第七十二話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その14
「それは、この学園の元々の設立目的に関わっている。エレノアさんは、この学園の設立目的を知っているかね?」
大統領はエレノアの質問に直接は答えずに質問を返した。
「はい、設立当時の連邦政府と帝国政府の共同声明は『大陸各地の若者を同じ場所に集めて学問を修めさせ、それを通して若者たちが交流し、若者たちが広く世界を知る』ことでしたね?」
「その通りだ。明文化されていないが、当時は戦争までは行かなかったが、緊張はしていた連邦と帝国の関係を緩和するという目的もあった」
「その目的は成功していますね。今は連邦と帝国の生徒たちが机を並べて勉学に励むのは当たり前になっていますもの。連邦と帝国の生徒の間には国の違いによる『競争意識』はあっても『戦争』なんて教科書に載っている過去の出来事に過ぎなくなっています」
「その通りだ。だが、学園の設立当初は連邦出身の生徒と帝国出身の生徒の間には色々とトラブルが多くて、それに対応するため学園長には連邦か帝国での著名な政治家を任命することになった」
「なるほど、学園の生徒には連邦の名家や帝国の皇族や貴族出身が多いですから。『大物政治家』を学園長にすることで『抑え』にしたのですね」
「その通りだ。それは引退間際や左遷される政治家にとっては『最後の花道』のようなものだった。だが、学園が創立されて数十年が経過した頃になると状況が変わった。それが何か分かるかね?エレノアさん」
エレノアは少し考えると大統領の質問に答えた。
「……学園が設立されて数十年が経過すると……。卒業生が大勢できますね。その卒業生たちが政治家や官僚・財界人で高い地位につくことになりますね。それで、学園長は卒業生たちに影響力を持ちますから。学園長は重要な地位になったのですね?」
「その通り。学園長は卒業生たちの個人情報のすべてを知る立場にあるからね。学園による成績や素行だけでなく、やろうと思えば『バレてはまずい弱み』を握ることもできるからね。悪い意味でも多大な影響力を持つことができる」
「特に誰かが、そういうことを始めたというわけではないのですね?政治家にとっては『恩の貸し借り』『弱みを握る』は当たり前ですから」
「その通りだ。エレノアさん。だが、誤解して欲しくないのは『弱みを握る』ことはするが、それを使って『脅す』というのは歴代の学園長もほとんどしていない。悪影響が大きすぎるからね」
大統領はお茶を一口飲んで、のどを湿らせた。
「さて、いよいよ。現在の学園長セオドア・フランクリンについて話すことにしよう」
ご感想・評価をお待ちしております。