第六十九話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その11
大統領はセオドア・フランクリンについて話を始めた。
彼が有権者の前で演説をする時のように明るい表情と口調であった。
「さて、『競争は二人いればできる』『三人いれば派閥ができる』という言葉がワシが若い頃読んだ小説にあった。セオドア・フランクリンがこの学園の学園長になったのは、将来、連邦大統領になるために経験するキャリアの一つだ。大統領になるための競争は激烈であり、どこの派閥に所属しているかで、大統領になれるかなれないかは変わる。ここまでは皆さん理解したかね?何か質問は?」
エレノアが手を挙げた。
「でも、セオドアおじ様は、もちろん我がフランクリン一族の人間だけど、どこか特定の派閥に所属しているとは聞いたことがないのですが?」
「その通りだよ。彼は不偏不党と言える人物だ。特定の派閥に所属したことはない。どの派閥にも所属しないということは政治家としては不利になることが多いんだが、彼はうまくやってきていて『将来の大統領候補の一人』になっている。ワシも彼は将来の大統領になれる可能性は高いと思っているよ」
「現職の大統領閣下にそう言ってもらえるのは、姪として誇りに思います」
「その通りだよ。エレノアさんはセオドアさんのことを誇りに思っていい。政治家たちで彼のことを悪く言う人は皆無と言っていい。だが……」
大統領は一旦言葉を切ると、有権者の前では見せたことのない厳しい表情と口調になった。
「だからこそ、セオドアさんは大統領になるチャンスを逃してしまう可能性の方も高いんだ」
「どういうことなのでしょうか?」
「それを説明しよう。エレノアさん、まず政治家たちは何故派閥をつくり、それに所属するのだと君は考えるかね?」
「政治家に限りませんが、一人でいるより集団をつくり、その一員である方が危険から身を守れる確率が高くなるからではないですか?」
「そうだね。政治家による派閥も集団は大きい方が有利だ。特に我が連邦ではね。議会では多数決だからね。数の多い方が勝つわけだ。皇帝の一言で多数派が引っくり返ることもある帝国とは違う」
そこで、皇帝が口を挟んだ。
「おい、おい、連邦の人間はよく誤解するが、皇帝と言っても何でも自分の意志が押し通せるわけではない。多数派のことは無視できん。最悪の場合は反乱を起こされるからな」
「うん、もちろん、そうだ。このように多数派であることに力がある。だからこそ、政治家たちは派閥をつくり、そのリーダーになり、派閥を大きくしようとする。たが、セオドアさんはその、反対のことをしてきた。その理由を次に話そう」
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