第八十八話 学園長が独白している理由 その10
私は声を出した「エレノア」に視線を向けた。
本物か?また人形なのか?
確かめるために目の前の「エレノア」に私は触ろうとした。
「セオドアおじさま!私はもう子供じゃないんですよ!断りもなく触らないでください!」
「ああ、すまん。お前は本物のエレノアなのか?」
「いいえ、私は人形です」
人形のエレノアは軽く首を横に振った。
「だが、受け答えできているし、仕草も自然ではないか?」
「大賢者さまが私を造られたからですわ。セオドアおじさま。案内したい所がありますので、私についてきてください」
歩き始めたエレノアの後に私はついて行った。
エレノアの歩く姿は自然だ。
とても作り物とは思えない。
ひょっとして、本物のエレノアが人形の振りをしていのか?
だが、何の意味があるんだ?
「セオドアおじさま。ここですわ」
考えている内に目的地に着いたらしい。
エレノアがドアを指差していた。
「セオドアおじさま。お手数ですが、ご自分で開けてくださいますか?」
「ああ、分かった」
ここまで来てわざわざ私に危害を加えるようなことはしないだろう。
私はドアを開けた。
ドアを開けると部屋になっていて、そこには人影があった。
一瞬、「またエレノアの人形か?」と思ったが違った。
人影は男性だった。
私と同じくらいの年格好に見える。
顔は見覚えがある。
見覚えがあるのだが、誰なのか思い出せない。
仕事上の知り合い?
プライベートな友人?
どちらの記憶にもない。
誰だか分からないが確かに見覚えがある。
思い出せないことにイライラした。
「セオドアおじさま。その方が誰だか分からないみたいですね?」
エレノアが私に話し掛けた。
「ああ、確かに見覚えがあるのだが、誰だか思い出せない」
「はい、セオドアおじさま。これを使ってください。きっと思い出せますわ」
エレノアは何かを私に手渡した。
「手鏡?」
「それでご自分なお顔をご覧になってください。セオドアおじさま」
手鏡に映る自分の顔を見た。
あー!あーっ!
見覚えのあるはずだ!
私自身の顔にそっくりなんだ!
自分の顔は身繕いをする時に鏡で見るぐらいだから分からなかった。
自分そっくりの人形か。
他人から見ると私はこんな風に見えるのか。
「初めましてセオドア学園長。私のことは偽セオドアとでも呼んでください」
人形が私に話し掛けてきて右手を差し出した。
握手を求めているのだろう。
私は偽セオドアと握手をした。
「セオドア学園長。今日から私があなたに代わって『本物のセオドア』になるのだ!」
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