第八十話 学園長が独白している理由 その2
ドアの外に出た私は唖然とした。
ドアの外はすぐに崖になっていて、崖の下を見下ろすと底まで数百メートルはありそうだった。
私は高所恐怖症ではないが、この高さには恐怖を感じる。
周りを見回すと、ここは山の中のようで小さな山小屋が一軒あった。
私がいたのはその山小屋だった。
「セオドアおじさま。私について来てください」
エレノアの声の方に振り向くと、エレノアは山道を歩いていた。
いや、それを山道と言っていいのか?
私たちがいるのは断崖絶壁で絶壁にへばりつくように山小屋があった。
山小屋から続く山道は道と言うより「へり」と言うような人一人がギリギリ通れる細い物だった。
その山道の左側は絶壁で右側は崖だった。
「なあ、エレノア」
「なんでしょうか?エレノアおじさま」
「その……他に道はないのかね?」
「ありません。セオドアおじさまはいつも学園長室で書類仕事をしてばっかりなんですから、たまには運動をした方が体にいいですよ」
エレノアはピクニックにでも行くかのように朗らかに答えた。
「思い出しますわ。私が十歳ぐらいの頃にセオドアおじさまと二人だけでピクニックに行ったことがありましたね。覚えていらっしゃいましか?」
「ああ、覚えているよ」
「本当は私のお父さま、お母さまと行く予定だったのですけど、二人に急用ができて行けなくなって、中止になってしまうところで、とても楽しみにしていた私は泣き出してしまったんでしたね」
「ああ、そうだったな」
「それで、セオドアおじさまが代わりに私といっしょにピクニックに連れて行ってくれたんですよね。とても嬉しかったです。あの時はありがとうございました」
「ああ、どうも」
「それじゃあ、あの時のように今日もピクニックをしましょう。今回は私がセオドアおじさまをお連れしますよ」
「あ、ああ」
これはピクニックと言うより登山じゃないか?
と思ったが、私は口には出さなかった。
エレノアが山道を歩き初めて、私はその後に続いた。
風が吹いていないのは幸いだが、一歩踏み外せば崖の下に真っ逆さまだ。
私はビクビクしながら一歩一歩慎重に歩いたが、エレノアは街中の普通の道を歩いているかのように歩いていた。
私とエレノアは数十メートル離れてしまった。
エレノアが振り返った。
「セオドアおじさま。やっぱり運動不足ですね。もう少し速く歩かないと日が暮れちゃいますよ?」
運動不足が問題じゃないだろ!?
と思ったが口には出さない。
「エレノアは怖くないのか?」
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