第八十七話 学園長が独白している理由 その9
後ろを振り向いた私の目に入ったのは……。
エレノアであった。
エレノアが等身大の人形のように微動だにせず立っていた。
「エレノア。私に声もかけずに後ろを歩いたりしないでくれ。恥を忍んで正直に言うが、怖かったぞ」
私は苦笑してエレノアに話しかけたが、エレノアは何も答えなかった。
それところか何も反応がない。
まばたきすらしていない。
まるで本当に人形のようだ。
「エレノア。失礼するぞ」
私はエレノアの手を握った。
やっぱり!これは人形だ!
ずいぶんと精巧な人形だな。
こうして間近で見ても動かないこと以外は見た目は本物の人間と区別がつかない。
このことのためだけに人形を作ったのか?
どれだけの費用と手間がかかっているのか?
いや、大賢者さまが何らかの魔法でこれを作ったのかもしれないが?
「セオドアおじさま」
私の背後からエレノアの声がした。
振り返ると、エレノアがいた。
右手を軽く私に向かって振っている。
「エレノア。こんな手の込んだイタズラはしないでくれ」
「セオドアおじさま」
「ああ、なんだい?」
「セオドアおじさま」
「だから、何か言いたいことがあるのかい?」
「セオドアおじさま」
「ん?ん?ん?エレノア。また失礼するぞ」
エレノアの手を握ると、やっぱり、これも人形だった。
右手が動いて声が出る仕掛けがしてあるようだ。
まったく!本当にどれだけ費用と手間をかけているのだ!
とにかく階段を降りることにしよう。
わざわざ階段を作ってあるということは、どこかに通じているはずだ。
どれくらいの時間、私は階段を降りているのだろうか?
正確な時間は分からないが、感覚的には三十分ぐらいになると思う。
どこに続いているか分からない薄暗い階段を降りているのは、肉体的にも精神的にも疲れる。
この階段には終わりがないのではないか?という妄想が頭に浮かんだりもする。
ん?
階段が終わったようだ。
目の前に扉がある。
何かの罠だろうが私の命を奪うような物ではないだろう。
私は扉を開けた。
扉を開けると、そこには……。
予想外と言うか、予想通りと言うべきか……。
またエレノアの人形がいた。
いや、今度は本物なのか?
エレノアの手を握った。
やはり、今度も人形だった。
「まったく何なんだ!」
少しイラついた私は乱雑に人形をどけると扉をくぐった。
扉をくぐると中は応接間のようになっていた。
ソファーに誰かが座っている。
またエレノアの人形だった。
「まったく本当に何なんだ!」
私はソファーからどけようとして乱雑に人形をつかんだ。
「痛いですわ!セオドアおじさま!」
ん?今度は本物なのか?
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