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第六十四話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その6

そう言ったあたしの言葉の後に、サリオンさんはあたしに抱きついて来ました。


最初にサリオンさんと会った時には、二本足で立っている巨大な熊のようで怖かったんですけど、その時は違いました。


まるで雨の中で道端に捨てられている子犬のようで、全然怖くなくて、とても哀しそうに見えて、「あたしが助けてあげなきゃ」と思えたんです。


サリオンさんが、あたしを抱き締めました。


考えてみると、男の人に抱き締められるのは初めてでした。


男の人とお付き合いしたことはありませんでしたし、あたしが幼い時もお父様やお兄様たちは、あたしのことは乳母に一切任せていたので、家族の男の人にも抱き締められたことはありませんでした。


サリオンさんは赤ん坊のように泣きながら、あたしを抱き締めました。


サリオンさんの鍛え上げられた筋肉質な身体をあたしは感じました。


エレノアさんやユリアさんに抱き締められた時は、お二人の身体は柔らかかったんですけど、サリオンさんの身体はゴツゴツとして堅かったです。


カオルさんの身体は中間ですね。


カオルさんの身体は堅くもなく柔らかくもなく、中性的と言うか……。


……あっ!また話が逸れちゃいしたね!


すいません、いつもは皆さんとお喋りをする時は、あたしが中心になることはありませんでしたから慣れていなくて、でも、「あたしが主役」みたいにお話することができるのは嬉しいものですね!


話を戻しますね。


あたしもサリオンさんを抱き締めました。


泣いているサリオンさんの顔を見ていると、サリオンさんは結構美形で、いわゆる「イケメン」だと気づきました。


イケメンという言葉は「一般庶民の流行り言葉だ!」と、この言葉を使うとお母様には怒られるのですけど、響きがあたしが好きなので遠慮なく使いますね!


サリオンさんと初めて会ってから、だいぶ経つのに今更こんなことを思うのは変だと思われるかもしれませんが、それには理由があります。


サリオンさんは、あたしより遥かに背が高いので彼の顔は見上げるように見たことしかありませんでした。


同じ高さの目線でサリオンさんの顔を見たのは初めてでした。


それにいつもは、サリオンさんは肉食の野獣が笑っているような雰囲気で近寄りがたかったのですが、泣いている顔は真っ正面から見ることができました。


「サリオンさんは可愛いんですね」


あたしは思わず口に出していました。


「可愛い?俺が?」


あたしは失言してしまったと思いました。


「可愛い」というのは男の人に対しては誉めていることにはならず。むしろ馬鹿にしていることになりますからね。

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