第六十五話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その7
「す、すいません。サリオンさん、『可愛い』なんて男の人には失礼な言い方でしたね」
あたしが謝罪するとサリオンさんは泣き止んで愉快そうに笑いました。
「『可愛い』なんて言われるのは小学生だった頃以来だ。あの頃は自分で言うのも何だが、俺は本当に儚げな感じのする美少年だったからな。今は『二本足で歩いている熊みたいだ』と言われることが多いがな」
「本当にすいません。赤ん坊のように泣いているサリオンさんが本当に可愛らしくて、思ったことをそのまま口に出しちゃったんです」
「すまないと思っているなら、お詫びに俺の方から失礼なことをアンさんにしてもいいかな?セクハラだなんて言わないでくれよ?」
「はい、かまいませんよ。サリオンさん」
サリオンさんは今までよりも強くあたしを抱き締めました。
今までは幼い子供のような感じだったのが、同い年の男性だとあらためて認識したので、少しドキッとしました。
あたしを抱き締める手つきが少しエッチな感じがしましたけど、不快な感じはしませんでした。
「サリオンさん、ずいぶんと女の人を抱き締めるのに慣れたような手つきですね。今まで、何人の女の人とお付き合いしたのですか?」
「ゼロだよ」
「ゼロって……そんなことないでしょ?あたしのお父様やお兄様たちなんて……」
「ああ、知っているアンさんの父親には愛人が何人もいるし、兄たちにも付き合っている女が何人もいる」
「な、何で、それを知っているんですか!?」
あたしは少し驚いた。
「俺は皇太子候補の一人だ。近くにいる人間の個人情報は俺の部下によってすべて調べられる。俺が命令したわけじゃないぞ。部下たちがそうするのは皇族の身辺警護として当然のことなんだ。それにアンさんの父親と兄たちは自分の女性関係を隠してはいない。むしろ自慢している」
「それは、そうですね」
あたしは納得した。
「帝国の男性貴族たちが女遊びが派手なのは一般的な傾向なんだ。だから、皇族も同じなんだと貴族たちからすら思われているんだが……」
「違うんですか?」
「そうだ。男性皇族が女遊びを派手にして、へたに妊娠させてしまい。無差別に子供をつくったりしたら帝位継承争いの原因になりかねない。だから、女を妊娠させられる能力を持った男性皇族の女性関係は厳重に管理される」
「具体的にはどうするんですか?」
「その……、アンさん、これを言って、俺のことを軽蔑しないかな?」
「軽蔑なんてしません。約束します」
「それなら言うけど……、『性の目覚め』を迎えた男性皇族には高級娼婦があてがわれるんだ。毎晩違う女で顔も声も知ることない女が」
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