第八十九話 学園長が独白している理由 その11
偽セオドアの「私が本物のセオドア」になるという宣言に当然私は驚いた。
「ど、どういうことだ!?」
「言葉通りの意味ですよ。あなたに成り代わって大陸中央学園の学園長となり、あなたの地位と権力・財産すべてを奪うのだ!」
偽セオドアはニヤリと笑った。
その表情は獲物を前にした肉食獣のようだった。
本物の私もそんな表情をすることがあるのだろうか?
とにかく、私は反論した。
「そ、そんなことは不可能だ!」
「何故、不可能だと言えるのですか?」
「お、お前は人形じゃないか!私と入れ替わったとしても周りの人間がすぐに気づくぞ!」
「では、あなたにはそこのエレノアが人形か人間か区別がつくのか?」
私はエレノアを見た。
見た目からは人形か人間か区別がつかない。
どうすれば?
そうだ!
「エレノア!私とお前の二人しか知らないことを聞くぞ!まずはお前の十歳の誕生日の時にあったことで……」
私はエレノアにいくつか質問した。
そのすべてにエレノアはよどみなく答えた。
「偽セオドア!このエレノアは人形ではない本物の人間だ!」
「ふーん。そう判断するんだ」
偽セオドアは私を小馬鹿にした表情になった。
「エレノア!こちらの本物様に正解を教えてやれ!」
「分かりました」
エレノアは自分の右手で左手を引っ張った。
あっさりと左手がはずれた。
「はい、セオドアおじさま。プレゼントです」
はずした左手をエレノアが……いや、偽エレノアが私に渡した。
左手は明らかに造り物だった。
「本物様。赤ちゃんの頃から知っているエレノアのことが本物か偽物か分からないのに、本物様の周りの人間がどうやって私とお前のことが区別できるんだ?」
偽セオドアは勝ち誇った表情をしている。
「私が区別できなかったのは、その偽エレノアが本物のエレノアから私のことをおしえてもらったからだろ!」
「その通りだ。本物様のことに詳しい本物のエレノアから情報をもらったんだ」
「じゃあ、偽セオドア!お前は私の詳しい情報を手に入れなければ私に成り済ますことなんてできな……」
私は話していて単純なことに気づいた。
偽セオドアがニヤリと笑った。
「気づいたようだな。本物のエレノアから本物様の詳しい情報を手に入れているんだ。本物のエレノアは本物様のことを尊敬していて、本物様を目標にして将来政治家になろうとしているんだ。そのために彼女は本物様のことをかなり詳しく調べている。こういうことに使うことになるとは思わなかっただろうがな」
「偽セオドア。お前と私が入れ替わったら私はどうなるんだ?」
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