異世界"シュヴァルツ"
床から眩しい輝きを感じると共に視覚を奪われる。咄嗟に腕で目をかばった悠は、身体を投げ出された衝撃に耐えられず「うっ」と小さな呻き声をあげた。あたりからも同様に、予想外の出来事でうまく対応出来なかった彼等がドスンという鈍い音と共に呻き声をあげる。
悠が目を開いた先に広がったのは石造りの壁。地下室のようなそこは、牢獄を連想させる部屋だった。もちろん牢のように柵があって閉じ込められているというわけではない。ただ、雰囲気があったのだ。この場所にはなにか重い歴史のようなものを感じさせられた。
あたりを見渡してみてその部屋が殺風景なことに気付く。あるのは床に描かれた魔法陣のようなものだけ。おそらく転移させられた時と同じ紋様。
「ここは.....」
帝が呟くと同時に、狙ったかのように何者かが扉を押し開け入ってくる。
「皆様、突然のお呼びだて誠に申し訳ありません! 私はアヴァリティア王国第一王女。ローナ・アヴァリティアと申します」
入って来たのは一人の小柄な少女だった。着色したものではない天然の金髪を垂らし、見るもの全てを魅了するかのような整った美貌を惜しげも無く晒している。どこぞのアニメにでもでてくるかのような金髪碧眼の少女。
そして、彼女は自身の事を王族と言った。
「勇者様。どうか、どうか! この人間国をお救い下さい!」
一息にそう捲し立てた少女に、全員が固まるなか、同時にスピーカーの声の主のことを思い出す。ノワールは勇者召喚だと言っていた。だからありえないがこれが現実なんだと改めて突き付けられた。
「あの、俺達が召喚された理由を聞いても?」
少女の出現で静かになっていた彼等。いち早く我に返った帝が口を開いた。
「はい。これから説明をしたいのですがここではあれなので謁見の間に来て頂いてもよろしいでしょうか?」
謁見の間。それは王族が正式に誰かと対面する時にあてがわれる部屋。謁見の間という名前の前に、そんなところに俺達は行くのかと軽く眩暈がする悠であった。
「わかりました」
「それではこちらです」
王女が扉を開け外に誘導する。
彼等は未だに状況を理解出来ていなかったが、帝が王女について行ったことによりぞろぞろと歩き出した。
***
「御苦労。戻って良いぞ」
悠達が王女に連れられ訪れたのは、アニメやゲームなんかでよく目にするようなものと同じ謁見の間だった。
だだっ広い空間に床に敷かれたふさふさした赤い絨毯。そして絨毯の先に見える大きな玉座。周りは金細工の施された一点の曇りもない壁。壁と呼んでいいのかさえ疑ってしまうような一面金の世界。
「はい。失礼致します」
頭を垂れていた王女は、玉座に座る国王に命じられ、本来彼女の定位置であろう隣の玉座に戻っていった。
対して悠達は勇者ということで頭を垂れなくてはいけないということはなかったが、それでも最低限自分達の立場を考えて行動しなくてはいけなかった。勇者として召喚されたが、この世界ではどうやって生きていけばいいのかもわからない無知な存在。だからこそしっかりそこを自覚して行かなければいけない。
「勇者達よ、よくぞ参られた。これから我々人間国の為、尽力して頂きたい」
「ちょっと待って下さい。俺達はまだ状況を理解出来ていません。説明をお願いしたいのですが...」
唐突に言われた言葉に、まずはことの詳細を聞きたかった彼等。彼等の思いを全て代弁して言ってくれた帝に全員が頷く。
「すまぬな。これから説明をしよう。質問は最後に受け付ける。まずは最後まで聞いてくれ」
この後の説明は思っていた以上に長かったので要約するとこうなる。
まず悠達を召喚したこの王国は人間国と言う。そしてこの世界には七つの種族が存在する。種族は、人族、獣人族、魔族、竜族、神族、精霊族、妖精族がある。
アヴァリティアはこの種族の中で人族にあたる。
種族間の仲は不仲であり、互いに互いを卑下しあっている。
ここまでが基本の情報。そしてここからが悠達が召喚された理由だが、最近になって魔族が人族を滅ぼそうと企んでいるらしい。他種族のような強力なちからをもたない人族は魔族に攻められれば滅んでしまう。そこで悠達の出番だ。他世界から召喚された人間はとても強いちからを手に入れる。だからアヴァリティアに代々伝わる召喚魔法で悠達を呼び、魔族の長"魔王"を倒してもらおうと考えた。
普通に考えればそんなことを急に言われて命をかける者などいる訳がない。それにましてや悠達は戦ったこともない日本のただの学生なのだ。そうやすやすと勇者なんかやるはずがない。
「わかりました」
そう思っていた矢先、即答で肯定の返事をした帝に悠だけでなく周りの彼等も驚きの目線を向ける。いつもだったら帝に逆らわない彼等も、さすがに今回は自分の命がかかっているので素直に従うことが出来ないのだろう。
「おお、そうか! やってくれるか!」
「ちょっとまてよ。俺達はまだやるなんて言ってないぞ」
国王の喜びように、ここのままでは本当に勇者になってしまうと思った魁道 隆一が否定の声をあげる。魁道はクラスのまとめ役である帝といつも一緒に居り、帝に意見を言える数少ない存在だ。そして帝と幼馴染みでもある。
「隆一。俺達はもう召喚されてしまったんだ。それに俺達がやらないでここにいたってそのうち魔族の襲撃でやられてしまう。だったら少しでも強くなって魔王を倒すしかないだろ?」
「確かにそれはそうかもしれないけどよ。俺達は何かを殺したこともないただの学生なんだぞ」
「ね、ねぇ、二人共喧嘩はやめよう?」
「そうだ。喧嘩はやめろ。それよりも私達は元の世界に帰れるんですか?」
2人の雰囲気が悪くなった時、2人の少女が前に出てきた。
帝、魁道といつも一緒にいる清水 光と新谷 風香。
みんなのマスコット的存在で、可愛い容姿で人気があった清水。その親友で綺麗な外見には合わない男勝りな口調と性格をした新谷。ファンによるとそのギャップがいいらしく清水に負けず劣らずの人気を誇っていた。
「そ、それは…」
新谷の問に歯切れ悪く答えたのは国王の隣にいた男だった。
帝と魁道は新谷の質問に言い争いをやめ、静かに聞く体制にはいった。
「この世界の魔法陣は私たちが作り出したものではないのだ」
質問に対して曖昧に答えようともったいぶって話す大臣らしき男に悠は悟ってしまった。
きっと帰る方法はないのだと。少なくてもこいつらは知らないのだと。
「だからだな。今から帰すということは.....」
「……それ、ほんとに言ってるんですか?」
大臣の返答に静かに怒り出した新谷。
周りも怒りとともにどうすればいいのかわからないといった様子で困惑していた。
「だ、だが! 帰す手立てがないということではない! 文献によると魔王を倒せば帰すことができるはずだ」
焦った大臣の返答に新谷と彼等全員がほんのすこし安堵の様子を見せた。
けれど、それは文献によるとという曖昧なものだった為、裏を返せば魔王を倒しても帰れないかもしれない。
「じゃあやっぱり俺達がやらなきゃじゃないか」
「仕方ない...か」
頃合を見計らって言った帝に渋々肯定の意を称えた新谷。魔王を倒さなきゃ帰れないと知ったからなのか2人に続いて次々に頷いていく彼等。そこには最早、帰れないかもなどという疑問はなかった。ただ一人、悠だけは苦い表情で王を見据えていた。
「おお。勇者達よ、やってくれるか!」
「はい」