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逃亡

ちょっと短め。

 叫び声。ぶつかる音。そのどれもが絶望の中で響く。


 基本ボス単体しかいないボス部屋は、戦闘専用に作られている。一階層ごとに長いフロアがありそこで探検をしながら階段を探すのではなく、ただ広い空間が広がっているだけの構造をしている。そのため逃げやすいといえば逃げやすいのだが、ここでは戦闘経験が今日初めての勇者達がたくさんいる。たとえチート能力を持った勇者だったとしても冷静さをかいてしまえばただの子供。冷静さをかいた彼等が我先にと階段に向かってしまえば狭い部屋の中、混雑してしまうのは明白。無論自分のことしか考えていない彼等は誰がどこで怪我しようが関係ない。そんな状況を魔物が待っていてくれるはずもなく、グレートボアは階段付近へ突進を繰り出した。


「うわっ!」

「どいて! どいてよ!!」

「邪魔だ! どけぇぇーーー!!!」


 階段付近。すなわち一番人が多かったところに魔物が突進してきたのだ。大多数の者は周りの人間を押しのけて助かろうとする。そんな状況下で怪我人がでないはずもなく何人かの勇者達が怪我をした。この時、怪我をしただけで死人がでなかったことは奇跡に近いものだった。しかしそれでも心におったダメージは深く。もう駄目だと彼等が死を覚悟したその時、グレートボアの目の前に立ちはだかる者がいた。それは王国騎士団長アルターの姿。彼はこれ以上勇者達を傷付けられないようグレートボアと勇者達の間に立ちはだかり的確な指示をとばした。


「今から俺が時間を稼ぐ。お前らはその間に階段に向かって逃げろ!! 大丈夫な奴は怪我をしている者を助けろ!!」


 この状況下においてのその判断。それはさすが騎士団長と言う他ない判断力だった。それはこの危機的状況で最善の方法。これで逃げ切れるはずだった。しかしそれは命令を聞くものが団員であったならの話。それかあるいは経験豊富な冒険者だったら良かったのかもしれない。けれどこの場でその命令を聞くのはどちらにも属さない日本の学生。自身の生命が大事な彼等は再び我先にと階段を目指していく。

 怪我人のフォローなど忘れて。


「た、たすけて!」

「ヒィ! まだ死にたくねぇ!!」

「やだ。お母さんお母さん!」


「おい。大丈夫か? とりあえず俺に掴まれ」


 その場で足を負傷し動くことが出来ない者。

 腰を抜かして逃げることが出来ない者。そこに残されたのは様々な者達だった。我先にと逃げていった彼等に置いていかれ、助けてくれと泣き叫ぶしか出来ない者達。そんな中、彼等にとって救世主と呼ぶべき存在が現れた。それは自分達が散々罵り虐めてきた悠の存在。


「神月!? おまえ……」

「か、家畜!? なんで……」


 今まで自分達が虐めてきた悠が助けてくれるとは夢にも思わなかった彼等は、驚き疑問をぶつける。しかしそんな疑問も悠には取るに足らないことではやく助けようとする。


「んなこといいから。はやくしろ! 時間が無いんだから」


 悠は残っていた負傷者を安全地帯である階段の向こうまで送るとまたボス部屋に戻り負傷者や動けない者を送ってを繰り返した。途中、戻って来た新谷と清水と協力しながら階段の向こうまで送っていく。特に清水に至っては回復に特化したチートの持ち主。彼女のユニークスキルである『微笑の女神』を使って負傷者を治し自分達で歩かせながら退散していった。彼女のユニークスキル微笑の女神は対象の怪我を一瞬である程度治すというもの。特にすごい大怪我というものでなければある程度は治ってしまう。


「神月君。ありがとうね」


「神月。助かった礼を言う」


 全員を助け終わった二人は悠に礼を言い。アルターの邪魔にならないよう移動する。


「全然大丈夫。元々やってたの俺だし俺の方こそ礼を言うよ。ありがとう。二人の協力がなかったらこんなにはやく終わんなかったよ」


 彼女らの礼に悠は逆に感謝の意を示す。悠は言葉だけでなく本当に二人に感謝していた。何故なら彼女ら二人は悠のいじめに加担しない存在であったから。それどころか二人は悠に対するいじめの存在を知らない。だからこそ感謝していた。ここで救助活動するのがいじめに加担している者だったなら悠に協力などしなかっただろうから。悠はここで現れたスケットが二人で良かったと心底思っていた。


「アルターさん!! 全員退散しました!」


 ボス部屋のど真ん中で未だ勇者達を逃がそうと戦っていたアルターは、悠のその声で自身も退散するため階段に向けてゆっくりと後退しながら下がってきた。退散する時も絶対に背中を見せないその姿に騎士団長としての一面を見つける。ある程度階段に近付いた彼は、扉を閉めるタイミングをはかっている悠達のもとへ一息に走り9階層のフロアへ退散した。悠達はタイミングよく扉を閉め、ここでようやく安堵のため息をついたのだった。



 ***




「なるほど。詳細はわかった。下がって良いぞ」


 あれから一晩たち、王国に戻り勇者達を各自部屋に送り届けたアルターは謁見の間にて先日のダンジョン内でのことを報告していた。

 自身がついていたにも関わらず勇者達に怪我をおわせ心にも深い傷をつけてしまった。当然処罰を受ける覚悟で報告に来たのだが、案外王の返答はあっけらかんとしたものだった。


「あ、あの、陛下。私への処分はいかに?」


 当然正義感の強い彼としては処罰がないなど納得出来るはずもなく。


「処分は特にない」


「しかし……!!」


 特に処分は考えていないという王にアルターは再び食い下がるが、脇に控えた大臣の睨みにより口を閉ざす。王からの視線も少し煩わしいものになり、自身の地位の低さを呪いながらその場をあとにした。


 アヴァリティア王国は自身の地位と権力がものをいう国。王の命令は絶対であり、何よりも優先させるもの。反論など万死に値するといった絶対君主制。幼少からそう教えられてきた国民は王に対して反論する意思をもたない。むしろそれは一種の洗脳といったほうが妥当かもしれない。そんな国で生き抜いてきたアルターもやはりアヴァリティア国民。王には反論出来ずその場をあとにしたのだった。

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