出会い
少し短いです。
ーープスリ。ブシャッ。
なにか細いものがささる音がした後、間を置かず何かが飛び出すような音が響く。
それは、留められていたなにか液体が細いものをきっかけとして溢れ出すかのような。そんな音だった。
「おっし。今日も調子いいな。けどま、あんまり調子にのらないように、慎重にな」
そんな独り言を呟きながら横たわる獣に近付いて行くのは神月 悠その人である。
先程の音は、悠が魔物を弓で仕留めた音であり、ブシャッとあまり聴き心地がよろしくない音も、どうやら魔物から溢れでた血液のようだ。
鉄の臭いが辺りに充満し、吐きそうな程の刺激臭が悠を襲う。
しかし、悠はそんなこともう慣れたと言いたげな顔で、お構い無しに魔物の剥ぎ取りを行う。
その様子はさながらプロの領域だった。
「今日はなかなかだな。豪勢なご馳走が出来るかも」
彼が仕留めた獣は名を"ハウンドウルフ"と言い、脂ののったとても良い肉が採れると冒険者の間で有名なものだった。悠にはそんな知識は無いが、それでもその肉が美味しいのだろうとわかる程の代物。
しかし、城下や町ではあまりその存在を見かけない。何故なら、ハウンドウルフ自体がとても強いからだ。とても良い肉が採れると、冒険者達は皆同様にハウンドウルフを狩ろうとするが、生半可な冒険者達はすぐに返り討ちにされてしまう。ハウンドウルフは高レベルであり、とても賢い。例えば人間がハウンドウルフを狩ろうと威嚇射撃を行いながら罠にかけようとしてもすぐに見抜き回避してしまうのだ。もちろん前に悠が使った落とし穴などもってのほか。反射神経もいいので狙撃しようとしても余裕でかわされてしまう。
そんなすごい魔物を狩ったと、全く知る由もない悠は肉、肉と連呼しながら興奮気味に、自分の住処となっている洞窟に帰っていった。
*****
「うめー!! これ最高だな。あの魔物、今度から見つけたら絶対に狩っていこう」
洞窟に戻ってきていた悠は火の初期魔法火球を使い、ハウンドウルフの肉を焼きながら食べていた。
味付けなど無いが、それでも脂がのった肉はとても美味しく、さすがの高級食材といったところだ。
「さっきの魔物、確かハウンドウルフっていったか、あいつを鑑定した時にも思ったけどやっぱりここの魔物は強いのしかいないな。だいたいLV.215ってなんだよ。俺なんてまだ40だぞ? 今まで頑張って来たってのに。しかも元のスペックが全然ちげーし。あーそろそろ魔物以外とあいてー。言語が通じる相手が欲しー。人間いねーかなー」
今までは生きて行くために必死で黙々と毎日を送っていたが、少しの余裕が出てきた現在、改めて話し相手がいないとつまらないと愚痴をこぼし始めた悠。
しかしこんな辺境の地。人間などいるはずもない。
ー『なら、私が貴方と生きてあげる』
突如響いてきた声に悠は思いきり顔をあげる。
人が恋しすぎてとうとう幻聴でも聴こえてきたのかと辺りを見渡し確認する。しかし、目の前のそれの存在に幻聴でもなんでもないと理解する。
そして理解すると同時に懐かしい記憶が呼び起こされた。
ーえ!? 私が見えるの!?
ーそれはどういう遊び? すごい! 悠はなんでもできるね!
ー悠は私を救ってくれる? ほんと? じゃあ約束。これは約束の証。
「懐かしいな」
幼き日の思い出。昔を思い出し懐かしむように耳に付けたピアスをいじる悠。
『ほんとだね。あっ、それちゃんと持っててくれたんだね』
二人の約束の証である紅に輝くピアス。お互いしか見ることも触れることも出来ない特別なピアス。
「あたりまえだ。俺は約束のために生きてきたようなもんだからな」
『変わってないね。悠はほんとに変わらない』
話しながらも一歩一歩近付いてくる少女。
艶のある長い髪を揺らしながらその端整な顔を惜しみなく晒し、髪に合わせた白いワンピースを身にまとった少女。真っ赤に燃える紅蓮の瞳に透き通るような綺麗な白い髪。その幼い外見には不釣り合いな豊満な胸。しかしそのどれもが浮世離れしたような心持ちにさせる。神々しい圧倒的存在感。雰囲気。
しかしその少女を悠は知っていた。いや、覚えていない瞬間などなかった。
そしてまた、それは彼女も同様に悠のことを忘れた事などなかった。
「変わるはずがない。だって……」
そこで一度言葉を区切った悠はゆっくり大きく息を吸い込み言葉を続ける。
「『俺は(私は)、ブラン(悠)に出会って変わったんだから』」
二人の声が重なりシンクロした時、ピアスはより一層一際強くその美しい輝きを放った。
やっとヒロイン登場です。ノワや光、風香がヒロインじゃないかと思っていた方実は違うんです。メインヒロインはこの子です。
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