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第四十六話 エレノアがカオルに相談した理由

「俺のこと心配してくれてるの?エレノアさん」


「サリオンさん。当然よ。皇太子候補としての活動費を別の目的に使って、あなたの立場が悪くなったりしないの?私のせいで皇太子になれなくなったりしたら責任を感じちゃうわ」


「確かに活動費は何に使ったのか明確にしなくちゃならないし、他の目的に使ったりしたら皇太子候補からはずされる場合もある」


「それなら……」


「大丈夫だよ。この事件の捜査のために活動費を使うのは皇太子候補としての支出になるから」


「どうしてなの?」


「俺の未来の妻……、つまりは皇太子妃候補のために支出するからだよ」


「え、それって……」


「そうだよ。俺はエレノアさんを皇太子の妻である皇太子妃候補の一人に考えている」


「馬鹿じゃないの!サリオンさん!私はあなたを……」


サリオンさんは私の発言を遮って言った。


「エレノアさんが俺を嫌っているのは分かっているよ。だけど、帝国の皇族や貴族のように連邦の名家の人間も一般人のように好き嫌いだけの恋愛結婚なんかできないのは分かっているだろ?」


「そ、それは……」


私は言葉に詰まった。


帝国の皇族・貴族、連邦の名家の人間の結婚は、ほとんどが政略結婚だ。


「家」を繁栄させるためには、結婚相手の家柄・社会的地位・財力などを考慮しなければならない。


機械連邦を建国した一人の私のご先祖様である初代フランクリンは、そのような貴族的な慣習を嫌っていた。


皮肉なことではあるが、「名家」となったフランクリン家の人間は、帝国の貴族以上に貴族的に生きなければならなくなっている。


一般人の人たちが想像するような贅沢に溺れた貴族ではなく、社会に貢献する「貴族の義務」を優先させなければならない。


だからこそ、「家」の力を強化する政略結婚が重視されているのだ。


「どうだい?エレノアさん。皇太子妃になれば未来の皇后だ。帝国の政治に深く関わることができるよ。考えてはくれないか?」


サリオンさんが私を皇太子妃候補に考えているのには驚いたが、私の答えは決まっている。


「お断りするわ。私が目指しているのは機械連邦初の女性大統領になることだから」


「それは残念だな。それじゃあ、ユリアさん。そちらは未来の皇后になる気はないのか?」


「ボクの実家の伝統は知っているだろ。ボクのサリオンさんに対する好き嫌いを抜きにして考えても、ボクが未来の皇后になるのはありえないよ」


「ああ、ガイウス家の伝統については知っている。ガイウス家は准皇族なのに今まで帝国政府で重要な役職についたことは無いし、ガイウス家の女性が皇后になったことも無い。そうなる実力はあるのにな」


「ボクの家は敢えて帝国中央から離れた位置にいるんだ。客観的に中央の政治を見ることで、失政しそうになった時に助言ができるようにね」


「だから、ガイウス家は『副皇帝』『ご意見番』なんて呼ばれているな」


「ボクの家は『ご意見番』と呼ばれるのは構わないけど、『副皇帝』なんて呼ばれるのは困るんだ。皇帝の座を狙っていると勘違いされないからね」


「残念だなあ。つまりは、エレノアさんもユリアさんも俺と結婚する気は無いのか?」


サリオンさんはあまり残念そうで無さそうな口調でいった。


「私にサリオンさんと結婚する気は無いと、はっきり言っておくわ」


「ボクも同じだよ」


「なるほど、それなら……」


サリオンさんはいったん言葉を切ると、とんでもないことを言った。


「カオルさんを俺の未来の皇太子妃にするかな」


「ちょ!ちょっと!待ってよ!サリオンさん!あなた!カオルさんと結婚する気なの!?」


私はサリオンさんに詰め寄った。


「そうだよ。そう言ってるよ」


サリオンさんは、あっさりと言った。


「本当に本気なの?」


「本気だよ」


「だって!あなたの女性の好みは、私やユリアのように背が高くて胸の大きい女性でしょ!?カオルさんは小柄だし胸も小さいし……」


「確かに俺の女の好みとはカオルさんは正反対だが、肌が綺麗で抱き心地は良さそうだからな。それはそれで……」


「まさか……、サリオンさん。あなたはカオルさんと、そういう関係になったんじゃ?」


「構わないだろ?カオルさんは俺の『彼女』なんだから」


「でも、それは色々な理由があっての擬装で……」


「俺の『本当の彼女』にしたって構わないだろ!」


「だ、駄目よ!カオルさんは、私のモノよ!」


サリオンさんとエレノアが私の言葉に驚いている。


私も私自身の言葉に驚いた。


「エレノア。その言い方は、あまり良くない印象が、あるのだけど?」


ユリアが遠回しに私に言った。


「俺は遠慮せずにハッキリと言わせてもらうけど、カオルさんはペットでもヌイグルミでも無い。一人の独立した人間だ。エレノアは彼女を『自分の所有物』みたく思っているのか?」


「ち、違うわ!カオルさんは私の大切な……」


続く言葉が出て来なかった。


私はカオルさんに対しては何度も「大切なお友達」だと言っている。


でも、本当は私はカオルさんを……。


「私はカオルさんを『モノ』あつかいなんかしてはいないわ。『お友達』以上の存在になれるサリオンさんが羨ましくなったのよ」


「俺が羨ましい?」


「そうよ。サリオンさんは『男性』でカオルさんは『女性』だから、結婚して『夫婦』になって二人の間に子供を作るのもできるわ。一生を共に過ごすこともできる。でも、私はカオルさんとはどんなに仲良くなっても『親友』以上にはなれないわ。それが悔しいわね」


「あのさ、それは、もしかして……」


「サリオンさん。誤解しないでよ。同性愛では無いわ。『友情』として私はカオルさんを本当に大切に思っているの。だから、サリオンさんがカオルさんを幸せにしてくれるのなら文句は無いわ。だけど……」


「だけど……、何だい?」


私は決意を込めて言った。


「もしカオルさんを不幸になんかしたら許さないわよ!」


「分かっているよ。話を戻すけど、ここの捜査を始めよう」


捜査と言っても、私たちのすることは、ほとんど無かった。


建物の中は家具等は全て運び出されており空っぽだった。


「綺麗に掃除してあるな。ゴミ一つ床に落ちていない。この建物を使っていたヤツらは自分に繋がる証拠になる物を何一つ残さないようにしたようだな」


サリオンさんの言う通り何も無いようだ。


だけど、私は諦めることはできなかった。


建物の中を隅から隅まで調べた。


サリオンさんもエレノアも一緒に熱心に調べていた。


だけど、何も見つからないまま時間だけが過ぎていった。


お日さまが西に傾き、窓から見える空は赤く染まった。


私は四つん這いになって、床を這いずり回っていた。


「エレノアさん。もうすぐ暗くなる。今日はいったん中止にして、明日出直そう」


「駄目よ!サリオンさん!何か見つかるまでは帰れないわ!徹夜してでも続けるのよ!」


「エレノア。寮に外泊の許可は取っていないから門限までに帰らないと不味いよ。罰を受けることになるよ。授業以外は寮からの外出禁止にしばらくなっちゃうかもしれないよ」


「ユリア!外出禁止になっても構わないわ!」


理性ては私は分かっていた。これ以上調べても何も出そうにない。


「エレノア。落ち着いて。明日にはカオルくんも合流できるから、明日あらためて調査に来よう」


「駄目よ!私のミスでカオルさんに迷惑をかけているのに、彼女に頼るなんてできないわ!」


興奮した私は思わず両腕を振り上げて床を叩いた。


床板が簡単に割れてしまった。


私は驚いた。


私はお嬢様育ちだからヌイグルミより重い物は持ったことは無いし、魔法は使えないから筋力を一時的に強化することもできない。


床板を割ってしまうような力が私にあるはずが無い。


割れた床板をサリオンさんが剥がした。


床板を剥がすと、大きな穴が開いていた。


穴の中には地下に向かう階段があった。


「ここは隠し扉だったのか。秘密の地下室があるようだな。安全を確認するために俺が先に一人で入ってみる。二人はここで待っていてくれ」


サリオンさんは魔法で小さな火の球を出すと、それを明かりに穴に入った。


「二人とも大丈夫だ。危険は無い。入って来てくれ」


地下室は一部屋だけで、テーブルが一つに椅子が六つあった。


私はテーブルと椅子を観察した。


「このテーブルを囲んで数人で会議をしていたみたいね」


「何で、そんなことが分かるんだ?」


サリオンさんの疑問に私は答えた。


「簡単なことよ。テーブルの上にはペンで引っ掻いた跡やインクをこぼした跡がたくさんあるわ。複数の人たちが、ここで書き物をした証拠だわ」


「なるほど、名推理だな。名探偵エレノアさん」


「誉めてくれて、ありがとう。サリオンさん」


この状況で不謹慎なのだけど、大好きな推理小説の主人公になったようでワクワクする。


テーブルの上をもっと詳しく観察した。


テーブル上にペン先で引っ掻いた跡にイラストのようになっている物がある。


イラストと言っても簡単な落書きだわ。


丸や三角や四角を重ねたような落書きだ。


それを見て、私は激しい精神的ショックを受けた。


なぜなら、私の叔父であるセオドア・フランクリン学園長が、よく書いている落書きだったからだ。






エレノアは日記を書いていたペンを机の上に置いた。


今まで書いていた日記のページをハサミで丁寧に切り取った。


そして、そのページを部屋のランプの火の中に入れた。


ページが燃え尽きて完全に灰になったのを確認すると、エレノアはつぶやいた。


「さあ、これで、私の心と記憶の整理はできたわ。カオルさんのところに相談に行きましょう」






「つまり、エレノアさんは、学園長が敵のグループの一員だと疑っているんだね?」


「ええ、そうよ。カオルさん。あの落書きは叔父さまが書いた物に間違いないわ。私の家族宛の手紙の隅なんかに書く癖があって何度も私はあの落書きを見ているのよ」


カオルとエレノアは、女子寮のカオルの部屋で二人きりで話していた。


「その落書きが敵が会議に使っていた地下室のテーブルにあった。だから、学園長が怪しいとエレノアさんは考えているんだね?」

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