第一回 注文
「わぁー・・・・・・。圭、これ見て」
「高級シルク生地のチャイナドレス?ってこれ5万もすんのかよ。絹ってたけーな」
「ねぇこれ欲しくない?」
「いらん。だってこれ無駄に高いじゃん」
「ユニフォームと思って買えば安いもんだよ」
高いわっ。高すぎるってーの。いまどきのチャイナ服ってココまで高いのかよ。
「圭。部費ってどんくらいあったっけ?」
知らんわ。大体、部費についても詳しくわかんないし。
「ま、どうでもいいけどね。そーれ、ぽちっとな。って古いか・・・・・・って、えー?個人情報を記入しないといけないの?めんどくさいなー」
おいおい。そういうことするから個人情報は流出してくんだぞ。・・・・・・っておいまて、バカバカバカ。なにしようとしてんだ。
「お前なに、はやまってんだよ。誰の金で買おーとしてんだよ」
「やめて、見ないで、近寄らないで。今スリーサイズを記入してるところなんだからさ」
いや、やめるのはお前の方だろ。人の金で、勝手になんか買ってんじゃねーよ。
「だいたい、スリーサイズなんか記入したら、『貴女の胸が小さすぎるために、服が作れませんでした』的なメールが来るぞ」
「えっ、嘘。マジで?」
「嘘だ。そんな店あるか。だいたい向こうはプロだぞ。職人だ。職人ってのはな、どんなに胸の無い客でも意地で服を仕立てるんだよ。その、何だ。プライドって奴でな」
「へぇー、そうなんだ。よかった――」
んなわけあるか。なぜお前はそれを信じる。胸なんて、服仕立てんのに関係ないはずだ。たぶん・・・・・・。
「ねぇ圭。見てみてみてー」
今度は何だ?
「到着までに10日はかかるんだってー。意外と早いね。楽しみだなー」
「お前っ、なに申し込んでんだよ。そんな大金誰が払うんだよ」
「だいじょーぶだよ。サイズが合わなくても半値でとっかえてくれるから」
あぁ、それなら良か・・・・・・ねーよ。どこが大丈夫なんだ?ちっとも大丈夫じゃねーよ。だいたい、返品ぐらい無料にしろよ。しかも、半値でも万は軽く超えるぞ。おこづかいレベルをはるかに凌駕してるって、それ。
「でさ圭。私いい事思いついたんだよねー」
「あぁ、めんどくせーな。わかった、百円で聞いてやる」
「失礼なー。これでも私、小学校の頃に『お前の発想はエジソン級だ』って言われたんだからねー」
お前、先生に向かってなに言った?
「と、言うことで。圭、一緒にバイトしよ」
いい事ってバイトかよ。だいたいなんで俺まで、お前の為にバイトしなくちゃなんないんだ。
「心配しなくてもいいよ。一人当たり30時間も働けば十分払えるから」
何で負担を山分けする。俺とお前で、1対9でも俺が多いと思うぞ。だいいち、二人で60時間だろ。あと12時間働きゃ、アルトバイエルンが燻製しきるぞ。
「さてどこにしようかなっと・・・・・・あーっ、いいとこ見っけ。圭、バーミヤンにしよ」
えっ、何で。あくまでも、俺の発言権はなしか。
「で、どこにあんだ?」
「ん、川越だよ。知らない?川越って結構近いよ」
そんなお前専用の無駄知識なんて知らん。川越とか遠すぎるだろ。下手すりゃ、日当てより交通費の方が高くつくぞ。
「何で川越なんだよ。バーミヤンとか近くにもあんだろ」
「だってー、近くにあるのは皿洗いばっかなんだもん。それに引き換え川越のお店は、ウェイターが出来るんだよ。すなわち、チャイナ服が着れる。お金も貯まってチャイナ服も着れる。まさに一石二鳥じゃない」
そんならバーミヤンに就職しろ。そこまで意気込めば、たぶんバーミヤンも雇ってくれるだろう。
「だいたいチャイナ服買うんだろ。自分のものになりゃ、いつだって着れんだぞ。バイトならマックで十分だろ」
「ふっふっふ。圭、あなたは甘い、甘すぎるわっ。バイトがマックだなんて、一般人が陥る思考回路そのものじゃない。いまどきバイトといったらダイエーよ。ソフトバンクになった今でも、応援感謝セールやってるわ」
「あぁもううるさい。だいたい俺はやらんぞ」
「えー、わかったよぉ。ダイエーでいいからさ。一緒にバイトしよ。1人で60時間もバイトできないよ。ましてやか弱い女の子なんだよ。ね、おねがいっ」
手を合わせてずいずいと詰め寄ってくる。そんな目で見るな。
「あぁもうわかったよ。めんどくせーな。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」
「さっすがぁ。ありがとうね。後でコーラおごるよ」
――たく、こいつの笑顔を見てる、なんかもうどうでもよくなってくる感じになった。実際はどうでもないことなんてこれっぽちも無いけど。
あと10日か。ま、こいつとなら楽しくやってけそうか。全ては、由加里のチャイナ姿を拝むためにってね。