第三話 ハンザイ×メガネッコ
あれからもう二週間くらいたっただろうか。俺らを楽園へと誘うGWも、もう間近に迫っていた。
とある日の朝、俺がGWの予定作りをしているといつもより遅れてめぐみさんが入ってきた。そのめぐみさんはどこか悲しそうな目をしていた。
「どうしました、真城さん?」
「御幸くん…」
一瞬遅れて俺の声に気がついためぐみさんの瞳はキラキラと光っていた。
俺は席を立ち、話しかけようとした。
しかしその前に気づいてしまった。
「真城さんそのアザ、どうしたんです……?」
冬服の袖からちらりと顔を出す手首の青アザ。そして、足もよく見てみればバンソウコウが三枚ほど貼られていた。
「ち、ちょっと転んじゃってね」
そうやって笑顔を見せるめぐみさんだったが転んだだけでこれだけの大ケガをするとはとてもではないが考えられない。
それからというもの、めぐみさんはどうも暗く、ボーッとしていた。
そして、昼休み
いつも飯を食うメンバーで中庭で飯を食っていた。
「え?めぐみさんの様子がおかしい?」
カゲロウデイズを読みながら購買で買った「春終わりのさくらんぼクリームパン」を食っているこいつは指原春樹。同じ部活に所属している仲間だ。ちょっと金に近い髪(本人曰く地毛)に腕にはいつもバンダナをしている。
「あぁ、ここ最近気分が悪いのか知らねえけどどうも様子がおかしいんだよ…」
「それはアレじゃぁねえのか?えっと、何といったけか?」
ちなみに今のはサメジマである。
「とにかく!これはどうもおかしいとは思わねえか?今までは誰に対しても笑顔で接してためぐみさんがッ!!」
「ご、御幸…おまえそんなにめぐみのこと見てたのか…?」
少々赤面する。図星だからだ。
「う~ん、そういえばここ最近この辺じゃストーカーが流行ってるらしいよ?」
「「ストーカー?」」
「うん、とにかく可愛い娘とかスタイルがいい娘とがターゲットでみつけては絡んでくるって新聞にもあったよ。もしかしたら、めぐみさんが元気ないのは…」
確かにめぐみさんはスタイルもいいし、顔も上の下。そういう被害に合う可能性は十分にある。めぐみさんが…ストーカーに…。
俺は食いかけの弁当をさっさと片付け立ち上がる。
「ちょっと、正くん!?いったいどこに!」
「先生に伝えといてくれ!俺は腹痛のため早退するってな!」
俺は走る。とにかくやみくもに。
指原の情報によればそのストーカーは仙烈高校の生徒らしい。仙烈高校といや、隣町の不良校じゃねえか。
しまった、うっかりしていた。そうだよな普通なら今は6限目、生徒が外にいるわけもな…。
いやがった。そりゃそうか、全国でも名の知られた不良校だもんな。
しかしどうする、ここまで来ておいてアレだが何も考えてねえ。ふと考え込んでいるとスマホがバイブで震えた。指原からだ。
『さっき新聞見たんだけど、仙烈高校の古川って人らしいよ髪は金髪で肩まであって、学ランの下は何も着てない感じの人いる?そいつがストーカーらしいよ』
さんきゅ、指原!あの中にはいねえみたいだが…、いったいどこに。
「よお、お前か俺を探しているのは」
その声が聞こえた瞬間、首筋に鈍い痛みを感じた。その痛みは急激に増し手刀を受けたのだと確信する。反撃するまもなく、意識を失う。
次に目覚めたのはどこか、場所も知らない廃工場の中。俺は手錠と足かせをされていた。
さきほどの男、古川が俺の目の前に来て言う。
「こんな真っ昼間から何の用かな」
どうする、何て答える。そんなことを考えながら何とか脱出しようと試みるも手錠は二重にされてしまってるし、何よりこの監視の量。軽く五人はいるか。手錠を素早く外して五人を相手に脱出するなんて今の俺には不可能だろう。それになんなんだあいつらは、ナイフ、スタンガン、拳銃!?おいおい、よしてくれよ。
「もう一回聞くぜ、何の用だ」
ここは、正直に答えてやるか
「真城めぐみ、この名前に聞き覚えはあるか?彼女はてめえにストーキングされて迷惑してんだ。やめてくれないかな」
「ストーカー?はん、笑わすな。あのアマは俺らの元仲間だぜ?一緒にいて何が悪い」
●
御幸くんが学校から飛び出したという知らせが来てからもう一時間くらいたつ。御幸くん、私のために何て無茶を…。鮫島くん、指原くんと教室でしばらく俯いていると指原くんのスマホが鳴った。
「たっ、正くん!?今どこにいるの!?正くん、正くん!!」
どうやら応答はないみたいだ。しかし、なにか会話のようなものが聞こえる。指原くんはスマホを机におき音量を最大にする。
『ストーカー?はん、笑わすな。あのアマは俺らの元仲間だぜ?一緒にいて何が悪い』
この声、聞き覚えがある。もしかして!
「紅蓮…」
私が口にする前に鮫島くんがその名を口にした。紅蓮…、私が昔所属していた不良グループ。いや、させられていた。当時いじめを受けていた私はそれを回避するためにそのグループで働くことになった。しかし、いじめ回避のためとはいえ、数々の犯罪行為に耐えきれず、私は組を抜けた。
まさか、そのことでこんなことになるなんて…。
『廃工場……』
小さな声でそう聞こえた。廃工場?もしかして!
私は飛びだす。それに続いて鮫島くん、指原くんが急いで追い付く。
「待ってよ、真城さん!いったいどこに……」
「御幸くんの居場所に心当たりがあるの!」
○
なんとか、伝わっただろうか。後ろのポケットからケータイが落ちる音がして急いで指原のスマホに着信をいれた。
「さてと、俺らのアジトが知られちまったわけだし。この地味野郎を生かしてやるわけにはいかねぇな」
「・・・!まて!俺はここがどこかは知らない!」
「お前がわからなくても、その携帯の先の奴らは知ってんだろ?」
瞬間、俺の後ろにあるスマホを木刀でまっぷたつに割る。
「さてと、殺るやつが増えたな」
「・・・フッ」
「何を笑ってやがる!」
「あいつらがそう簡単にやられるたまだとは思えないけどな・・・」
「・・・!生意気言ってんじゃねぇぞガキッ!!」
古川は木刀を大きく振りかぶった。
一瞬で俺の目の前は暗闇と化した。殺られたのかと思った。でも俺の思考は以前機能している。ゆっくりと目をあけて周りを見てみる。そこにあったのは倒れているたくさんの不良とサメジマ、指原の姿だった。
「・・・!!御幸くん!大丈夫!?」
すぐ横から声がする。振り返ってみるとそこにいたのはめぐみさんだった。
「まっ、ままま、真城さん!?」
「よかったよぉおお〜!!」
目に涙をため、彼女は俺を抱きしめた。赤面していたのだろう。顔がとても暑い。そして彼女が頭をうずめている胸も暑い。きっと彼女も赤面しているのだろう。
バッとめぐみさんはその赤面した顔をあげてごめん!と謝る。
「私のせいで、こんなことに・・・」
「・・・いいんです。これは俺が勝手にやったこと、真城さんが気にすることはありません」
「・・・でっ、でも!」
「俺は、あなたが無事なら、それで・・・」
俺はそれを言い切る前に意識を失い、その場に倒れる。
不覚にもその次の日まで寝てしまった。気づけばそこにあったのはいつもの自分の部屋の風景。手錠は・・・外れていた。当然といえば当然だが・・・。
教室には異様な空気が漂っていた。なんせただの男子高校生である俺が不良校とケンカはってきたのだから。しかしその中に前と変わらない笑顔でこちらを見てくる者がいた。
「おはよう!御幸くん!」
第一章完