分岐点
今回も短めです。
すいません。
人々のざわめき。幾人もの人が一箇所に集まり緊張した面持ちをしていた。豪華な服を身にまとった恰幅の良い男達やドレスで着飾った女達。質の良い生地を使った服を身にまとった異世界の勇者達。その誰もが一点を見つめている。それは人族の王、アヴァリティア王国現国王ガルシア・アヴァリティアの存在。
彼等は王の言葉を待っていた。先日、勇者達が行った初ダンジョンの経験は最悪のものとなってしまい、心に深い傷をおった彼等はダンジョンに潜ったあの日から数日間ずっと部屋に篭ったままだった。名目上休息という形で公式に休んでいた彼等は、王の命により謁見の間へと足を運んだ。
皆が固唾を飲んで見守る中、王の威厳ある声音が静寂を破る。
「皆の者、よくぞ集まってくれた。皆も察しがついていると思うが、これから話すのは先日のことについてだ」
誰もが疑問に思っていたこと、それは勇者の今後について。
彼等は死というものを間近に体験してしまった。今までそんなものとは無縁の生活を送ってきた彼等にとって先日のことは戦意を喪失するほど強烈なもの。心に傷を負った彼等がたかが数日、部屋で休息をとったからといってそう簡単に治るわけがない。
だがしかし、それはこの国の人間にとって死活問題となる。自分達は勇者達の様にチート能力を持った存在ではないのだから魔族に攻められたら一瞬で死んでしまう。そんな思いがその場を支配する。
戦いたくない者と戦わせたい者。
この場はそれを決めるために用意された舞台。故に王は選択肢を出す。
「勇者達よ、我は勇者達を招いた者。我国のために戦いを強制するつもりはない。しかし、我は王だ。我には国民を守る義務がある。だから、今ここで選んで欲しい。この国の為に戦ってくれるかどうか」
王の提示する問いに答え、選ぶのは勇者達。
しかしそんな質問、すぐに返事など出来るはずもない。彼等の時が止まる。
「もちろんここで拒否をしてもらってもかまわん。戦いたくない者を無理矢理戦地に送り出すことはしない。それに、これまで通りここに住んで貰ってかまわん。拒否をしたからと言って待遇を変えるということはせん」
その場を支配するのは静寂。
彼等は誰かが動き出すことを待っていた。そして時は動き出す。
「わかりました。俺は戦います」
それはクラスのリーダー的存在である帝の言葉。静寂を破る凛とした声。
「俺は、戦います」
ーー賽は投げられた。
貴族達の遥か後方からきらりと光る何かが投げられる。それはまっすぐ獲物を狙い飛んでいく。しかし獲物は察知し自身の身代わりである盾を用意する。
「え? お、おい!? 嘘だろ!?」
「悪いな家畜。なんだかわかんねぇけど俺の為に犠牲になってくれ」
その場にいた全員が混乱する中、獲物は盾を犠牲にし、盾は突然のことに驚愕し、投げた者は予想と違う展開に焦り、一人は笑いを歪めた。
そして同時に盾は消えた。跡形もなく一瞬で。
「なっ!? お前達! そこの者を取り押さえろ!!」
しばらく誰もが何も出来ず、理解すらしていなかった。
しかし事が冷め、冷静になった王は投げた者を捉える為、貴族達の遥か後方にいる女を捕らえるよう命令した。王の命により我に返った王直属の親衛騎士団。脇に控えていた彼等は一瞬で陣形をつくると女を囲む。その所業は流石王国一の親衛騎士団といったところ。
数分後すぐに捕まえられ牢に入れられた女。
「あの状況下で自分の仲間である異世界人を盾にするとは勇者も悪だな」
それは誰の声だったか……。
騒ぎで混乱していた彼等にその声が届くことはなかった。