第九十六話 ある日記の暗号を解読する理由 その4
それから、私はカオルとの会話を続けた。
カオルは肝心なことは話していないと思っているだろうが、言葉の端々に手掛かりがある。
ふふっ!馬鹿め!こういったことには経験の差がものを言う!
「ですから、何度も申し上げいますが、カオルさんのおっしゃる方に必要なのは、お医者さんか看護師さんであって、私のような通訳ではないのでは?」
カオルは何度も私に仕事を引き受けさせようとし、私はそれを何度も断っている。
この同じ台詞を何度も言っている。
少しウンザリしてきた。
またカオルは「そこを何とかなりませんか?」と言うのだろう。
「分かりました。確かに私の方が頼む所を間違っているようですね。失礼しました」
「えっ!?」
カオルの予想外の台詞に私が驚いたのをよそにカオルはソファーから立ち上がって部屋から出て行こうとしている。
「えっ!?本当に帰るの!?」
私は思わず素で質問してしまった。
「はい、帰ります。本当に失礼しました」
私はカオルを玄関の外まで見送った。
少し離れた所に馬車を待たせてあったらしい。
カオルはその馬車に乗って行ってしまった。
しばらく、私は窓から外を見ていたがカオルが戻って来る様子はない。
どうやら本当に帰ってしまったようだ。
いったい何だったのだ?
まあいい。
これで学園長の居場所の手掛かりが得られた。
郊外にある病院は数ヶ所。
その中で学園長が入院させられている可能性のある病院は……
うん、二ヶ所に絞られる。
どちらの病院にも他の病室とは隔離された個室があり、重要人物が密かに入院する時に使われている。
学園長を隠しておくには絶好の場所だ。
二ヶ所なら私一人で調べて回るのも可能だ。
なんなら今からでも調べに行く……
いや、考えてみると危険だ。
私を待ち構えている可能性がある。
いや、間違いなく待ち構えているだろう。
さて、どうするか?
どちらか一ヶ所に特定できれば、まだやりようはあるのだが。
うーん。
おっと!そう言えば日記の暗号を解読している途中だった!
再開しよう!
うん、あらためて解読してみると、この暗号は囮になっている部分が多い。
ひょっとしたら、この暗号には元々「正解がない」という可能性もある。
そうだとしたら私は無駄なことをしていることに……
いや、いや、もう少し考えろ!
そうだとしたらカオルは私への嫌がらせのためだけに、この暗号文を書いたことになる。
この暗号を解読すると「罠」に誘い込まれるようになっているのかもしれない。
そうだとすると……
私は考え込んだ。
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