決断と覚悟……?
遅くなりました。
あれから悠のMPの回復と、興奮が治まるのを待つためブランの神力を用いて結界を張り巡らし、結界の真ん中に集めてきた木材を置いて火炎系魔法の初歩の初歩である火球で簡単な薪を設置した。
向かい合う二人はどちらから話を始めようと相手の出方を待つように無言で視線を合わせている。
「「ブラン(悠)! (あの、)話があるんだけど」」
いざ、話をしようとしたところでお互いに被ってしまい、気まずい雰囲気が漂う二人。
そんな時、悠の尻ポケットから唐突に無機質な機械音が聴こえてきた。
「ごめん。俺みたいだ」
そう言って悠が尻ポケットからだしたのはノワールから貰った端末である。端末は悠の手の中に場所を移すと、ポケットの中から開放されたかのように一層強く無機質な音を発した。
「にしてもこれ、通話も出来るんだな。本当にスマホみたいだ」
端末の電源を入れた途端、表示された画面に通話が来たことを悟った悠は不思議そうに覗き込む。通話が来ることは初めてのことだったが、悠は迷いもなく通話のボタンを押し、耳にあてる。
『久しぶりね。私が守護する世界"シュバルツ"はどう?』
予想していた通りの声に悠は迷いなく答える。
「ああ、久しぶりだな。ノワ。君には悪いけどこの世界は最悪だ」
『そうでしょう。けれど、退屈はしないでしょ?』
「確かにな。忙しくて生きるのに必死だ」
仮にも彼女が守護する世界に対して不満を言ってしまったことに、悠は一瞬憂懼したが、それも彼女の言葉で雲散する。それどころか、ノワは肯定を示してきた。
『そこにブランはいるでしょ。ブランにも聞こえるようにしてほしい』
一旦耳から端末を離した悠は、ノワに言われた通り画面上に表示されているスピーカーのボタンをタップする。
「これでいいか?」
『ええ』
「その声は……ノワ?」
スピーカーに切り替えたことにより悠とノワの二人だけのやり取りから三人のやり取りにかわり、今まで突然の流れに黙っていたブランが驚いたように口を開く。それは悠の電話の相手に対してなのか、自分の知らない端末の機能に対してなのか、定かではない。
『ええ。久しぶりねブラン』
「う、うん、久しぶり。でもなんでノワが……? それにこの端末にそんな機能ないはずなのになんで?」
『落ち着いて。端末は私が勝手に機能を増やした。そして、なぜ私があなたたちにこうして連絡をしているのかはこれから話す』
疑問符が飛び交うブランの頭上に、ノワの抑揚のない落ち着いた声が降りかかる。凛としたその音色は悠が彼女と出会った頃と変わらない淡々としたものだった。
突然の事にあたふたとしながら、交互に視線を悠と端末に向けるブランに悠は落ち着くよう声をかける。
「ブラン、落ち着いて。とりあえず今はノワの話を聞こう。……って言っても、なんとなくわかるけどね。ノワ、君は俺に確認したいんだろ? 本当に約束を守る気があるのかどうか」
『ええ。あなたにとって、あの約束はたかが幼い頃の記憶。だから私は再度確認する。神月 悠。おまえは私達の世界を救ってくれるか?』
「……悠」
ノワの言葉は悠の幼い頃の記憶を思い出させる。彼にとってはなんのメリットもない約束。彼の人生を狂わすこの決断は、覚悟を決める悠にも、それを強いさせるノワにも相当の覚悟が必要だった。
ことの成り行きを何も言わずに見守っていたブランは、二人の会話を悟ったその瞬間から不安げに瞳をさ迷わせた。ノワの言葉が、直球に悠の決断を暴こうとしたその時からブランの心臓はドクドクと激しく波打ち、悠の名前を呼ぶ。
悠は声の方へ顔を向ける。
不安げな瞳に、不安げな表情、声。
悠はそんなブランを安心させるように笑顔を向ける。それがすべてだとでもいうように。
「ブラン。不安そうな顔なんかするな。俺がブランと再開したあの時から……いや、する前、初めて会ったあの時から俺はおまえのものでおまえは俺のものだ。だから俺自身がその約束を破れるはずもないだろ」
ブランに向けていた瞳を、ノワに向けると凛々しい表情で悠は告げた。
「俺は、どんなことがあっても約束を守る。それが、俺自身の生きる意味だからな」
それは自身にも言い聞かせるかのようなそんな言葉。音色は呪縛のようにぴったりとくっついて離れようとしない。その言葉は本心からか、自身の存在の意思表示なのか。
『……そう、わかった。ならあなたにはまず、その森から出てもらわないと』
「悠、ごめん。まきこんで……」
彼女のその声は誰の耳にも届かず、空虚な空間に静かに消えた。
「確かにそうなんだよなー。この森からどうやって出ればいいかがわっかんないんだよな」
先程の凛々しい雰囲気から一転。いつものおちゃらけた雰囲気に戻った悠はノワの言葉でどうやってこの森を抜けるかと思考をそっちに持っていく。
自身の言葉も考えも、他人のことも何一つ理解せぬまま……。
『神月 悠。あなたがその森から出る方法はある』
「え? ほんとか?」
森から出れると聞いた悠が顔を輝かせ、ノワもとい、端末に視線をやる。
『ええ。ブラン』
てっきりその方法を教えてくれるのかと言葉の続きを待ったが、ノワはブランの名前を呼ぶと黙り込んでしまった。
同じく名前を呼ばれたブランも、黙り込んでしまい一向に話が進まなくなってしまう。
数分の間、沈黙が空間を支配する。
しかしそれもブランが顔を上げ、口を開いたことにより終わりを告げる。
「悠。さっきの、話の続きなんだけど……」
「ん? ああ、ブランが守護者だって話か?」
「う、うん。私とノワは世界を守護する立場の者なの。でも2人でこの世界シュヴァルツをってわけじゃなくて、ノワはシュヴァルツを、私は地球を守護してる。けど、今私たちの世界は危機に晒されてる」
「七つの大罪。人族は強欲。獣人は色欲。魔族は暴食。精霊は怠惰。神族は憤怒。妖精は嫉妬。竜族は傲慢ってやつか」
『そう、この世界はお互いを搾取し合う世界。だけど、最近はその頻度が増えてしまっている。だからあなたを呼んだ。まさかあなたのクラスが人族によって勇者召喚されたのは予想外だったけど』
「悠。私は悠と、悠は私と約束した。そしてあの頃私を認知できた人間は悠だけだった。悠だけが私に気付いてくれた。悠だけが私に接してくれた。悠が全てを教えてくれた。だから私はあなたを選んだ」
「ブラン。さっきからずっと浮かない顔してるけどさ、俺がおまえを責めるわけないだろ。さっきも言ったけど俺は約束を守る。俺自身の為にもな」
ブランが悠を見上げると二人の視線は絡む。
しばらくブランと悠が視線を絡めていると不機嫌そうな声が二人の間を通り抜けた。
『そろそろ本題に入っていい?』
「あ、ああ。ごめんな」
悠は咄嗟に謝ると申し訳なさそうな顔をする。しかしそれが返って相手の存在を忘れていたと認める行為だということに気付かない。
「悠、それ逆効果。電話で顔が見えなくて良かったね」
「ん? なんのことだ?」
「なんでもない」
小声でひそひそと喋ってはいるが端末には聞き届いている。
『神月 悠。ブラン。一回黙ってくれる? 本題に入る』
「「は、はい!」」
二人の声は勢い良くその場に響き渡った。




