第九十一話 ある日記が書かれている理由 その2
学園長室で現在働いている学園長は偽者なのだ。
もし、この一文を学園長の部下たちが読んだとしたら「そんなことはありえない」と言って下手な冗談を聞いたように笑うだけだろう。
だが、もちろん事実なのだ。
大賢者様の魔法で作り出した「自動人形」に入れ換わっている。
自動人形は本物の学園長のように振る舞っているが、自動人形に自分の意思という物は無い。
人前で受け答えしているが、それは全て事前に用意していた行動パターンを実行しているにすぎない。
例えば、部下から「学園長。来週の学園行事については、どういたしましょう?」と質問されたら、自動人形は問題が無ければ「事前の計画通りにしてください」と答えて、問題があれは「ここを変更してください」と答える。
本当の事を知っている自分たちでも自動人形が自分で考えて答えているように見える。
だが、事前に集めておいた本物の学園長の行動パターンから状況に応じて適切な行動パターンを選択しているだけなのだ。
大賢者様の話では、この仕組みその物は難しくないそうだ。
もちろん、難しくないというのは大賢者様にとっての話で、他の人間には不可能だ。
この仕組みその物は大賢者様にとっては難しくなくても、仕組みを実行するためには膨大なデータが必要とされるそうだ。
だから、自動人形は多数作れるが、本物と違和感無しに受け答えできる自動人形は簡単にはつくれないそうだ。
自動人形は食べ物を食べるし、飲み物も飲む。
生き物ではないから消化はできないので、後からこっそり食べた物は体内から取り出すことになっている。
どうも自分としては、これが一番納得できない。
食べられる物を生ゴミとして処理するのは抵抗がある。
もちろん、このことを大賢者様に話したことはない。
さて、話を変えよう。
もし、この日記を読んでいる人がいれば……
もちろん、そんな人間はいるはずがないのだが。
「学園長室にいるのが自動人形ならば、本物の学園長はどこにいるのか?」
という疑問を持つだろう。
それに対する答えは……
うーん?ここに書いていいのかな?
書いてしまって、万が一、この日記が読まれて他人に知れたら大変なことになるよね?
ここまで書いたことが読まれても大変なことになるけど。
だけど、秘密の隠れ家の隠し部屋から、この日記帳は外には出さないのだから他人に読まれてしまう危険は限り無く低い。
本物の学園長がどうなっているか書いてもいいよね?
いや、やっぱり、書いてはまずいかな?
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