分は生きているのかと考えてしまう。それはこわい。死んでいるのか生きているのかわからなくなるのは嫌だった。理由はない。変な緊張状態と気分の悪さに冷や汗が出る。

 

 

 ガルルとりゅーりゅーが鳴く。

 私は大丈夫だと教えてくれる。

 りゅーりゅーの鱗をはがして気分を落ち着ける。

 一枚、二枚、三枚とはがすと死にたくない、毒を飲みたくない、全部を放り出したい、そういう気持ちが薄くなる。

 あたらしいぷにぷにの鱗をプッシュして生きていることの素晴らしさを噛みしめる。

 

 そして、私は食べ合わせによる症状の違いや毒の破壊力の確認作業をする。

 

 

 今回は変わり種の成分なのか検証が長い。

 四回死んでさすがに五回目はイヤだと思った。

 りゅーりゅーを抱き上げて背中を撫でて違和感。

 私がはがした古い鱗がついたままだ。

 

 りゅーりゅーの鱗は放っておけば時期が来れば自然と外れる。

 あたらしい鱗のぷにぷにの感触を味わいたいこともあって私は撫でていて外れそうな鱗があればはがしている。

 痛みはないようだし、りゅーりゅーも嫌がらない。

 ロリ様の部屋や廊下に鱗を落とすわけにもいかないので鱗はがしは、手に癖がついている。

 

 鱗がはがれる時期なので今は撫でるたびに何枚か鱗をはがしている。

 ちょうど先ほど三枚はがした覚えがあるのにりゅーりゅーにあたらしい鱗はない。

 すこし引っ張れば外れそうな鱗は三枚ほど。

 

 ロリ様と兄の議論は平行線で堂々めぐりしているのだと思っていた。

 同じことを二人して言い合っている気がしたけれど、勘違いではなかった。

 

 ほんのすこしの時間、私は過去に戻っていた。

 たぶん四回は死んでは時間を遡っていた。

 

 通りでロリ様が一度試したことをもう一度しようとするわけだ。

 兄が「なに言ってんだコイツ」みたいな顔をするのは私が大人しく言うことを聞いて死なないせいだろうと思い込んでいた。被害妄想だ。

 ロリ様と兄からすれば私は一度しか死んでいない。

 だから、二人におかしな顔をされた。

 

 この状態になるのは初めてじゃない。

 私の不死の力は死をなかったことにしてくれる力だ。

 自分の身体の時間だけではなく現実の時間も巻き戻して私を死んだままの状態にはしておかない。

 

 ただこの世界はタイムトラベルなんかの考え方がない。

 SFの単語は通用しないので説明がむずかしい。

 

 現実の時間を巻き戻すレベルの死が私にやってきたとどう言えば伝わるのだろう。




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