第六十六話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その8
「そうなんですか」
サリオンさんの言葉に対するあたしの反応は、自分でも少し驚くほどあっさりとしたものだった。
「アンさんは俺のこと軽蔑しないのか?」
「サリオンさんが決めたことではないんでしょう?たぶん『男性皇族』の伝統なのでしょう?」
「その通りだよ。アンさん。俺自身は目隠しと耳栓をさせられて、相手の高級娼婦にリードさせられて、性に関する経験をするんだ。相手の顔も声も分からないが、身体に感じる相手の肉体から毎晩違う女だとは分かる」
「そんなことをするのは相手の女の人に『情が移らない』ようにするためなのでしょう?」
「そうだ」
「そんなサリオンさんが可哀想です」
「俺が可哀想?」
「だって、『初めての相手』の顔も声も知らないのでしょう?本当なら初めての相手は『一生の思い出』になるはずなのに……」
サリオンさんはますます強くあたしを抱き締めました。
「アンさん、ありがとう。こんな俺のことを心配してくれて」
そして、サリオンさんはあたしを放すと、数歩下がって片膝をついて跪きました。
えっ!?男性皇族が男爵の娘にすぎないあたしに向かって跪く時って……。
あたしはすべての女性貴族が一応習う知識を思い出した。
ドキドキしながらサリオンさんが口を開くのを待った。
「それが、サリオンさんがアンさんに対してした『プロポーズ』だったんですね?男性皇族が自主的に女性貴族に対して跪くのはプロポーズの時だけですから」
サリオンたちの話をカオルは聞き終わった。
「そうだったわ。あたしはサリオンさんに『側室』としてプロポーズされたわ」
「それで、アンさんはプロポーズを受け入れたのですか?」
「受け入れたわ。条件付きだけど」
「その条件が『僕をサリオンさんの正妃にする』ことなんですね?」
「それで、どうするの?カオルさんは受け入れるの?」
「とりあえず。返事は保留します。サリオンたちの話を聞いている間に別の問題が発生していたので」
カオルは少し騒ぎが起きている方を向いた。
そこにはエレノアがいた。
エレノアは二人の少女を次々と代わる代わる抱き締めていた。
「きゃーっ!この子たち可愛い!」
「ちょっと!ちょっと!娘さん!余は……」
「余?だめよ。『余』というのは帝国の皇帝陛下しか使えない一人称なのだから、あなたみたいな可愛い女の子が使っちゃだめ……、ううん、やっぱり、使って!ギャップがあって可愛いわ」
エレノアが抱き締めている少女二人は、大賢者の魔法で女体化している皇帝と大統領であった。
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