第八十五話 学園長が独白している理由 その7
エレノアがあっさりと私にナイフを渡したので、私は却って戸惑った。
「セオドアおじさま。私のハムは薄切りにしてください」
エレノアはのんきに私にハムの切り方を注文している。
私が刃物を手にしたことをまったく危険には感じていないようだ。
ここでナイフをエレノアに向けたとしたら彼女はどう反応するだろうか?
私を恐怖するか?
私に怒り出すか?
私を軽蔑するか?
どれにしても私がエレノアとの間に積み上げてきた関係は完全に終わってしまうだろう。
ハムとパンを見たら空腹を感じた。
とにかく腹ごしらえをしておくことにしよう。
私はハムを切り始めた。
最初にエレノアのために薄切りにして、次に私の好みの厚切りにした。
「美味しいです!セオドアおじさまのつくってくれたサンドイッチは最高です!」
エレノアの言葉に私は苦笑した。
ハムもパンも用意したのはエレノアで、私はナイフでハムを切っただけなのだ。
私もサンドイッチを口にした。
美味い!
思ったより空腹だったようで私はサンドイッチをたちまち食べてしまった。
気がつくと先に食べ終わっていたエレノアが洞窟の奥の方に行こうとしていた。
「エレノア。洞窟の奥に何か用事があるのか?」
「ちょっとね」
エレノアはハッキリとは言わずに少し速足で洞窟の奥に向かおうとした。
怪しい!
洞窟の奥に何があるのだ?
まさか!私がエレノアにナイフを向けようとしたのに勘づいたのか?
洞窟の奥に逃げようとしているのか?
私は慌ててエレノアの片腕をつかんだ。
「エレノア!洞窟の奥に何の用事だ!ハッキリと言え!」
「お、お花を摘みに行くのよ」
「花を摘む!?洞窟の奥に花なんか生えているのか!?」
「セオドアおじさま。放して!間に合わなくなる!」
「間に合わなくなる!?何にだ!?」
「おトイレ!」
「あっ!あああっ!すまん」
私はエレノアの腕を放した。
エレノアは走って洞窟の奥の方に向かった。
洞窟の奥は曲がり道になっているようで、エレノアの姿は見えなくなった。
私はベンチに座ってエレノアが戻るのを待った。
なかなかエレノアが戻って来ない。
時計が無いので正解な時間は分からないが三十分ぐらいは経っていると思う。
トイレにしては長過ぎないか?
「エレノア。大丈夫か?」
私は洞窟の奥に向かって声をかけた。
返事は無い。
数回同じ事を繰り返したが、やはり返事は無い。
エレノアが心配になった私は洞窟の奥に向かった。
洞窟の壁にはいくつもの火が灯ったランプが設置されていて、薄暗いが歩くのに支障はなかった。
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