第八十六話 学園長が独白している理由 その8
私は洞窟の奥に向かって歩いている。
「おーい。エレノア。どうかしたのか?返事をしてくれ」
返事はない。
歩いているうちに洞窟は行き止まりになっていた。
おかしい!
洞窟は一本道になっていて、途中で分かれ道はなかった。
それなのにエレノアに出会わないはずがない。
洞窟の壁には入り口を少し入った所からここまで火の灯ったランプが設置されている。
ということは、誰かがこの洞窟を何かのために使っているということだ。
だとすると……。
私は洞窟の行き止まりになっている壁を拳で軽く叩いてみた。
やっぱりだ!
壁の向こうが空洞になっている音がする。
おそらく、この壁は「隠し扉」になっているのだろう。
この壁の向こうにエレノアはいるのだろう。
さて、どうするか?
エレノアはどういうつもりなのだろう?
幼い頃のように「かくれんぼ」をしているわけではないだろう。
この「隠し扉」を開けることが何かの罠なのか?
いや、開けないことが罠なのかもしれない。
どうする?どうする?
この洞窟を出ても私一人で山を降りることはとてもできそうにない。
山で遭難した時は、じっとして動かずに救助が来るのを待つのが常識だ。
だが、今の場合は当てはまらないだろう。
じっとしていても状況は変わりそうにない。
とにかく行動してみよう。
壁を強く押してみた。
やはり隠し扉だった。
ドアのように簡単に開いた。
壁の向こう側には下り階段があった。
私は階段を降りている。
階段の壁にも火の灯ったランプが設置されているので歩くのに支障はない。
だが、薄暗くて数段先しか見えない。
この階段がどこまで続いているのか分からない。
聞こえる音は私自身の足音だけで……ん?
私の足音に別の足音が重なって聞こえる気がする。
私は立ち止まってみた。
後ろの方から数歩だけ足音がして聞こなくなった。
間違いない!
私の後ろに誰かいるのだ!
私は後ろを振り向かなかった。
後ろにいる何者かは私に危害を加えるつもりはないのだろう。
そのつもりだったら、いつでもできたはずだ。
後ろにいるのは誰だ?
エレノアか?
階段の横に隠し部屋があって私が通り過ぎるのを待って、そこから出てきたのか?
後ろにいるのがエレノアなら問題はない。
例え、大賢者さまでも問題はない。
だが、全然知らない人物がいたとしたら?
怖くて後ろに振り向くことができない!
だが、いつまでも立ち止まっていることはできない。
階段を下り続けるか、後ろを振り向くかしなければならない。
私は思い切って後ろを振り向くことにした。
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