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第四十五話 エレノアがメモをなくした理由

「とんでもないミスって、どんなミスをしたんですか?エレノアさん」


「ごめんなさい!ごめんなさい!カオルさん!」


カオルの質問に、エレノアは頭を床にぶつけるように何度も下げるだけだった。


「謝るだけでなくて、説明して下さい!何が起こったのか分からなければ、わたしにもどうしようもありません」


顔を上げると、エレノアは説明を始めた。







えーと、どこから説明を始めればいいのかしら?


私、まだ混乱していて。


えっ!?


今日、私がカオルさんと別れた後のことから順番に話してくれ?


そうね。そうするわ。



今日の放課後は歓迎委員会の仕事は休みだったのよね。


ここ最近、委員会の仕事で私たちは働き詰めだったから、息抜きが必要ということで、カオルさんの提案で休みにしたんだったわね。


今日、最後の授業をカオルさんたちと受けた後、私は一人でショッピングのために繁華街に向かったのよね。


本当は、カオルさんたちと一緒に行きたかったのだけど、カオルさんもユリアもアンさんも別々に予定があったので、別行動になったのよね。


学園前の鉄道馬車の停留所で、私は鉄道馬車を待ちながら、停留所にある看板広告を眺めていたわ。


あれを見ているの結構楽しいのよね。


学園前の停留所を利用するのは、ほとんどが生徒だから、生徒向きの商品の広告とかがいっぱいあるのよね。


生徒向けの文房具の安売りとか、参考書とかの広告を眺めていたのだけど、一つ、気になる広告があったの。


それは、あるお店で出している広告だったわ。


ある帝国製のアンティークのお人形が一つ入荷したという内容だったの。


そのお人形は私がずっと前から欲しかった物だったの。


広告にあったお店の住所を手帳にメモすると、お腹を触ってから、停留所に来た鉄道馬車に乗ったわ。


えっ!?何?カオルさん?質問?


何で、鉄道馬車に乗る前に、お腹に触ったのか?


お腹に隠してある例のメモを確かめるためよ。


服の上から触って、メモの紙の感触を確かめたのよ。


もちろん。メモはちゃんと有ったわ。


えっ!?何で? メモを確かめたのか?


メモがスリに遭って、スリとられていないか心配になったのよ。


名人と呼ばれるスリは、相手にまったく気づかれずにスリとれると言うじゃない?


えっ!?何で?スリを急に気になったのか?


えーと、それは何でだろう?


うーんと、ああ、そうだったわ。看板広告の中に「スリに注意!」というのがあったのよ。それで気になって。


鉄道馬車に乗ったところから話を続けるわね。


鉄道馬車には御者と車掌の他には、乗客が私の他には数人だったわ。


乗客は全員が学園の制服を着た生徒だったわ。


目的のお店がある繁華街の停留所で、鉄道馬車を降りたわ。


そして、お目当ての店に歩いて行ったの。


尾行されていなかったかって?


うーん、それは気づかなかったわね。


私はスリに遭う危険の方を警戒していたから、前の方ばかりを気にしていたの。


お腹に布を巻いて、その中にメモを入れてあるから上着の内ポケットに入れてあるのと違ってスリ取るのは不可能だと思っていたんだけど。


停留所から十分ぐらい歩いた所が目的のお店だっわ。


小さなお店でアンティークの人形や小物をあつかっているお店だったわ。


お店の人は人の良さそうなお婆さんが一人だったわ。


そのお婆さんに、広告に出ていた人形を買いに来たのを言ったの。


「おや、まあ、もう、あの広告出てしまったのか?広告出すの止めようとしていたのに」


「どういうことですか?」


「この店の主人の爺さん。あたしの旦那なんだけど、階段で転んで入院してしまったんだよ。足を骨折して命に別状は無いのだけど、その人形の保管場所を知っているのは爺さんだけで、あたしは知らないんよ。悪いんだけど、出直してもらえるかい?」


そう言われて私は諦められなかった。


コレクターである私は、こういう時に出直したりすると、他のコレクターに先に手に入れられたりしてしまう場合があるのを経験から分かっている。


「だいたいでいいんです。保管場所分かりませんか?」


「奥の倉庫にあるはずだけど、あそこは……」


「案内して下さい!」


案内された倉庫の中は、蜘蛛の巣とホコリだらけだった。


「ここは普段は爺さんが管理していて、あたしはどこに何があるのか分からないんだよ。掃除もしていないから、この有り様なんだ」


「掃除道具をお借りします。目当てのお人形さんを何としても探し出します!」


私は倉庫の掃除を始めた。


着ていた制服が汚れるのも構わなかった。


そして、ついに、目標のお人形を見つけたのよ!


「あれまあ、お嬢さん。服も肌も汚れていなさるよ。ウチで、お風呂に入りなさい。制服は近くの魔法クリーニング屋に出しておくから、一時間も掛からずに仕上がるはずだよ」


お婆さんの言葉に甘えることにした。


服を脱いでお風呂に入って、出た時には制服のクリーニング終わっていたのよね。


こういう時、魔法のクリーニング屋さんは便利よね。


料金は高いけど魔法で、あっと言う間に服を洗濯して乾かせるのよね。


科学で作った機械では、まだそれは無理のよね。


お人形の代金を払うと、私は上機嫌で鉄道馬車の停留所に向かったわ。


そこで、大変なことに気づいたの。


お腹に入れておいたメモは、どうしたのかしら?


慌てて、お腹を触ると、封筒の感触があったわ。


私はホッとしたわ。


お腹に封筒を入れておくのに慣れてしまって、服を着たり脱いだりする時に封筒のあつかいが無意識でやるようになってしまっているのよね。


念のために、近くの公衆トイレに入って、封筒の中身を確認したわ。


そこで、私は愕然としたわ。


封筒の中身が古新聞の切れ端にすり替わっていたのよ!






「……それですぐ、ここに来たのよ」


エレノアの話が終わると、カオルは少し考えてから口を開いた。


「メモを古新聞にすり替えたのは、そのお店の可能性が高いけど、エレノアさんはそこに戻らなかったんだね」


「ええ、行っても無駄か危険だと私は判断したのよ。私からメモを盗むために、ここまで大掛かりなことをしたのだから、メモを盗んだのは、それなりに大きな組織なのだと思うから」


「エレノアさんのその判断は、わたしも正しいと思うよ。相手が大きな組織ならば個人ができることには限界があるからね。こちらも組織の力を使うことにしましょう」


「組織の力って……、学園長に報告して、学園警察に捜査してもらうの?」


「いいえ、学園長にも誰にも、この事は報告しない。わたしたちだけで処理するわ」


「カオルさん。私の立場に気を使って、学園長に報告しないのなら心配する必要は無いわ。メモが盗まれたのは明らかに私のミスだもの。とんな罰を受けるのも覚悟しているわ。退学処分も当然だと思っている」


「エレノアさん。わたしはあなたの立場だけを考えて報告しないわけじゃないよ。学園長に報告すれば、帝国政府や連邦政府にも知られることになる。そうなれば、最悪の場合、皇帝陛下と大統領の来園が中止になるかもしれない」


「そんな……」


「とにかく、サリオンさんに連絡して、彼の力を借りることにしよう」






次の日の夜遅くに、女子寮の自室でエレノアは日記を書いていた。






今日は色々とあった。


それを一言で説明するのは不可能だわね。


ここに、私自身の記憶の整理も兼ねて書いておくことにしましょう。


今日の朝早く、私たち三人は例の店の前にいた。


私とエレノアとサリオンさんの三人だ。


カオルさんとアンさんは残念ながらいない。


今日は授業のある日なのだけど、歓迎委員会の仕事が優先されるので、私たち委員は事前に申請すれば授業を休んでも欠席にはならない。


この「盗まれたメモ事件」の捜査には、カオルさんも参加して欲しかったのだけど、委員長として処理しなければならない書類がたくさんあるので、捜査には不参加となった。


アンさんはカオルさんの手伝いだ。


そう言えば、こうして、私とユリアとサリオンさんの三人だけになるのは、学園に入学して初めてね。


カオルさん抜きで、サリオンさんと一緒にいるのは嫌だけど、私のミスが引き起こした事件の捜査のためなのだから仕方がないわね。


例の店の表の扉は閉まっていて、中に人の気配はしなかった。


「俺の部下の調査によると、この店舗兼住居は貸家で、老夫婦が二人で住んでいたが、昨日の夜、突然、大家のところに解約に来て、どこかに引っ越して行ったそうだ。どこに引っ越して行ったかは大家は知らないそうだ」


「えっ!?それって!もしかして……」


サリオンさんの言葉に私は驚いた。


「そうだよ。エレノアさん。罠にかけるためにワザワザこの店を用意したんだ。この店はずっと空き家だったそうだが、俺たちが入学する少し前に老夫婦が借りたそうだ」


「でも、私が歓迎委員会メンバーに決まったのは最近よ。入学したばかりの頃は歓迎委員会が設立されるのも分からなかったのに」


「この店は歓迎委員会とは関係無く、エレノアさんを何かの罠にかけるための道具として事前に準備していたんだろう。この店の品揃えはエレノアさん好みだったそうだからな。エレノアさんが常連客になれば色々と利用できると考えていたのだろう。別の目的で準備していたのをメモを盗むのに使ったんだ」


私たちは、お店の中に入った。


サリオンさんが大家からこのお店を買い取っている。


私は「捜査のために必要ならば、一日借りるだけでいいのでは?」と言ったのだが、サリオンさんは「現状回復できる状況で返せるか分からない」と言って、懐から小切手を取り出して、金額を書いてサインをしたのだ。


お店一軒買う値段なのだから小切手に書かれた金額は相当なものだった。


最初は店を売るのを渋っていた大家も小切手に書かれた金額を見た途端に快諾したほどだ。


サリオンさんが皇族とはいえ学生のお小遣いで出せる金額ではない。


私が、その疑問を口にすると。


「俺の実家が出している皇太子候補としての活動費だよ」


と、サリオンは何でもないことのように答えた。


「良いのかしら?皇太子候補としての活動費を他の目的に使っちゃたりして?サリオンさんの立場が悪くなったりしないの?」


私はサリオンさんが心配になった。

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