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第二十八話 初代ジョージと初代フランクリンが一緒に暮らした理由

エレノアの質問に、女性看護師は答えた。


「今は何とも言えないわね。難しいところよ」


「そうですか……、でも、上手くいっているのですよね?」


エレノアは何かにすがるように尋ねた。


「まだハッキリとしたことは言えないわ。少なくとも悪化はしていないのは確かよ」


「あの、すみません。ボクたちを部屋の中で待たせてもらうことはできませんか?」


ユリアの頼みに女性看護師は首を横に振った。


「それはできないわ。治癒魔法の使用には大変な集中力が必要なのよ。他に人を部屋に入れて集中を乱したくないの」


「でも、ボクたちはカオルくんの友達で……」


なおも頼み込もうとするユリアをエレノアが止めた。


「ダメよ。ユリア。私たちが部屋に入っても何の役にも立たないのは、分かるでしょ?」


ユリアはうなだれた。


「分かっているよ。ボクは治癒魔法は初歩的なのしか使えないし、得意な炎の魔法はこんな時には役には立たない」


「あたしが役に立たないのも同じです」


ユリアとエレノア、アンは黙り込んでしまった。


「治療が終わるまでは時間が掛かりそうだから、あなたたちはいったん学生寮の方に帰った方が良くありませんか?」


女性看護師の提案に、三人とも首を横に振った。


「この病院の廊下で待っていても、寮で待っていても、ヤキモキするのは同じです。それならばカオルさんに少しでも近い所にいます」


エレノアの返事に女性看護師はうなづくと、部屋に戻ってドアを再び閉めた。


廊下の椅子にエレノアたちは再び座った。


「さあ、アンさん。初代ジョージと初代フランクリンについての話に戻りましょう」


「あの、エレノアさん。カオルさんが大変な時に、こんな話をしても良いんですか?」


「アンさん。私は黙って何もせずに待っているのが怖いの。おしゃべりをしていれば少しは気が紛れるわ。アンさんに迷惑になっているのならば、ここで止めるわ」


「いいえ、あたしもカオルさんが心配で心配で、何かしてなければ不安に押しつぶされそうです。お話を続けて下さい」


「カオルさんが部屋から無事に出て来ることを信じて待ちましょう。どこまで、アンさんにお話したかしら?」


「初代ジョージが借金を肩代わりした貴族の正式に家臣として取り立てられたという所です。それが何で、夜逃げする原因になったんですか?」


「それはね……」


エレノアは話を再開した。






「下級市民のお前が貴族に家臣として取り立てられるなんて、凄い出世じゃないか?」


初代フランクリンの言葉に初代ジョージはうなづいた。


「ああ、上級市民になって最初は喜んだよ。だが、それが、俺が家臣になった貴族の仕掛けた罠だった。まんまと嵌められたんだよ。俺は」


ジョージは自嘲した。


「嵌められたって、何だ?」


「俺にとって、あまり思い出したくない嫌な記憶なんだがな」


「僕たち家族がこんな所で暮らすことになった原因だろ?僕には聞く権利があるだろ?」


「分かった。話すよ」


ジョージの説明は次のようなものだった。


ジョージは借金を抱えている貴族の借金を肩代わりすることで、その貴族の所有する農地の無期限借地権を得たはずだった。


しかし、ジョージがその貴族の家臣となったことで、貴族側はこう主張した。


「家臣たるものは主家が困窮した時に援助をするのは当たり前のことである。見返りに無期限の農地借地権を得るなどとは家臣たる者のすべきことではない」


と、ジョージとの契約を無視したのだ。


ジョージは裁判所に対して民事訴訟を起こしたが、無駄であった。


裁判官は全員が貴族か貴族に取り立てられた上級市民なので、ジョージの訴えを認めず。貴族の主張を全面的に認める判決を下したのだ。


ジョージにとって莫大な借金が残るだけの結果になった。


「それで、俺は夜逃げすることになったんだ。連帯保証人になっているフランクリンに迷惑をかけることは分かっていたんだが、他にどうしようもなかった。お前たち夫婦が奴隷として売られたことは噂で聞いた。本当にすまなかった」


「ジョージ。今はお前も逃亡奴隷なのか?」


「ああ、結局は借金取りに捕まってな。奴隷として売られちまった」


「僕は妻とバラバラに売られそうになったから、ここ西方に風土病で死ぬことを覚悟して逃げてきたんだが、お前は独身だったろ?奴隷になっても、生きるのが辛くても、命を落とすわけじゃない。奴隷としての労働がよっぽど過酷だったのか?鉱山で穴掘りでもやる奴隷になったのか?」


ジョージは軽く首を横に振った。


「いや、ある貴族の屋敷で会計をする奴隷になった」


「それは奴隷としては待遇が良い方じゃないか?一日中椅子に座って机に向かっていれば良いんだろ?農場や鉱山で肉体労働させられるよりは、マシじゃないか?」


「それは、そうなんだが……」


ジョージは苦い表情になった。


「何だ?言いにくいことなのか?だけど、話してもらいたい。洗いざらい話してくれ」


ジョージは渋々と口を開いた。


「奴隷になった俺を買った貴族は、例の俺との契約を破った貴族だったんだ。どうも俺の会計管理の腕前をあの貴族さまは高く買っていたらしい」


ジョージは皮肉に笑った。


「それは……、何と言うべきか……」


言葉に詰まったフランクリンにジョージは話を続けた。


「あの貴族さまの帳簿を見たら破産寸前だったのを俺から騙し取った金で持ち直していたのが分かった。それで、何もかも馬鹿馬鹿しくなってここに来た」


「ここに来れば風土病で死ぬんだぞ?」


「お前たち夫婦がここに逃亡したと噂で聞いてな。お前たちと同じ死に方をすることで、せめてもの詫びにするつもりだった」


「そうか、お前も僕と同じ被害者のようなものだな。お前のことを許したわけではないが、今では同じ逃亡奴隷同士だ。罵り合うのはやめにしよう」


「ありがとう。フランクリン。あれっ!?」


「どうしたんだ?」


「さっきの男の子お前の息子か?」


「そうだよ」


「五歳ぐらいに見えたが?」


「その通りだよ。今年で五歳になった」


「ここでは風土病で一年以内に死ぬんだろ?お前たち家族は五年以上ここで暮らしているのか?」


「そうだよ」


「何で死なないんだ?」


「それはな……」


フランクリンは風土病の予防薬について説明した。






「そんな事があったんですか」


アンはエレノアの話にうなづいていた。


「でも、初代ジョージさんは初代フランクリンさんに迷惑をかけましたけど、お二人は再開してからも『友達』でいられたんですよね?」


「ええ、我がフランクリン家の言い伝えでは、二人は生涯友達だったそうよ」


「それなら、大丈夫ですよ。ユリアさん」


アンはユリアに話を振った。


「何がだい?」


「確かにユリアさんはカオルさんに迷惑をかけたかもしれませんけど、カオルさんにとっては、今までと変わらずにお友達でいられると思いますよ」


三人の中では一番暗い顔をしていたユリアは、かすかに笑顔になった。


「ありがとう。アンさん。ボクに気を遣ってくれて、少しは気が楽になったよ」


「あの、ところで、この病院の廊下で部屋の中にいるカオルさんのことを待っているうちに、何で歴史の話になったのでしたっけ?」


アンの疑問にユリアが答えた。


「今日の魔法の授業で、ボクが無詠唱魔法を使ったことが切っ掛けで、この事態になったからね。無詠唱魔法が開発される原因になった初代フランクリンの発明した薬が無ければ、こんな事にならなかったんじゃないかと、ボクが鞄から取り出した歴史の教科書を読み始めたからだよ」


「初代フランクリンの発明した薬と言うと、風土病の予防薬のことですか?」


「それもあるけど、もう一つの方だよ」


「もう一つと言うと、『火薬』のことですか?」


「そうだよ。火薬が無ければ無詠唱魔法が開発されることも無かっただろうからね」


「確かに歴史の授業では初代フランクリンの二大発明として『風土病の予防薬』と『火薬』を習いましたね」


「その火薬については、面白い話があるのよ」


エレノアが二人の会話に加わった。


「正確に言うと火薬を発明したのは初代フランクリンじゃないのよ」


「えっ!?どういうことなんですか?」


「それはね……」


エレノアは説明を始めた。






初代ジョージが初代フランクリン家族の小屋に転がり込んだ次の日の朝早く、ジョージとフランクリンの二人は森の中を歩いていた。


行く所の無いジョージは、フランクリン家族としばらく一緒に暮らすことにしたのだ。


「おい。フランクリン。どこに行くんだ?」


「狩りをしに行くんだよ」


フランクリンの返事にジョージは驚いた。


「俺は帝都の町育ちで、狩りなんかやったことないぞ!狩りに連れてこられたって役には立たないぞ!お前も町育ちだから、俺と同じだろ?」


フランクリンは少し真剣な表情をして答えた。


「ここは帝都じゃないんだ。店には品物が溢れていて、お金を出せば何でも買えたあそことは違うんだ。生活のために必要な物は何でも自分の力で手に入れなければならないんだ」


「なるほど」


ジョージは納得してうなづいた。


「でも、狩りと言っても弓矢を持ってないじゃないか?持っているのはこの妙な鉄の棒だけじゃないか?」


フランクリンが一本の鉄の棒のような物を持ち、ジョージが同じような鉄の棒のような物を十本背負わされている。


「これは『鉄砲』と言うものだ」


「鉄砲!?この鉄の棒で獲物に殴りかかるのか?」


「いや、そうじゃない。『火薬』の爆発する威力で『弾丸』を撃ち出すんだ」


「何なんだ?『火薬』とか、『弾丸』とか言う物は?」


「それはだな……」


フランクリンは説明しようとして止めた。


「口で言うよりは実際に見てもらった方が良いだろう。もう少し行けば獲物がたくさん狩れる場所がある。そこで見てもらうよ」






カオルが中にいる部屋のドアが中から開けられた。


「あなたたち、カオルさんの治療が終わったわ。部屋に入っても良いわよ」


女性看護師の言葉に、エレノアたち三人は先を争うように廊下の椅子から立ち上がると、部屋に入った。


部屋のベッドではカオルが横になっていた。


エレノアたちはベッドの側に駆け寄った。

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