第六十八話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その10
エレノアの独演会とも言える状況は続いていた。
「あの……、失礼ですが、大統領閣下は、ご自分のことを『私』ではなく『ワシ』と言っていただけませんか?」
「そのくらいは構わんが、理由は何なのだろうか?」
「本来は『ワシ』は老成された男性が使うことの多い一人称ですが、外見が可愛い女の子が使うと違和感がありますが、それだからこそ!ますます!可愛く感じるのです!」
「分かった。ただし、私たち、いや……、ワシらからはなれてはもらえないか?」
「それが『交換条件』ですね?分かりました」
エレノアは二人からあっさりと離れた。
「意外だな。もっとねばるのかと思ったのだが?」
「大統領閣下、私も馬鹿じゃないつもりです。皇帝陛下や大統領閣下から見て『若い娘の可愛いワガママ』のレベルならば苦笑いされるだけで済みますが、それ以上のことをして『お二人を本気で怒らせる』つもりはありません」
「なるほど、なかなか駆け引きが上手いようだな。相手に自分の欲求を受け入れさせて、それでいて相手に不快に思われないギリギリを見極めることができているようだな。エレノアさん、あなたは将来優れた政治家になれそうだ」
「お誉めにあずかり、光栄でございます。大統領閣下」
エレノアは大統領に向かって優雅にお辞儀をした。
「さて、今度こそ本題に入ろう。議事進行役である議長は、カオルくん、あなたがやってもらえるかね?」
「皇帝陛下、わたしとしては議長を引き受けるのは構いませんが、師匠か、皇帝陛下か、大統領閣下、お三方の誰かが議長になるべきでは?」
「カオルくん、ここは学園で、ここは、あなたたちのホームグラウンドだ。あなたがやるべきだろう」
「では、議長をやらせていただきます。発言のある方は挙手をもって、お願いします」
大統領が手を挙げた。
「大統領閣下、どうぞ」
「さて、みなさん、一番みなさんが気になっていること……、いや、エレノアさんが気にしていることについて、お話しよう。エレノアさんの一族であり、この学園の学園長であるセオドア・フランクリンが我々への襲撃事件に関与しているか、どうかだ」
エレノアは表情を固くして、不安を顔に出している。
エレノアがじゃれついていたのは不安を隠す意味もあったようだ。
「結論から言えば、セオドア・フランクリンは、今回の襲撃事件に関与しているとも、関与していないとも、どちらとも言える」
「大統領閣下、どういうことですか?」
「エレノアさん、かなり複雑な話しになる。みんなもしっかりと聞いて欲しい」
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