第五十五話 カオル・大賢者・皇帝・大統領が同じ部屋にいる理由 その2
「お二人とも、皇帝陛下と大統領閣下がケーキ一つをめぐって争うなど、人に知られたら、どうするのですか?」
カオルはまずは常識的なことを言って二人を説得してみた。
「人に知られる?……カオルさん、あなたはこのことを誰かに話すつもりか?」
「皇帝陛下、もちろん、人に話したりしませんよ」
「ならば問題無いではないか、余は人に話さんし、大統領も話さんし、大賢者さまも話さない。この部屋のことが外に漏れることは無い」
「その通りですな。皇帝陛下」
皇帝と大統領は、にらみ合い続けた。
「それならば同じケーキをもう一つ注文すればよろしいではないですか。食べ放題で二時間以内なら、どれだけ注文しても料金は同じなのですから」
「おう、なるほど」
「その手がありますね」
皇帝と大統領が納得したようなので、カオルはホッとした。
しかし、それは一瞬でくつがえされた。
「それで、注文された二つ目のケーキを食べるのは、大統領閣下、あなたの方になるのだな?」
「いえ、皇帝陛下、あなたの方になるのが当然では?」
「大統領閣下、あなたは『譲る』という言葉を知らないのか?」
「もちろん知っていますよ。十年前の貿易交渉の時は、我が連邦が譲ったのですから、今回は帝国の方が譲るべきでは?」
「それは、あなたの前の大統領がしたことだ。それを言うなら去年の漁業権交渉の時は、余の方が譲ったではないか?」
「私は仕事とプライベートは分けて考える主義です」
にらみ合い続ける皇帝と大統領にカオルは割って入った。
「お二人ともケーキは一つ目でも二つ目でも同じでしょう!?」
「いや、違う」
「そうですよ。違いますよ」
大統領はその理由を説明した。
「ケーキの一つ目と二つ目が同じ物であっても、一つ目を相手に『譲る』ことになる。それはできないのだ」
カオルは少しの間悩んで考え込んだ。
そして思いついたことを口に出した。
「そうだ!この一つ目のケーキを半分にして、お二人で分けるというのは、どうでしょうか?これなら、どちらも『譲る』ことになりません」
「なるほど、余は納得したぞ」
「私も納得しました」
カオルはホッとした。
「それでは、カオルさん、このケーキを半分にしてくれ」
「かしこまりました」
皇帝の言葉を受けて、カオルはナイフを手に持って、ケーキを切ろうとした。
「あっ!ちょっと待ってください。カオルさん」
「何でしょうか?大統領閣下」
「ケーキをナイフで切るのは一回だけで、ちょうど半分になるようにしてください。何度も切って細切れになってしまったらケーキが台無しになってしまう。ああ、物差しや重さの計りを取りに行こうとしないでください。私は今すぐケーキが食べたいのです」
大統領の要望にカオルは困惑した。
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