その魔法少女はオレが育てたんだぜ
魔法少女物の作品を読んで突発的に思いついた作品です。魔女っことの絡みは殆どありません。詰め込みすぎた感は有りますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。
やっと終わる。
オレは遠くで繰り広げられている最後の激戦を感慨深く見つめた。戦っているのはオレが見いだし育てた3人の魔法少女達。苦節1年。長いようで短いようでやっぱり長かったこの茶番も遂に終わりを迎えようとしている。
突然降って湧いた任務ともこのふざけた姿ともあのはた迷惑な三人娘とも今日でおさらばだ。泣いても笑ってもこれで最後。俺は自由を手に入れる。
あれは忘れもしない15歳の誕生日。呼ばれて行ったじいさんの部屋でじいさんが発した一言から始まった。
「ヒロム。お前ちょっと行って魔法少女を見つけてきなさい。」
ちょっとお隣でお醤油借りてきてなノリで述べられたこの言葉。何言ってんだこのジジイ。遂にボケたかとオレは憐れみの目をじいさんに向けた。しかしじいさんはどこ吹く風、飄々とした態度でこっちを見返している。
「親父。遂にじいさんがボケたぞ。病院連れてったほうがいいんじゃないか?」
じいさんヤバいよ耄碌したよと助けを求めて同席していた親父を見ると、親父はいたって真面目な顔でオレを見ていた。
「ヒロム。これは重要な話しだからよく聞きなさい。お前には言ってなかったがおじいちゃんはな。妖精界、フェアリーランドの王族なんだ。」
親父の言うことには、じいさんはフェアリーランドの前の前の王様の息子で第2王子だったのだという。フェアリーランドは人間界であふれた負の感情を集め浄化する役割を担っていた。
数十年前負の感情を浄化するための装置が事故で故障し、人間界に負の感情が結晶化したものが降り注いだらしい。それを回収するためにじいさんはこっちにやってきたそうだ。
しかし厄介なことに一部の結晶が生き物と同化してしまった。同化した生き物は徐々にネガティブな感情に引っ張られ始め、ある日、日常のちょっとした出来事をきっかけとして化け物へと姿を変えた。それは一様に凶暴化し周囲に危害を加え始めた。
そのため協力者になりうる魔力の高い少女たちに魔法少女として協力を要請。彼女たちに一般人の保護および同化してしまった負の感情の再結晶化を依頼した。
そこでじいちゃんは魔法少女の友人だったばあちゃん(※魔法少女ではない)と出会って結婚したそうだ。
いい年したおっさんが真面目な顔してフェアリーランドて。じいさんも親父も何?思春期特有の病を未だに患ってらっしゃるの?オレは呆れた表情を浮かべ二人を見る。
「ふむ。信じておらんな。」
よく見ておれよ。
そう言うとじいさんはポフンというなんとも気の抜けた音と共に白いモコモコとした煙に包まれた。急に発生した煙にギョッとして動けずにいると徐々に煙が晴れていく。
煙が晴れるとそこにじいさんの姿はなかった。換わりにそこにいたのは青味がかった銀色の毛並みの小動物だった。
垂れた耳、つぶらな青い瞳、ふさふさとした尻尾。端的に言うと二足歩行で尻尾の長い垂れ耳ウサギといったところか。よく見ると耳と尻尾の先の毛並みは白く胸元にまるく赤い宝石のようなものが埋め込まれている。大きさは手乗りサイズでちまちました動きが可愛らしい。
「これがじいちゃんの妖精としての姿だモフゥ。」
その小動物はキュルンとした表情でこっちを見てそういった。いかにも魔法少女のマスコットといった風情だ。じ、じいさんなのか?モフゥって何?
確かにじいさんの髪は青味がかった銀髪だし目も青い。その色は親父にもオレにも受け継がれていて、体が小さいのもあいまって昔はよくいじめられたもんだ。全員返り討ちにしてやったがな!
しかしコレは…異種族婚なんてもんじゃねぇぞ。ばあちゃん何でこれと結婚しようなんて気が起きたんだ。そしてよく子どもが出来たな。いったいどんな力が働いたんだ。
呆然とするオレにじいさんは文字通り空を飛んで近寄ってきた。オレの目の前でフヨフヨ浮いて視線を合わせてくる。
「これで信じる気になったモフゥ?」
何の反応も出来ないオレにじいさんはやれやれと首を振る。
「これでもまだ駄目モフゥ。もう実力行使しかないモフゥ。」
じいさんはひとつため息を吐くと、パチンと指を鳴らした。おい今のどうやった。
しかしそんな疑問を口に出す前にオレの目の前が白い煙に覆われる。嫌な予感しかしない。
煙が晴れるとオレはまず自分の手を確認する。よし、特に変わったところはない。次に胴、足と視線を下げるも表側は特に異常はない。しかし確かに感じるお尻の違和感。後ろを振り向くとこんもりと膨らんだ制服のスラックス。
意を決して下着の中に手を入れると確かに感じるフッサリとした感触。恐る恐る覗き込むとそこには青味がかった銀色の毛並み。なんじゃこりゃぁぁぁぁ!
思わずそれをぎゅっと引っ張る。痛っだぁぁぁぁぁ!これ生えてるよぉ。間違いなく俺から生えてるよぉ。何でこんなんなってんの!?
「じいさん!何コレ!何してくれちゃってんの!?」
「じいちゃんがお前にかけてた魔法を解いただけモフゥ。それがお前の妖精としてのすがたモフゥ。お前はクォーターだから姿はほとんど人間モフゥ。」
混乱しているオレに親父から差し出された鏡。ひったくるようにそれを受け取るとそこに映し出された自分に愕然とする。み、耳がっ!頭からフッサリとした垂れ耳が生えてるぅぅぅぅぅ!
「鏡でもうちょっと下を映すモフゥ。」
言われた通り少し下、鎖骨の辺りを映すとそこにまるく赤い宝石がはまっている。
「それがお前の魔力の源モフゥ。お前ももう15モフゥ。そろそろ自分で人型になれるようになるモフゥ。」
なんだよそれ。とんだ厨二だよ!どこの萌えキャラだよ!誰得だよ!
「コレで納得しないならもう知らないモフゥ。もう本題に入るモフゥ。」
なにそれ?オレ置いてきぼり!?オレが混乱から回復するまもなくじいさんは言葉通り話を進め始めた。
「実は、負の感情浄化装置がまた故障したらしいモフゥ。負の感情の結晶がまた人間界に降り注いだから回収して来いと陛下から勅命が下ったモフゥ。」
へぇ~大変だなぁ。
「じいちゃんはもう年だしお父さんは仕事が忙しいからヒロムにお願いしたいモフゥ。魔法少女になれそうな女の子を見つけて説得してその子をサポートするモフゥ。もちろん負の感情の結晶の回収も忘れちゃ駄目モフゥ。」
はい?何言ってんの?
「何もすぐに実践とは言わないモフゥ。その姿に慣れないといけないし、しばらく家にこもって修行するモフゥ。じいちゃんとお父さんがみっちり修行に付き合うモフゥ。」
「ざけんな!くそジジイ!学校どうすんだよ?オレ受験生…!?」
ジュッ!
そこまで言ったところでじいさんの胸元の石が光ってオレの顔を何かが掠めた。タラリと垂れる血。ソロリと後ろを振り向くと壁に小さな穴が開いていてそこから細く煙が立っている。穴の周囲は焦げたように黒ずんでいた。
何だコレ!このジジイとんだ殺人光線隠し持ってやがった!もうじいさん一人でやったらいいよ。オレも魔法少女も必要ねぇよ。じいさん一人で何とかできるよ。
じいさんの方を見ると相変わらず人畜無害そうなマスコット姿でキュルンとこっちを見ていた。
「するモフゥ?」
じいさん(小動物)のバックに修羅が見えた日。オレの運命は決まった。
翌日からオレは修行のため学校を休むこととなった。対外的には家庭の事情である。授業が遅れると嘆くオレに、その辺はこっちの事情も含めてお隣の馨ちゃんにお願いしてあるから、と親父はいい笑顔でのたまった。
何それ!?何してくれちゃってんの!?コレって吹聴しちゃっていいもんなの?隣近所に我が家の恥をさらすんじゃねぇぇぇ!次に馨に会ったときどんな顔すりゃいいんだ!あぁ、なんか頭痛してきた。
修業前に鬱々とするオレに人間姿のじいさんから拳骨が飛ぶ。めちゃくちゃ痛てぇ。
「シャキッとせんか!シャキッと!」
ジジイ元気じゃねぇか。やっぱりジジイがやれよ。まだ現役でいけるよ。とても15の孫がいるようには見えねぇよ。頼むからオレを巻き込むな!
しかしじいさんの拳がオレを脅してくる。うぅ~、やりゃぁいいんだろやりゃあ!こうしてオレのキュルン☆マスコットキャラへの道!が始まったのだった。
さて修業中のオレのタイムスケジュールはいたって単純だ。昼間はじいさんの実践を交えた妖精講座。妖精とは?から始まり。貴族妖精としてのたしなみ。王族としての義務。などなど妖精としてのあり方を延々と説かれる。途中実践と称してやらされた数々の行為は黒歴史として記憶の彼方に封印した。
「そうじゃないモフゥ!モ フ ゥ モフゥ。もう一度!さんはい!」
「モ モフゥ」
……封印した。
「何度言ったらわかるモフゥ。もっと下から抉るように!上目遣いで!キラキラオーラを纏うモフゥ。」
……………封印したってば!
「いいかげんに学習するモフゥ。もっと瞳を潤ませて!哀れみを誘うように!相手の庇護欲を引き出すモフゥ。」
…うわぁぁ!やめてくれぇぇぇ!その記憶は封印したんだ!もう忘れたい。忘れたいんだぁぁぁ!何もなかった何もなかった何もナカッタ何もナカッタ何モナカッタナニモナカッタナニモ………。。。。
夜、親父が帰ってきたら魔力の制御訓練。何故親父が帰ってくるのを待つのか。それは親父が講師だからに他ならない。なんでもじいさんは産まれたときから呼吸をするように魔力を扱えたので制御の仕方がよく分からないらしい。
じいさんから解放されるこの時間がオレの安らぎの時間といっても過言じゃない。例えやってることが厨二病満載でも、そこはそれオレだってそういうのに憧れるお年頃だ。それに呪文がやたら可愛らしくともあの妖精訓練よりはまし!
体の中の魔力を感じるところから始まり、魔力の出し方、抑え方、変化の方法などなどじいさんの授業より大分役立つ内容だしな。
ただ不満があるとしたらファンタジーでよくあるような火だとか水だとかの魔法は使えないところか。使えるのはヒールだとか身体強化だとかのサポート特化。殺傷能力があるものはせいぜいじいさんがやった殺人光線くらいだ。まぁ、あれさえあればたいていの奴は倒せそうだが…。
ちなみにじいさんや親父のいない時は魔法少女戦略研究と称してひたすらDVD鑑賞をしている。セー○ームー○にはじまり、プ○キュ○シリーズ全作、ま○か☆マ○カにいたるまで他にも様々な魔法少女物を制覇した。
これらのDVDはすべてじいさんから渡されたもので、諸先輩方の仕草やら敵と相対したときの戦略やらを勉強しろということらしい。やってられっか!
時折、馨がやってきて勉強を教えつつ爆笑して帰っていく以外は、ひたすら魔法少女のマスコットキャラになるべく修業し続け2週間強。ついにその時はやってきた。
「ヒロム。今日までよく頑張ったモフゥ。まぁ不安はあるが一応ひと通りは出来るようになったようだし、明日からは学校に行きながら急ぎ魔法少女探しをすすめるモフゥ。訓練したことを忘れず、けっして妖精のイメージを損ねることのないよう、最低でもいつもの様な乱暴な言葉遣いだけはしないようにするモフゥ。しばらくはじいちゃんとお父さんがサポートに回るから大丈夫モフゥ。」
やっと…やっと開放される。小動物姿のじいさんにそう諭されながら、ガッツポーズをしそうになる手を必死に押さえ込む。
「コレは餞別モフゥ。受け取るモフゥ。」
そう言われ差し出されたものを受け取る。
「開けてみるモフゥ。」
中身を確認するとそれは服だった。広げてみてオレは固まった。
「妖精として行動するときはそれを着るモフゥ。」
やたら丈の短いフリルをふんだんに使ったタンクトップにフワッとしたシフォン素材のお尻まで隠れそうな丈の半袖の上着。上着は胸の下辺りで一箇所留められるようになっていて、後ろは大きなリボンでしぼられるようになっている。
下はかなり際どいローライズのショートパンツでほぼお尻しか隠れていない。それに幅広のベルトとニーハイとゴテッとしたロングブーツを合わせるらしい。
ショートパンツ、ニーハイの裾には繊細なレースがあしらわれていて大変可愛らしい。シルバーのチョーカーやブレスレット、髪飾り等のアクセサリーも付いている。
ヘソ出し万歳。絶対領域萌えですね。
オ レ じ ゃ な け れ ば な!
コレをオレに着ろってか!ふざけんな!ただでさえ変な獣耳、獣尻尾が付いてるのにこれ以上オレに羞恥プレイをしろと!?
「絶対嫌っ」
ジュッ!
コンナ展開マエニモアッタナァー。頬を垂れる血を感じつつ遠い目をする。
「ヒロム。それはお前の身を護るためにも必要な装備だよ。魔法少女のコスチュームと同じ魔法がかかっているんだ。それを身に着けておけばヒロムの正体を知っている者以外にはまったくの別人として認識されるし、対衝撃、対魔法効果も付いてる。お父さんもおじいちゃんも、お前に怪我をして欲しくないんだよ。」
親父が切々と訴えてくる。が、騙されてはいけない。それならオレのジャージにでも魔法をかけてくれたらよかったんだ。何が嬉しくてこんな羞恥プレイ…。
そもそもオレに怪我させたくないなら変わってくれよ!オレは恨みがましく親父を睨みつけた。
「ヒロムは人間界で妖精界の代表として戦うモフゥ。おかしな格好は許さないモフゥ。」
「この格好がすでにおかしな格好だよ!絶対似合わない!大怪我だよ!」
「その体格ならまだまだ大丈夫モフゥ。」
「これからでかくなる予定なんだよ!」
鼻で笑うな!くそジジイ!
「あんまりグチグチ言ってると、その成長止めてやるモフゥ。」
その言葉に一気に血の気が下がる。ちなみに現在160センチ弱。ここで止まってたまるかぁ!
「何言ってやがる!そんなこと出来る訳…。」
出来る訳ないと言い切れないところが恐い。胸元の石がなんとなく光ってる気がする。もう何でも有りだよ。このジジイ。
「あぁ~もうっ!着るよ!着ますよ!それでいいんだろ?」
「最初からそう言えばいいモフゥ。」
やれやれとため息をつくジジイ。む か つ く !
「ホントにオレだってばれないんだろうな?」
「ばれる心配はまったくないモフゥ。前回で実証済みモフゥ。顔は変わってないのに親にすらばれ無かったモフゥ。一度、試着してみるモフゥ。」
「これを?今?」
「さっさとするモフゥ。」
着てみるとそれは恐いくらいにジャストフィットした。
「ぴったりモフゥ。魔法も問題なく発動してるモフゥ。」
姿見に自分を映し、うな垂れる。コレで、街中を歩くのか…。何でこんなことに…。とりあえず見苦しくないのがせめてもの救いか。魔法少女のマスコットキャラというより、オレ自身が魔法少女のようだ。
「コレ、ホントにばれないんだろうな?」
魔法の効果なのか耳と尻尾の毛色はそのままに、髪と目の色が濃くなって青と群青になったり、髪に少し癖が付いて微妙に伸びたりはしているけど…顔、まったく変わってないんですけど。
「絶対、大丈夫モフゥ。ミラクルマジカルチェンジと唱えるモフゥ。」
え?なんて?
「ミラクルマジカルチェンジと唱えるモフゥ。それでそのコスチュームはヒロムを持ち主と認識するモフゥ。ヒロムの着ていた服とコスチュームを自動で着替えさせてくれるモフゥ。」
「ミ、ミラクルマジカルチェンジ…。」
そう言うとチョーカーのペンダントトップ部分が光りいつの間にかオレの姿は下着姿になっていた。なぜかチョーカーは付いたままになっている。コレ毎回言うのか…は、恥ずかしい…。
「今回はもともと着てた服がなかったから下着モフゥ。次からはそれまで着てた服になるモフゥ。」
とりあえずこのチョーカーをはずそうと、首に手を回したところで、じいさんから待ったがかかる。
「そのチョーカーははずさないことをお勧めするモフゥ。それがないと変身できないモフゥ。緊急事態にコスチュームに変身できなくて、正体がばれてもいいなら止めないモフゥ。」
じゃあ学校はこのまま?
「まぁまぁ父さん。ヒロムにも事情があるんだから。」
さすが親父!
「ヒロム。はずしてもいいけど、必ずすぐ取り出せるようなところに置いておきなさい。そうじゃないと困るのはヒロムだからね。」
本当は家に置いていきたいところだけど仕方ない。チェーンだから持ち歩きは楽だろう。
「まぁいいモフゥ。どうなってもじいちゃんは知らないモフゥ。」
じいさんもしぶしぶだが納得してくれたようだ。
「とにかく、コレでやっと回収が進むモフゥ。明日からハードな生活が始まるモフゥ。今日はゆっくり休むモフゥ。」
はぁ…明日からの生活を思うとため息しか出ない。
翌日からじいさんの宣言どおりなかなかにハードな生活が始まった。結晶を探しつつ魔力の高い女の子の気配を探る日々。気の休まるときがない。
探し始めて一週間。ようやく見つけた女の子は二人。小日向 愛実と斉藤 勇美。オレの二つ下。中学一年の女の子だった。
さらに一週間。じいさんがどこからかもう一人、オレの一つ下。中学二年の小西 希を見つけてきた。ちなみに全員同じ中学。よくこんだけ揃ったもんだ。
この三人魔力が高いのはいいが面倒を見るのが本当に大変だった。いやマジで。
絶対こいつらに正体はばらさないと誓った。日常生活までこいつらの面倒を見るのは勘弁して欲しい。
まずメグミ。こいつは運動神経が皆無だ。走る速度は亀のよう、物を投げれば1メートル先にボトッと落ち、投げられたものは受け取り損ね顔面直撃。コレもう正義のヒロインとして致命的だろ!というレベル。
しかし魔力だけは高い。それだけは3人の中で群を抜いて高かった。メグミのおかげで倒せた敵は数知れず。必殺の大技はメグミがいないと成立しない。
そのため戦闘前に|身体強化魔法の重ねがけ《ドーピング》は必須だった。メグミがいないと敵が倒せないのだ。こいつを死なせないために、オレは魔力の使いすぎで戦闘前にヘロヘロである。
次にイサミ。こいつは性格が単純で猪突猛進。思い立ったら一直線で面白いように敵の罠にはまっていた。それあきらかに罠だろ!という所に平気で突っ込んでいって捕まる脳筋のアホの子だ。
しかし身体能力だけはやたら高かった。もともと運動神経はよかったが、恐らく無意識に身体強化魔法も使っていたと思われる。イサミがいなかったらメグミは敵の前に出ることも出来なかっただろう。
だから必然的に敵に捕まったイサミを助けに行かなければならない。オレが。メグミには無理だし、ノゾミはいまいち頼りなく消去法でオレになる。
オレって所謂マスコットキャラだよね?あれ?DVD学習で見た諸先輩方はこんなアクションしてなかったような…。ドウイウコトナノ?
最後にノゾミ。こいつは無口でボーっとしてて何考えてるのかさっぱり分からん。さっきまで一緒に歩いてたと思ったら、いつの間にか遥か後方に居て、通りがかった猫にちょっかいかけたりしている。それは戦闘中にも発揮されていつの間にか居なくなってアイス食ってたりする。よくこんな時に食えるなと呆れてものも言えない。
しかし、こいつステルス機能ついてるんじゃねぇの?ってくらい神出鬼没。いつの間にかベストポジションに現れて形勢逆転の一役を買ってくれる。なんやかんやでオレの思惑を一番察してくれたのはこいつだな。
とまぁこんな3人と一緒にここまで結晶集めを頑張ってきたわけだ。
途中じいさんが変な試練を出してきたり、フェアリーランドの王子が現れて俺を目の敵にしたり、馨が事件に巻きこまれたり、魔女っこどもにオレの正体がばれそうになったり(ノゾミにはばれていそうだが)、といろいろと有った。
……いろいろと…。オレははずしていた視線を戦場へと戻した。そこでは装置を壊した事件の黒幕とオレの育てた魔女っ子たちが戦っている。
そう、今回の故障事故、実は黒幕が居たのだ。装置を破壊してフェアリーランドと人間界を混乱に落としいれ、その隙に世界征服をするつもりだったらしい。なんちゅうテンプレ…。
戦闘も大詰め、最後の大技の準備に取り掛かっている。ここまで育てるのにどれだけ苦労したか…。ついにこれで終わるのだ。
恐らく最後になるであろう3人の口上に耳を澄ませる。
「世界を愛と!」
これはメグミ。
「勇気と!」
これはイサミ。
「希望の光で満たす!」
これはノゾミ。
『これでも喰らいなさい!スーパーミラクルブリリアントアターック』
そして3人で。
ああ、終わった。とうとうオレは開放されたのだ。
あの戦いから一年と少し、オレは高校3年生に進学した。あの戦いの合間に奇跡的にも第一志望の高校に進学できたのだ。これも馨様々だ。俺は今、青春を謳歌している。背もずいぶん伸びて180センチ弱。今あの姿になったらきっと酷いことになるだろう。
あれからあの3人とは会っていない。去年ノゾミが同じ高校に進学してきて驚いたが、特に関わりは持っていない。ノゾミはオレの正体に気づいていた節があるから、時折もの言いたげな視線を感じるが、気付かない振りをしている。もうあの姿になることは二度とないから、これでいいのだ。
朝。オレは窓からまだ初々しい新一年を見るともなしに眺めていた。
「メグミ~!」
聞き覚えのありまくる声にギョッとして校庭を見渡した。げっイサミ!イサミは手を大きく振りつつ前を歩く女生徒に追いつく。そこにいたのは案の定メグミだ。
落ち着けオレ。奴らは一年。オレは三年。よっぽどのことがない限り関わりはない。現に中学のときも殆んど関わることなく終わった。
それにしてもあいつら…特にイサミ。よくこの高校に受かったな。あの頃はまだまだガキっぽかったけど、ずいぶん女っぽくなって。オレはこのとき娘の成長を喜ぶ親のような気持ちで、のんびりと彼女たちの様子を見ていた。
これが嵐の前の静けさだったと気付くのは数日後のこと。
「ずっと憧れてました!」
とイサミがオレの前に現われた時だ。
なにこれどういうことなの?メグミも何?頬を染めてモジモジしないで!ノ、ノゾミ?そんな目でオレを見るなぁぁぁ!
こんなギャルゲー展開望んでねぇぇぇぇ!カムバァァックオレの平穏!
高校生活三年目。オレの前途は多難なようです。
この主人公妖精姿の時は身内以外の前では僕っ子丁寧語だったりします。ばれないように必死です。
ちなみに主人公は中学時代殆どかかわりがないといってますが、何気に人間の姿のまま変身後の魔女っこ達を助けたりしてます。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。誤字脱字などありましたらご一報いただけたら幸いです。