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恋はインフィニティ  作者: 春秋冬夏
第一章
3/5

人身事故とオッサン

いつからだろうか


「ふざけんじゃねぇよ!」

「だからさっき謝っただろうが!ボケッ!!」

 いつから駅のホームにオッサン2人がこうして互いを怒鳴り散らししていたのは。オッサンの1人は太っており、小汚い服を着ていて若干嫌な匂いがした。

 もう1人は線を書いたようなヒョロッとした体格で貧弱そうに見えるのだが、頑固そうな顔には気の強い印象を与えた。服装から見るとサラリーマンのようだ。


 僕が来たときは既に2人は言い争っていた。「何かあったんですか?」と、つい気になって隣のサラリーマンに問いかけると、どうやら片方がもう片方の肩にぶつかってしまい、ぶつかった方(細い人)が謝ったものの、ぶつかられた方(太っている人)は「ワザとぶつかたっろ!!」と怒声をあげた。

 細い人が必死に弁護するも聞き耳をもたず一方的に罵った。2人の言い争いは徐々にエスカレートしていって、こうなってしまったという。

 2人の周りには人が近寄っておらず、皆関わりたくないように目線を下に下げていた。

 さわらぬ神になんとやら、僕も顔を逸らして電車が来るまで暗記本を読む、今年僕は受験生で遊ぶ時間は勉強に費やしている。だが困った事に暗記できる環境ではなかった。


 「うるせぇ!お前はワザとぶつかってきたんだろ!!」

「ワザとじゃねぇよ!そっちの方こそうるせぇよ!!」

 どっちもうるさいです。


もし僕がこのせいで試験に落ちたら絶対に訴えてやる。僕は怒声を気にしないようにしながら再び本に集中した。

 「謝れよ!!」

「さっき謝っただろうが!!」

「んなもん謝ったに入るか!!土下座だ!!土下座!!」

 細い人が顔をしかめて何か言いたげに口角をピクピクと痙攣させていた。

 このままでは殴り合いに発展しかねない。誰か駅員さん呼んでくれないかな、うるさくて構わない。僕はため息を吐いた。

 「おいお前」

 声のかけられた方を見ると太い人が僕を見ていた。突然のことに頭が真っ白になり、挙動不審になってしまう。


 「な、なんですか」

その声は自分でも驚くほど小さくて情けない上、語尾が震えていた。

 「なんだじゃねぇだろ…お前俺の事見て笑ったな?」

 完全なる言いがかりだ、空耳じゃないのかと、言えるはずもない、僕は自分でも自覚している小心者なのだから、口をモゴモゴさせてしどろもどろとしていた。

 「お前俺の事笑ったんだよなぁ!!そうだろ!!」

「わ、笑ってはいません」

胸が太鼓のように鳴り響いていた、このままでは振動で僕の心臓が爆発するのではないかと思うくらいに。


「嘘つくんじゃねぇよ!!笑ってたんだろ!?」

オジサンは僕の胸ぐらを掴みあげた。

 このオッサンはどうやら日本語が通じないようだ。

 言葉を発しようするにも、口が渇いていたことに気づいた。パクパクと口を閉じたり開いたりする僕の姿は金魚のようで、滑稽だろうと自分でも思ってしまった。

 「その子は関係ないだろ!」

細い人が太い人の腕を掴みあげた。おお!常識人!!と僕は心の中で歓喜の声を挙げた。いいぞ!もっとやれ!!


 「さわんな!」

太い人が細い人に殴りかかる、細い人がそれを避けて腕を掴み、太い人の背後に回り込んで、背に固定させた。太い人が逃げようと身をよじらせるも、細い人の体から想像できないような力で太い人を押さえつけた。

 「このまま警察署まで連れていくからな!誰か、駅員呼べ!早く!!」

 一人の女の子が人だかりを離れたのが分かった。駅員を呼んで行ったのだろう。

 それを聞いた太い人の顔から血の気が引いた。さらに逃げようと暴れたが、一向に放せる気配はない。

 


「分かった、もう観念する……」

 太い人の体がうなだれたのが分かった。これ以上の抵抗は無意味と判断したのだろう。細い人の力が緩んだ時だった。


「なんて言うかバーカ!!」

 力が緩んだ隙に太い人が細い人の手を振り解いた。そして細い人を線路に向かって突き飛ばした。だが、細い人の後ろには僕がいた。

 後ろに隠れていた僕はドミノのように後ろに倒れた。細い人は僕がいたから倒れなかったようだ。

 すかさず足を踏み込もうとするが、そこにはコンクリートで出来た駅のホームの地面は無く、空を蹴りつけた。

 僕は駅のホームから足を踏み外したのだ、合ってはならない出来事に血の気が引いた。


 電車から鳴る甲高い音と、線路と車輪が擦る音がすぐそこまで聞こえた。そして、僕が線路に落ちると同時に轢かれた。

 

 轢かれた時はしばらく意識があった。まだ死んだと思ってなかったのだろう、ギロチンで首を切られた人の意識はまだあったと言われている。


 僕は頭が飛んだ時に見た光景は太ったオッサンが冷や汗をかき、笑っている顔だった。

 

こうして、僕は死んだ。

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