第七十三話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その15
現職の連邦大統領が学園長セオドア・フランクリンについていよいよ話そうとしている。
姪であるエレノアは何を言われてもショックに耐えられるように身構えた。
「今さらと思われるだろうが基本的なことから話しましょう。セオドアさんは連邦における名家フランクリン家の出身の人間です。初代フランクリンには子供が多かったからフランクリン一族は本家・分家が今では大勢います。エレノアさんは本家の出身でしたね?」
大統領の言葉にエレノアはうなづいた。
「はい、私の家は確かにフランクリン一族の本家ですが、帝国の貴族のように本家が分家に対して強力な統制力は持っていません。せいぜい『調整役』と言ったところです」
「セオドアさんがフランクリン一族の分家の一つの出身だということは知っていますか?」
「はい、もちろんです」
「その分家がフランクリン一族ではどういう立ち位置だったかは知っていますか?」
「えーと、確か弁護士を多く輩出した家だったはずです」
「その通りです。我が連邦にとって弁護士などの法律家は重要な職業です。なぜなら、我が連邦は多民族・多文化国家です。同じ民族・文化に属する者ならばある『暗黙の了解』というものが通用しません。文化の違いにより異なる民族の間にトラブルが発生した場合に唯一の指針となるのが『法律』なのです」
「はい、そして、セオドアおじさまは弁護士としてとても優秀でいくつものトラブルを解決したと聞いております」
「その通りだね。セオドアさんは優秀な弁護士で、それで世間に広く名が知られるようになり、その実績をもとに連邦議会選挙に立候補して、初回で見事当選している。初回の選挙で落選した私とは大きな違いだ」
「確か、大統領閣下は最初に大統領選挙に立候補された時も党内の予備選挙で落選してらっしゃるのでしたね?」
エレノアの言葉に大統領は苦笑した。
「その通りだ。よく知っているね」
「若者向けの雑誌の記事にありましたもの。その記事の結論は『だから一度や二度の失敗で諦めるな』というものでした」
「今だから私も笑い話にできるが、最初に選挙に落ちた時は絶望したものだったよ。応援してくれた人たちもほとんどが離れてしまったしね。だが、おかげで本当の『友人』が誰だか分かったよ。エレノアさんも本当の友人は大切にしなさい」
「はい、もちろんです」
「少し話が逸れたね。セオドアさんのことに話を戻そう。セオドアさんは連邦議員に連続して当選しているベテラン議員だが、どちらかと言うと裏方で表舞台には立てなかった」
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