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第四十四話 エレノアたちがカオルの部屋で入浴した理由

エレノアは椅子に座ったまま、部屋の中を見回した。


「鍵の掛かる机の引き出しに入れておくのは危険だわね。簡単にこじ開けられてしまうわ。他に安全にメモを隠しておけそうな場所は……無いわね。手提げ金庫でも買ってこようかしら?……駄目ね。簡単に持って行かれてしまうわ」


エレノアはしばらく考え込んでいた。


「良い隠し場所が思いつかないわね。ユリアやアンさんはどうしているのかしら?聞いてみましょう」


エレノアは上着の内ポケットにメモをしまうと、ユリアの部屋に向かった。


「ユリア。私よ。エレノアよ。お部屋にいるのかしら?」


ユリアの部屋のドアをノックすると、ユリアが内側からドアを開けた。


「やあ、エレノア。ちょうど良かった。相談したいことがあったんだ。昼間、カオルくんから貰ったメモをしまうのに良い場所が部屋の中に見つからないんだ。参考にしたいんだけど、エレノアはとこにしまったんだい?」


エレノアとユリアはアンの部屋に向かった。


「エレノアさん。ユリアさん。お二人をこちらから訪ねようとしていたところです。カオルさんから渡されたメモをお二人はどのように保管しているのですか?」


エレノア、ユリア、アンの三人はエレノアの部屋に集まると顔を見合わせた。


「このメモのあつかいが、こんなに大変だとは私は思いませんでしたわ」


「ボクもだよ。無くさないように注意しなければならないし、盗まれるのはもってのほかだからね。保管場所に困るよ。どこにしまえばいいんだろう?」


「あのー、お二人に提案なんですが」


アンが軽く右手を挙げていた。


「いっそのこと、このメモ燃やしてしまいませんか?そうすれば心配は無くなります」


「アンさんにしては過激なこと言うわね。確かにそうすれば問題は無くなるけど、メモ無しで、どうやって委員会の仕事をするの?」


「エレノアさん。カオルさんは全体を把握しているのですから、あたしたちは指示を受けて行動するのに専念すればいいのです」


「確かに、それがいいかもしれないわね」


「いや!それは駄目だよ!二人とも!」


ユリアが反対した。


「ボクたちは歓迎委員会の主要なメンバーなんだ。リーダーのカオルくんの指示に従っているだけでは下っ端と同じだよ。意見を言ったり、提案をしなければならないよ。それがボクたちの責任だろう?」


エレノアの言葉に私とアンさんはうなづいた。


「確かに、エレノアさんの言うとおりですね。あたしも委員会の書記として責任のある立場なのを忘れていました。すいません。エレノアさん」


「アンさん。ボクに謝る必要は無いよ。話を戻すけど、このメモは、どうしようか?」


三人は意見を出し合った。


「この寮の貴重品預かり係に預けるのは、どうかしら?」


エレノアは提案した。


女子寮の一階には大きな金庫がある。


学園の生徒は実家が貴族や名家、資産家である者が多いため、先祖代々伝わる骨董品や高価な物を持ち込んでいる生徒は多い。


自室に置いておくのは不安な生徒は希望すれば、貴重品を金庫に預けることができる。


金庫は銀行にあるのと同じぐらい頑丈であり、容易にこじ開けたりはできない。


「ここの金庫に預けるのは駄目だよ」


ユリアが反対した。


「どうしてなの?」


「確かに、ここの金庫は銀行並みに頑丈だけれども、ボクたちが直接物を金庫の中に入れることはできない。預ける貴重品は係の職員に渡して、職員は預かる物が何かについて確認するから、このメモを預けたら職員に見られることになる」


「確かに、そうだわね。重要な機密だから、このメモは私たち以外誰にもチラッとでも見られるわけにはいかないのよね」


「あのー、お二人に質問なんですが、このメモをチラッと見ただけで全部覚えられるのでしょうか?」


アンさんの疑問はもっともだ。


メモは一枚の紙に小さな細かい字で、びっしりと書かれている。


字は綺麗で内容は的確なので読みやすいが、普通ならチラッと見ただけで覚えることはできない。


普通の人ならばだ……。


「アンさん。君には想像もつかないかもしれないけど、この量の文章をチラッと見ただけで覚えられる人もいるんだ」


「えっ!?そんな人がいるんですか!?」


「皇族や上流貴族が雇っているスパイの中には、封筒に入った手紙を盗み見て、元通りに封をして、盗み見したのがバレないようにするのがいるんだ。そういうスパイはチラッと見ただけで覚えられる」


「この寮にいる職員さんが、敵のスパイだと言うのですか?」


「それは分からない。でも、危険は可能な限り避けるべきだよ」


それからしばらく、三人の議論は続き、結論が出た。


「つまり、このメモを他のどこかに預けるのは、どうしても盗み見される危険は避けられない」


ユリアの言葉にエレノアが続けた。


「このメモの内容を覚えるのは無理だから、必要な時にすぐ取り出せるようにしなきゃならないわよね。こうすることにしましょう」


エレノアは服を脱いで上半身裸になった。


腹に布を巻いて、その中に封筒に入れたメモを入れた。


「常に持ち歩くことにしたけど、内ポケットに入れておくと、スリに遭うと簡単にすられてしまうものね。これなら大丈夫よ」


「あのー、お風呂に入るときはどうするのですか?メモを脱衣場に置いて入浴するわけにはいかないと思うのですが?」


「そうね。アンさん。お風呂には一人ずつ交代で入って、脱衣場に置いたメモを残り二人が見張るようにする……、駄目ね。他の生徒のみなさんに変に思われてしまうわ。どうすれば……、ああ!そうだったわ!カオルさんの部屋には、お風呂があったわね。使わせてもらいましょう」






「……という訳で、私たち三人でカオルさんの部屋に押し掛けたのよ」


「それは分かっています。エレノアさん。わたしの部屋の風呂は一人用ですから、アンさん。ユリアさん。エレノアさんの順番で入浴して、アンさんとユリアさんのお二人は入浴を済ませると、ご自分の部屋に帰りましたが、あの……、エレノアさんは風呂から上がったのに、いつまで、わたしの部屋にいるのですか?」


「あらっ!?カオルさんは、私と二人きりでいるのが嫌なのかしら?」


「ああっ!?すいません!そんなに悲しそうな顔をしないで下さい!わたしの言い方が悪かったです!二人きりでいるのが嫌という意味ではなくて、いつまで、その格好でいるつもりですか?」


「その格好って何かしら?」


カオルは顔を赤くした。


「裸にバスタオル一枚でいる!エレノアさんの格好のことですよ!」


エレノアは裸体にバスタオル一枚を巻いただけであった。


男が見れば誰もが獣欲を刺激される姿であった。


女装生活が長いが、カオルも正真正銘の男である。


目を逸らそうとするが、バスタオルで覆われていても大きさや形が分かる豊満な胸や肌が剥き出しになった手足に目が行ってしまう。


「ああ、これのこと、別にいいじゃない。この部屋に私の他にいるのはカオルさんだけで、男の人がいる訳じゃないのだから」


「女同士でも、その姿は、はしたないですよ!」


エレノアは愉快そうに笑った。


「何がおかしいのですか?」


「ごめんなさい。突然笑ったりして、実家にいる婆やをを思い出したのよ。私を赤ちゃんの頃から育ててくれた人なのだけど、実家にいた頃、お風呂上がりに私がバスタオル一枚でいると、『はしたないですよ!』と言って私に服を着せるのよね。カオルさんの言い方が婆やにソックリだったので思わず笑っちゃったの」


「私も婆やさんと同じ意見ですよ。さっさと服を着て下さい」


「ずっと前から、こうしたかったのよね。お風呂上がりにバスタオル一枚だけで、のんびりとするの。実家にいた時は、婆やがいるから駄目だったし、この寮でも地下にある大浴場からバスタオル一枚で自分の部屋に戻るわけにはいかないでしょ?でも、服を着て自分の部屋に戻って、また服を脱いでバスタオル一枚になるのも変でしょ?今日は折角のチャンスなのよね」


「分かりました。エレノアさんが、そうしたいと言うのならば、わたしは受け入れます。でも、わたしが望んでバスタオル一枚のエレノアさんを見ているのではないと覚えておいて下さい」


「当たり前でしょ。私がバスタオル一枚でいたいのだもの」


しばらく、カオルとエレノアは、たわいないおしゃべりを楽しんだ。


エレノアが服を着て自分の部屋に戻ると、カオルは日記を開いて、ペンを手に取った。






綺麗だったよな。


裸にバスタオル一枚のエレノアさんの姿。


以前、大浴場の脱衣場でチラッとエレノアさんの上半身裸を見ちゃったけど、それとは違う色っぽさがあった。


風呂あがりで濡れた髪、すこし赤くなった肌。


その艶やかな姿を僕の目に無防備に晒して、僕が本当は男だともしらずに……。


いや!いや!いや!


何やってんだ!?


僕!


エレノアさんが僕が本当は男だと知らないのに付け込んで、彼女のあられもない姿をしっかりと見ちゃうなんて!


服を着てもらうなら、いくらでも方法は思いついただろう!僕!


ある意味、サリオンさんが昔エレノアさんたちにしたことよりも、僕は酷いことしていないか?


罪悪感をあらためて感じるなあ……。


とにかく、彼女が何かトラブルに巻き込まれたら、力になろう!


それが罪滅ぼしになるかどうか分からないけど。






カオルは日記を閉じると、部屋の明かりを消して、ベッドに入った。






数日後、夕日が女子寮を照らす頃、女子寮の正面玄関にエレノアが一人で歩いて入って来た。


「あら、珍しいわね。エレノアさん。一人で帰って来るなんて、いつもは、お友達と一緒なのに」


顔見知りの女子寮の職員がエレノアに声を掛けたが、エレノアは返事をしなかった。


「どうしたの?エレノアさん。顔が真っ青よ?どこか具合が悪いの?」


ようやく、エレノアは声を掛けられているの気づいて返事をした。


「いえ、体が悪いわけではありません。ちょっと心配事がありまして……、あの……、カオルさんは帰って来ているでしょうか?」


「ええ、帰って来ているわよ」


「ご心配掛けて申し訳ありません。カオルさんに話さなければならないことがありますので、失礼します」


エレノアはカオルの部屋に行き、ドアが開くと同時に土下座した。


「ごめんなさい!カオルさん!私、とんでもないミスをしちゃたわ」

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