秘密の晩餐会
一発ネタです。
「今日はようこそおいでくださいました」
執事が恭しく頭を下げた。
「いやあ、まったかいがありましたね!モトナリ=サン」
快活な声で青年が言った。
「私も前々から興味がありましてよ、スズト」
妙齢の女性がそれに答えた。
「たいへんおまたせして申し訳ありません。これに関しては主も心苦しく思っておられます」
執事はさいど頭を下げる。
「いえいえいえ、我々だって無理言ってることはわかってますら、なんたって特A-sファイルですからね」
「そうですか。そう言っていただけると主も浮かばれます」
執事は品のいい笑顔を浮かべると二人を案内する。
「おう、みんなよく来てくれたね」
長テーブルの奥に座っていたのは生気みなぎる老紳士だ。
「お久しぶりです、プロフェッサー」
青年が言う。
「ご無沙汰しておりますわ。教授」
淑女も丁寧な挨拶をする。
「うむ、元気にしていたか?スズト君、ミヤコ君」
「ええ、プロフェッサーも元気そうで何よりです。・・・ところで」
老人の目に鋭い光が走る。
「うむ。聞きたいことはわかっておる」
「そうです。私も興味津々でしてよ。最近退屈で退屈で」
ミヤコと言われた女性は老人にせがんだ。
「ふふふふ。慌てない、慌てない。この晩餐会を始めるにあたってみんなには心してほしいことがいくつかある」
「・・なんですか?」
もったいぶる老人に対して慎重になる青年、女性の方は不満気だ。
「一つは当然ここでのできごとは門外不出、口外一切禁止であること。そして味の期待は一切しないこと」
「一つ目は当然として、2つ目はここで言ってほしくなかったなあ」
「そうですわ。はっきりいって一つ楽しみがなくなりましたわ」
「うむ。生半可な不味さじゃないからな、心して食してもらう」
「で、それだけなら早くいただきましょうよ」
女性は急かす。
「最後に、今一度覚悟を決めてもらう。我々は禁忌をおかすのだ。我々の崇高な目的とは何かね?」
「私は人類の文化の大きな柱は食だとおもっています。それを放棄することがあってはならない!」
青年が答えた。
「美味しいものを食べたいのは当然でしょ。最近の食には探究心が足りないわ。ま、今回のは美味しくないらしいけれど」
女性が答えた。
「うむ、わかった。ではマルイよ、運んでくれ」
老人は満足そうに頷くと執事に指示を出した。
「まず第一品はこれだ」
執事が持ってきた皿にはフォアグラが乗っていた。
「なんという料理なんでしょうか?」
「肌色?ピンク色?珍しい色ねえ!」
二人は興味津々だ。
「これはフォアグラのテリーヌといって、いわゆる高級食材を使用した料理だ」
「へえ、ではいただきましょう」
「・・何だか気持ち悪い味ですね」
「ええ、べったりとしてすごく重い感じだわ。胃がムカムカします」
「・・それなら飲み物を飲んでみるか」
執事は皆にワインを注ぎ始める。
「何これえ!?赤い!!」
「うへえ、血みたいですねえ」
「飲んで見給え」
「うーん、苦くて酸っぱくて何だかツンときますね」
「・・頭がガンガンしますわ。毒じゃないんですよね」
「では最もシンプルで愛されていた料理をメインとしよう」
老人が次に差し出したのは最高級霜降り牛のステーキだ。
「これは何だかグロいわね」
「・・赤黒くって何が使ってあるんでしょうか?」
「・・・・」老人は無言で食を促す。
「うげえベトベトする・・」
「口に残って残って・・ワインというやつをもうちょっとください」
「これが本当に喜んで食べられていたんですか!?嘘でしょう!?」
「本当だ。次は辺境の料理といこう」
老人が執事に合図を出すと、執事は頷いて丸い蓋のされた皿を持ってきた。
「さあ召し上がれ!!」老人は鋭く光る目で二人に促した。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は蓋をあけると固まってしまった。
「・・この赤い奴とか黄色いやつとかはわからないですけど、これって生き物じゃないですよね?」
青年はエビの頭がついた寿司を見ていった。
「生き物というのが外界の世界に生息している者たちのことを指すならそういうことになるな」
「ま、まさか今までのも?」
女性は震えながら訪ねる。
「そうだ。フォアグラは鳥類の肝臓だし、赤黒い塊は牛の肉らしい」
『げえげえぇおおおげろぉおお』二人は必死に吐こうとする。
「もっともっとワインをください!」
女性はついでもらったワインをがぶ飲みしだした。
「ちなみにそれはぶどうという植物の絞り汁から作ってある」
『ブゥプゥウウウウ』女性は盛大にワインを吹き出した。
「・・しかし昔の人が野蛮だということは聞いていましたが・・ここまでとは」
「はぁはぁ・・まさか生き物を食べるなんて信じられない・・わ・・はぁはぁ」
「だがそれが真実だ。ほんの数百年前、我々は生き物を殺傷しその肉を食していたのだ」
「こりゃ特Aの禁忌に指定されるわけだ。僕達が鬼の子孫だなんて・・」
「これで君たちも同罪だな。このことは墓まで持って行ってもらう」
「ですが、昔の人は何でこんな残虐なことをやっていたのですか?」
女性が老人に尋ねる。
「・・我々は体内でエネルギーを作れる。特殊なバクテリアと光合成によってな」
「そんなの知っていますわ・・ということはまさか?」
「そう、古代人は自らエネルギーをつくることできないので、他の生物を食べることによって栄養を得ていたのだ」
「し、しかし何も殺すことないじゃないですか。私達みたいにやれば・・」
「当時はそのような技術がなかったのだよ」
「・・私クラクラしてきちゃいました。なんだか暑いわ」
「それはワインのアルコールという物質の影響だな。分解されるときに毒になる」
「「・・・・・」」
「ふふ、唖然としてしまったな。まあそうそう害になるものでもないらしい。どうだ口直しにいつもの食事でもするか」
「ぜひ」
「ええ。密かにそれを期待してましたのよ」
ワインのせいか女性の頬は紅く色づいている。
「ほう」
「だって教授のすごく美味しいですもの」
そういって女性は老人の髪の毛をちぎるとタンパク質合成機に放り込んだ。
「今日も楽しい晩餐会になりそうだな」
そういって老人はニヤリと笑った。
最近暑くてダウンしてます。みなさんも気をつけてください。