力と知恵
遅くなりました
しんとした洞窟内に人間の声が響き渡る。「あーでもない。こーでもない」到底理解できない意味不明な独り言が岩場に反響し木霊する。
洞窟最奥。ストロングベアーの住処であり縄張りであったその場所は、いまや一人の人間により支配されていた。端末を片手に、必死に文面を読み上げていくその姿はまるで何かに取り憑かれた様。そんな異様な人間はもちろん悠である。
初めて魔物を殺しユニークスキルを取得したあの日から数日。悠は端末を片時も離さず持ち、思いついた事はすぐに検索し取得。そして取得した能力を真に己のものにするため練習と検証を繰り返し行う、ということをやっていた。
合間合間で何度か邪魔は入ったが、それでもなんとかやり過ごしここまでやって来た。そんな悠が今覚えようとしていることは、武具の作成である。
戦うにも素手では限界があり、魔物も綺麗に仕留められず、熊爪のスキルを使い倒しているが、どうしても大きな外傷を負わせてしまうのだ。しかしそんなものは武器を自分で作ってしまえばいいだけのこと。そんな極論に達した悠は端末の文面だけを頼りに、基礎から覚え武器を作っていった。それに加え、邪魔をしてきた魔物を片っ端から殺し、素材を剥ぎ取っていた悠が考えた消費方法がこの武具の作成だったのだ。
今作成しているものはなめらかな曲線を描いた弓である。
今まで練習をし、検証を繰り返しながら作成していたのであろうその残骸が、悠の作業場より端に無造作に置かれていた。
曲線が小さかったり大きかったりした不格好なもの。また、曲線自体が歪なもの。弓と呼んでいいのか疑わしいような代物から見た目綺麗な弓まで様々な弓がところせましと置かれている。
「ん? お? これは……」
しばらく無言で作業を進めていた悠だったが、唐突に弓を掲げ、矢を装填し始める。弓は綺麗な曲線を描き、矢は淡く発光しているその光景はまさに幻想的なもの。光の魔力を圧縮し、矢を形成させたそれは暗がりによく映えた。そんな淡い光は一陣の閃光となって暗闇を駆け抜ける。やがて光は消え、遠方から"ドンッ"と小規模な爆音が聞こえおさまった。光の魔力の特性である。
「よっしゃ、キタコレ! 完成だ!!」
つい歓喜ではしゃぐ悠。しかしそれもそのはず。何故なら今まで散々失敗し、練習してきた弓がやっと完成したのだから。見た目から性能まで、武具と言えるようなしっかりしたものを作れたのはこれが初めてだった。
「てことはあとは矢の威力か。今のは光属性の魔法を元に魔力を圧縮したから爆発だったけど他の属性でも確認しないとな。あとは魔力調整」
矢を形成しているのは魔力。属性が違えば効果も違う。魔力の加減でも威力に差が出てくる。まだまだ山済みな問題に文句を垂れながらも検証を繰り返していく。
黙々と矢の確認作業を済ませていった悠は、分かったことを頭の中でまとめていく。
(まず、火の魔法は矢があたった場所に着火、水はあまり目立った効果はないけど火系の魔物には大ダメージを与えられる。風は比較的に速く飛ぶし土は強固。光は爆発、闇はマイナス効果を付与。例えば混乱とか視界を暗くさせたりとか。時は相手の動きを止める。あとはそれぞれが派生とか色々あるけど基本はそんなもん。んで威力は俺の魔力調整にかかってくる。大体はこんなもんかな)
大体まとまったところで一旦弓に関してのことをやめ、次の練習に移る。
それはもちろん魔法である。基礎である魔力を属性ごとに使い分けることには成功したが、未だに悠は魔法を使ったことがなかった。今まで適正属性がないことを補う為、一つ一つ文面を見て適正属性を取得していった悠は、魔法を使うことを二の次にしていたのだ。しかしこの世界でやっていくには魔法は必要不可欠。
そのための練習である。
この世界での魔法は詠唱と陣が必要になってくる。陣を描き、そこに長々しい厨二病くさい台詞を唱えながら魔力を注いでいくのが一般的な魔法の行使だ。
端末を片手に基礎から魔法の使い方を覚えていく悠は、何時間と集中し続け、ある結論に達した。それは詠唱と陣は必要ないのではないか……というもの。
本来陣は魔力を注ぐ為の座標として描くもの。詠唱はイメージをより強固にかためるもの。なら、その詠唱と陣はただ補助として役割を担っているだけなのではないかと言うのが悠の導き出した答えだった。
思い立ったが吉日。さっそく検証にかかった悠は自らのイメージをかためつつイメージの中の現象自体に魔力を注ぎ込んでいく。すると少量の魔力でイメージ通り、指先に火が灯った。今まで陣を介して魔力を注ぎ込んでいたため、その分の魔力もとられてしまっていたが、現象自体に魔力を注ぐこの方法は通常の約四割程度で魔法を行使出来た。それに加え、詠唱もイメージさえ強く思い浮かべれば厨二くさい台詞を唱えなくとも魔法は発動した。さすが現在社会でアニメを見続けてきたオタクなだけあり想像力はお手の物である。
「よしよし、今日はなんかいい感じだな。でもさすがにここまで調子がいいとなんかありそうだな」
途端、その台詞はフラグだと言わんばかりに魔物の遠吠えが聞こえてきた。直後、駆ける音が聞こえ魔物が悠の方へ向かってきていることがわかる。
「え、俺ってば自分でフラグ建設しちゃった?」
"ちょ、え"と悠が焦っている間にも魔物の足音は近付き大きくなっていく、そしてその姿を現す。
綺麗な毛並みをした灰色の生物。その獰猛な牙に鋭い爪。尻尾ですら危険そうで童話や御伽噺なんかでもよく出てくる存在。狼だ。
「お、え、まじで? 狼? なんか凄い強そうなんだけど。ここはとりあえず鑑定したほうがいいのか」
力を手に入れたからなのか、何度か魔物と戦ってきたからなのか、悠にはこの時なんだかわからない余裕があった。だから今までは焦って、使うという発想にまでいたらなかった鑑定をこの時は使うことが出来た。
灰色狼 LV.183
「え?」
表示された内容に思わず声を漏らしてしまう悠。しかしそれも仕方が無いと言える。表示された内容は今の魔物の名前とレベルだけであり、それ以外は何の情報も得られなかったのだから。しかもレベルは余裕で100を超えもう少しで200越えの存在。驚くのも無理はない。
(ちょ、ちょっと待ってくれ。鑑定が自分より上の存在には上手く適用されないってのはわかったけどこれはおかしいだろ。なんでレベルそんな高いわけ? え、もしかして今までの魔物もそんな感じだったの? 俺が鑑定してこなかったから知らないだけでみんなそんなもん? この世界の基準ってなに、もしかして勇者ってカスなの? なんなの!?)
実際はここに生息する魔物が強すぎるだけで、勇者はこの世界の水準と比べればチートであり悠の感覚が正しいのだが今の悠にはそれを知る術はなかった。
"ウーッ。グルルルル"
テンパリ気味の悠に、灰色狼は低く唸り威嚇する。その唸り声で我に返った悠は冷静に状況判断し始める。
(とりあえず、丁度良いし弓を試してみよう。狼の弱点とかよくわかんねぇけど獣は火に弱いって聞いたことあるしとりあえず矢は火だな。それで駄目だったらいつも通り熊爪のスキル使えばいいだろ)
悠が心のなかで算段を立て終えた頃、灰色狼が痺れをきらしたのか、颯爽と毛を靡かせながら悠へと向かっていく。灰色狼が悠に噛み付こうとしたところをなんとか交わし、距離をとりつつ馴れない弓を使い灰色狼を狙うが、灰色狼も一筋縄ではいかないとばかりに矢を避け悠との間合いを詰めようとしてくる。
何度か矢を放ち、灰色狼がその矢を躱してを繰り返していると転機が訪れた。
同じように悠が放った矢を灰色狼が避け、灰色狼がそのままの勢いで悠に噛み付こうと彼の居る場所へ駆け出すと、いつもだったら必死に避けようとする彼がその瞬間回避行動をとらなかった。
その時灰色狼は、悠が避けなかったのは戦意を失ったからだと思い込み、そのまま突っ込んだ。灰色狼は勝利を確信したが、灰色狼が悠に噛み付くことはなかった。何故なら灰色狼は悠にたどりつく一歩手前で盛大に落ちていったのだから。
(ふぅー、あぶねー。ずっと同じこと繰り返してたから永遠ループかと思ったけどちゃんと倒せて良かったわ。やっぱり落とし穴は古典的だけど効果抜群だな)
灰色狼が落ちる前、矢を放つと同時に魔法を使い、落とし穴を作った悠は、馬鹿みたいに同じことを繰り返す灰色狼を、避けないことで罠に嵌めたのだ。
古典的でひっかかる方が少ない方法だが、知能のない魔物には十分だった。
(今日の練習の全ての総復習になったしこいつには感謝だな)
穴の中から這い上がろうとしてくる灰色狼に炎の矢を放った悠は、硬直し動かなくなった灰色狼を持ち上げいつもの定位置で炎を灯しながら慣れた手つきで狼の部位を剥ぎ取っていく。
肉は今食べる分だけ火で丸焼きにし、残りは魔法で氷漬けにして保存しておく。
「そろそろか。いっただっきまーす」
やがて肉の丸焼きが十分な焼き加減となった頃、生物のありがたさに感謝しながら何の味もついていない肉を頬張る。味はついていなかったがそれが肉というだけで悠にとってはごちそうだった。
幻視の森に来てからまともな食事をせず、魔物との戦闘というハードな生活を送ってきた悠は、いつの間にかあんなにもだらしなかった身体が今では引き締まった身体となっており、元々の身長も相まってそれなりになっていた。
神月 悠
LV.23
種族:人族
職業:
HP:1150
MP:115
STR:92(+22)
AGI:80
VIT:69
INT:58
DEX:83
LUK:60
ユニークスキル:完全理解
スキル:鑑定、言語理解、状態異常耐性、熊爪、気配察知、威圧、武具作成(基礎)、創造魔法、風牙
属性魔法:全属性
称号:異世界人、魔物殺し、弓使い
次回は勇者達のその後です
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