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練磨の洞窟

やっと追いつきました。

評価など随時受け付けております!

「よお、家畜。少しは強くなったか? 俺達の邪魔だけはすんなよな」


 ガタンゴトンと揺れる馬車の中、現代社会ではまず乗ることはない初めての体験に少し心が浮き足立っていた悠。そんな彼にいやらしい顔で話し掛ける男がいた。それは悠と一緒に異世界へ転移してきたクラスの最上位者、帝だった。


「おいおい無視か? 今日はおまえにとって楽しい一日になるだろうからわざわざ話しかけてやってるのによ」


 端末が起動した日から一週間。謁見の間でのことから二週間。今日は帝達彼等が初ダンジョン練磨の洞窟に潜る日であるとともに悠のこれからが決まる大事な日でもある。

 練磨の洞窟とは初心者用のダンジョンで、訓練兵などが初めて実戦を踏む場所でもある。しかしひとえに初心者用ダンジョンと言っても、魔物は存在するし生死に関わるような危険な場所である。


「おいおい。せっかく話しかけてやってるのにまた無視かよ。家畜のくせになめてんの? 燃やすよ?」


 悠がずっと黙っていたことが気に入らなかったようで、帝は自分の適正である火の魔法で小さな火玉をだし、それを悠の顔近くに向け脅した。一方悠はあれから一週間ずっと開放条件を考えてみたが、わからなかったためスキルは今も鑑定と言語理解だけだ。もちろんチートをもった帝に悠が勝てるはずもなく、どうしようかと内心焦っていると今回のダンジョンに同行するアヴァリティア国親衛騎士団団長アルターが悠達全員に声をかけた。


「おいおまえ達! 練磨の洞窟が見えてきた。気を引き締めろよ!」


 勇者達の師でもあるアルターは他とは違いフレンドリーな対応をしている。そのおかげか勇者達もアルターには比較的心を開いており、彼の存在を頼りにしている。もちろんそれは悠にも適応されていて、城内ですれ違った時なんかにはフレンドリーに挨拶をしてくれる。


「ちっ。また後でな家畜」



 ***




火球(ファイアーボール)!!」

水壁(アイスウォール)!!」

風波(ウインドウェーブ)!!」


 次々に魔法が飛び交う光景。そこには形容し難い美しさがあった。しかしそれはひとつひとつが殺傷能力を持った魔法。つまり何かにぶつかれば何かは消滅する。その生命は消え、赤い鮮血を滴らせながら消えていく。しかしそんな赤でさえも美しさを演出する。そんな矛盾で彩られた美しさと残酷さを併せ持つ世界。そこにはそれがあった。


「おい! もう少しで10階層だ!」


 チートを持った彼等は自分が死ぬことなど考えず進む。そしてとうとう、残りわずかで10階層というところまで来てしまった。練磨の洞窟は100階層まで続くダンジョンである。なりたての初心者が乗り越えるべき階層が9階層まで。そして初心者がまず初めにぶち当たる難関が10階層のボス部屋だ。今はまだ初心者の難関である10階層のボス部屋までたどり着けていないが、それでもこの攻略スピードは異常だ。すぐに10階層のボス部屋も見つけるだろう。まさに、チートを持つ勇者たちの偉業と言える。


「見つけた!! この扉が10階層までのやつだ!!!!」


 ダンジョンに潜り始めてからわずか一時間。勇者達の本日の最終目標である10階層のボス部屋まで一行はたどり着いてしまった。なまじ早くたどり着いてしまったが故に勇者達は自分達の力を過信した。自分達は絶対の存在だと。しかしそれもそのはず。今まで何の力も持たなかった彼等が、突然そんな力に目覚めてしまったのだから。到底自身には扱いきれぬものを手に入れてしまえばそうなってしまうのも頷ける。

 ただ、そんな中一人だけ何もせず時間だけが過ぎていくこの状況に焦りを感じていた者がいた。


(どうするか。ここままじゃ俺、城から絶対追い出される……)


 そう悠だ。練磨の洞窟に潜ってから何もしていない彼は物凄い焦りを感じていた。それもそのはず。このまま何もせず帰ってしまえば城から追い出されることは確実なのだから。何も知らないこの世界で城から追い出されるということは自殺行為にも等しい。何も知らない子供が猛獣が住む檻に飛び込むのと同じ。子供は親の加護がなくては生きていけない。そんな極限の状態で悠は必死に頭を働かせていた。


「開けるぞ!!」


 無情にも時間は進んでいく。

 そして予め用意していたのか中級程度の誰かの魔法がボスに向かっていく。もうどうしようもないとなかば悠が諦めかけた時誰かの声が響いた。


「うわっ。なんだこいつ! 攻撃が効かないぞ!!」

「だめだ! 物理も魔法も効かない!」

「だれか対抗できるスキル持ってるやついないか!?」


 数刻前の中級魔法でボスは倒されたと確信していた悠。それは彼等も同じだったようで物理も魔法も効かない魔物の登場で大混乱したカオスな空間を見て唖然としていた。

 ボスモンスターが格上の存在なのはあたりまえだが、そもそもここは10階層のボス部屋。たかが10階層のボス程度で物理も魔法も効かない魔物が出てくるわけがない。それじゃなくてもここは初心者用ダンジョン。初心者の乗り越えるべき難関がこんな魔物なら勇者達のチートなど底辺同然である。


「なっ! ありえない!」


 安全のため一番後ろに付き、練磨の洞窟に入ってから何も言わず見守り続けていたアルターはボス部屋に入った瞬間驚愕の表情を浮かべた。 それは勇者達が四方八方に必死に逃げ惑う姿にか、ここにいるはずのない魔物の存在にか。そのどちらもだったか。


 比較的後ろを歩いていた悠はアルターの叫び声で振りかえると同時に目が合う。


「神月君! 早く逃げるんだ!」


 尋常でないアルターの様子に驚く悠。


 何時も優しげに彼等を見守るアルターの姿はそこにはなかった。そこにいたのはただ、あたりを警戒し、慎重に鞘から剣を抜く騎士団長の姿だった。


「どうしたんですか?」


「あれは10階層のボスモンスターなんかじゃない! あれはA級ランクのグレートボアだ!!」

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