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黒の少女

 黒の空間。それは静寂の部屋。

 そんな無機質の部屋に一人の少女がいた。

 漆黒の髪を惜しげもなく垂らし、まだ幼い顔を髪の毛で隠すかのように若干下を向いた眠た気な様子の少女。

 その美しさは神秘性と危うさを醸し出している。

 全体的に整ったその顔は絶世の美女と言えた。ただ、幼い少女の外見をしているため、幼い体には不釣り合いに大きく膨らんだ豊満なそれがあるはずもなく.....。ただ、バランスも良く、少女が成長したら色気を含んだ大人になることは今からでも伺えた。


「行ったか」


 少女の口からこぼれたその声は、透き通った凛とした声には不釣り合いな程無機質な声。


「これでようやくか。.....早く来い。神月 悠」



 ***





「うおっ!? どこだここ?」


 黒一面で覆われた空間に一人、黒ではない異質の存在が降り立つ。

 状況を理解出来ずに学生、しかも男子生徒があたふたとする光景は非常に馬鹿っぽい。


「落ち着いて」


 プチパニックに陥っている悠の近くで、静かな声が響く。それは先程とは全く違った声質だったが、この声があのスピーカーの声の主だと悠は直感的に気付いた。


「良かった」


 言葉と共に黒の空間から出てきたのはこれまた黒い少女。同色のはずなのに何故か存在がはっきりと浮かびあがっている少女。

 悠には不思議と警戒心はなかった。むしろ少女の静かな声を聞いた途端、落ち着きが戻って来ていた。


「君は?」


「私は.....ノワール。この世界、シュヴァルツの守護者」


「ノワール」


 少女の名前を復唱する悠。

 その名前は聞く前から知っていたかのようにスッと頭の中に入ってきた。


「ノワでいい」


「じゃ、じゃあノワ、教えて欲しい。ここはどこなんだ? それにシュヴァルツって一体.....」


 疑問、これからどうなるのか、どうすればいいのか。知りたいことはたくさんあった。そしてそれは、この目の前の少女に問えばきっと答えが返って来るだろうことも悠にはわかっていた。


「ここは私の空間。世界と世界の狭間にある黒の空間。そしてシュヴァルツは貴方が次に目を覚ます場所であり私が守護する世界。私は守護者で、守護者は神のようなもの。だけど万能ではない」


「ん? てことはノワは神なのか?」


 いまいちよくわからなかったが、結局目の前の少女がすごい存在だと言うことだけは理解したようだった。


「神.....ではない。けれどそれに限りなくちかいもの。人間みたいな下等生物とは違う」


 ここにきて悠は先程のスピーカーの声を思い出す。



 下等生物(・・・・)


 それはスピーカーの声がよく言っていた言葉。やはり口調は違っても目の前の少女があのスピーカーの声の主なんだということを再確認する。


「ならなんで俺はここにいるんだ? 君の空間に俺みたいな下等生物が入ってしまっていいのか?」


 その疑問はあたりまえで、もし間違えでここに悠が来てしまったというのならとても笑えない状況である。こんなにも人間を嫌う少女。もちろん悠自信も人間だ。それも人間からも嫌われるような存在。どうなるかわかったものではない。


「いいの。あなたを呼んだのは私だから」


「俺を.....呼んだ?」


「そう。呼んだ。あなたに渡すものがあったから」


 話の流れについていけない悠の頭の中で疑問符が飛び交う。何故会ったこともない人間を呼ぶのか。腑に落ちず怪訝な顔をする悠。


 ーー本当に一度も? 会ったこともない? 

 昔、絶対に忘れはしない在りし日の記憶。その中の映像に映る少女と目の前にいる少女。少しずつ重なり、そして擦れた。その事実があの日の少女と彼女は違うと脳に納得させる。

 ぴたりと重ならない映像。しかしなんとも言えない違和感に悠の心は騒ついた。


「なぁ、ノワ。……昔俺と会ったことないか?」


「.....さぁ」


 表情も変えずに告げた少女。しかしすぐになにも言えなくなる悠。一瞬、本当に一瞬。悠の質問とともに手を強く握った少女。全体的に黒い少女。対照的に白い肌。その白い肌が強く握ったことにより赤くなった掌。


 これはきっと彼女にとって聞いて欲しくない。触れて欲しくなかった部分だ。そのことに気付き、焦りや後悔が押し寄せるがそれもすべて後の祭りだった。


「それより時間がないから。あなたに渡すものだけ渡す。受け取って」


 何事も無かったかのように進めるノワに対してわざわざ掘り返すようなまねはしない。誰にだって触れられたくないことはある。そうして意識を次に向けた。


 差し出されたものはペラペラな一枚の板。それは地球では毎日目にしていたもの。スマホ。


「これはあなたが思い描いているものとは違う端末。あなたがもといた世界"地球"とこちらの世界"シュヴァルツ"の二つの世界の知識が詰まったもの。それをどういうふうに使うのかはあなたに任せる。シュヴァルツには電気というものはないから魔力で供給して使うの。絶対に壊れることは無いから」


 魔力という新しい単語に戸惑いを感じながらも、不思議な端末に興味津々な悠。まじまじと見つめ、隅々まで確認していく。まだ起動はしていないがそれでも興味は尽きなかった。それはまるで新しい玩具を見つけた子供のような反応。


「それと、あなたには私から能力を授ける。この力をどう使うかはあなた次第。でも気を付けて。この能力はすぐには発現せず、条件を満たした時始めて目覚める。つまりあなたが何もしなければ何も起きない。あなたの行動がこの能力を目覚めさせるの。

.....そろそろ時間か」


 少女の言葉と共に、黒い部屋の床が輝き始めた。


「それじゃあまたどこかで」


 悠はきっと忘れないであろう。少女の最後の口の動きを.....。



 ーー約束を、忘れないで。

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