第六十話 カオルたちが隣の個室に移動した理由 その2
「お、おい、それは……」
サリオンは冗談めかして言ったことに、カオルが真面目に応えたので戸惑った。
カオルはさらに強くサリオンを抱き締めた。
「鍛え上げられた堅い体ですね。他の三人様のやわらかい体とは全然違います」
「そりゃ、他の三人は女で、俺は男なんだから当たり前だろう?」
「さっきも言いましたけど、『男として理想的な体』していますね。いくら鍛えても華奢な僕とは大違いです。うらやましいです」
「その言い方……、やっぱり、カオルさんは『本当は男』なのか?」
サリオンが少し真剣な顔になってした質問に対して、カオルは悪戯っぽい顔になって答えた。
「さあ、どうでしょう?わたしは魔法で『男の体』『女の体』に自由に変えられるんですから、性別を偽るなんて簡単ですし、どちらの性別が本当なのか証明することもできません。サリオンさんは、わたしがどっちだったら良いと思っていますか?」
「もし、カオルさんが男だったら『男同士の親友』になれるだろうから嬉しい」
「やはり、『皇族の皇太子候補』ともなると、本当の友達をつくるのが難しいですか?」
「ああ、俺が皇太子になった場合に得られる利権に群がる連中ばかりだ。そういうものだから仕方がないとは思っているが、俺が皇太子になれなかった場合、そういう連中が態度を変えたり、俺から離れるのが怖いんだ」
「なるほど、サリオンさんはけっこう寂しがりやさんなんですね。学園に入学以来『友達』をつくらないのは、それが理由ですね。それで、わたしが『本当は女』だった場合の質問の答えは?」
「前にも言ったと思うけど、君を『皇太子妃』にする」
「言っておきますけど、僕は女の人を妊娠させる能力はありますけど、僕自身が妊娠する能力はありません」
「本当の性別を告白したも同然だな。だが、君を俺を皇太子妃にするという考えは変わらない」
悪戯っぽい顔をしていたカオルが真剣な顔になった。
「何故ですか?皇太子妃に子供が生まれなかったら、『お世継ぎ』の問題が発生するではないですか?」
今度は、サリオンの方が悪戯っぽい顔になった。
「皇太子は正妃の他に何人でも『側室』を持てるんだ。側室から生まれた子供も次代の皇帝になることはできるし、子供が生まれなくても正妃の政治的な立場は変わらない。連邦から非難される側室制度も、こういう場合には便利だな」
「サリオンさんは、どなたを側室にするつもりなんでか?」
サリオンは、ユリアとアンに視線を向けた。
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