第七十七話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その19
セオドア・フランクリン学園長と彼の部下である魔導師が二人でいる建物は、学園都市の郊外の閑静な森の中にある一軒家であった。
所有者は不動産会社で、休日に都市部の喧騒から離れて静かに休日を過ごしたい顧客向けのレンタル別荘である。
レンタルしたのは学園長の部下の魔導師であった。
魔導師はドアの外から声がすることには違和感はなかった。
なぜなら、この別荘の近辺に他に建物は無いが、近くにピクニックのコースがあり、そこから迷ってこの別荘にたどり着くことはありえるからだ。
たが、魔導師は用心のためドアは開けずに、ドア越しに外に声をかけた。
「すいません。今、手がはなせないので、南の方に向かえば町の方に戻れますよ」
「南の方って、どっちですか?」
「この家の前を少し行ったところに二つに分かれた道がありますよね?それを右の道に行けばいいですよ」
「分かりました。ありがとうございます。」
魔導師は迷い人が去ると思ってホッとしたので、外から聞こえた次の言葉に驚いた。
「すいません。電信機貸してもらえませんか?急いで連絡したいことがあるので」
「えっ!?あの……どうして、ここに電信機があると思うので?」
「この家から外に通信ケーブルが出ていますから」
この別荘には元々緊急連絡用に個人宅用の電信機が設置されていた。
その通信ケーブルを利用してカオルたちのいる部屋を盗聴しているのだった。
「すいません。電信機をあつかえる人がいないので使えないんです」
「ああ、それなら大丈夫です。私使えますから」
魔導師は迷った。
なるべく、他人を別荘の中に入れたくないが、拒否すると不審に思われるかもしれない。
「少々お待ちください」
魔導師は奥の部屋にいる学園長の判断をあおぐことにした。
「仕方ない。電信機を貸してやりなさい。ただし、電信室以外には案内するな。私はここに隠れている」
魔導師はゆっくりと用心深くドアを開けた。
ドアの外にいたのは、二十歳代に見える男でリュックを背負っていた。
魔導師は男を電信室に案内した。
男は電信機を打ち始めた。
魔導師は電信信号が分かるので、電信室の外で信号を聞いて、内容を頭の中で文章に変換していた。
男は商人らしく、文章の内容は取引先との会合の予定時刻変更などであった。
五分ほどで打ち終えると男は別荘から去った。
魔導師は奥の部屋に戻った。
奥の部屋には学園長はおらず。一人の学園生徒がいた。
「お、お前は!カオル・タイラ!学園長をどうした!?」
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