第二十二話 ユリアとエレノアとサリオンが幼なじみになった理由
平良薫ことカオル・タイラの自室にユリア、エレノア、アンが集まっている。
「カオルくん。今朝はありがとう。ボクとエレノアをサリオンの魔の手から助けてくれて感謝している」
「私からもお礼を言わせてもらうわ」
ユリアとエレノアがカオルに向けて頭を下げた。
「お礼なんていいんですよ。話は少し変わりますが、わたしとしては、あの後サリオンさんがわたしに対して何もしてこないのが気になっているのですが……」
アンはカオルの発言に同意した。
「そうなのよね。あたしはサリオンさんが激しく怒って、暴力を振るうんじゃないかと思っていたのだけど……」
カオルはうなづいた。
「もし、そうなれば『正当防衛』になりますから、魔法を使ってどうにかするつもりだったんですけど……、今日一年生の校舎にいる間に、わたしには話し掛けもしなかったんです。ユリアさんとエレノアさんの方はどうだったんですか?」
「ボクもエレノアも念のため今日は常に二人で行動していたんだけど、サリオンは今朝のあの出来事より後では、ボクたちに近寄りもしなかったよ」
カオルは考え込む表情になった。
「後から何か陰湿な手段を使って、わたしに仕返しするつもりなのかな?」
「それは無いよ」
ユリアは断言した。
「サリオンは嫌なヤツだけど、性格は単純だ。怒って仕返しするのならば、その場でするよ。それに、やるとしたら相手を殴るぐらいだ。裏で陰謀をめぐらすような頭は、あいつは持っていないよ」
ユリアの言葉に、アンが意見を言った。
「それなら、サリオンさんが何もしてこないのは、カオルさんが大賢者さまのお弟子さんだから、さすがにトラブルを起こすのはマズいと思ったからなのかしら?」
カオルはうなづいた。
「そうかもしれませんね。ところで、ユリアさんとエレノアさんはサリオンさんとはどういったご関係なのですか?」
カオルの質問に、ユリアとエレノアは嫌な事を思い出す顔になった。
「あの……、話すのが嫌なのでしたら、無理にとは……」
「いや、話すことにするよ。カオルくん。カオルくんとアンさんも関わることになったのだから話しておいた方が良いだろう。そのためにカオルくんの部屋に集まったのだからね」
ユリアはエレノアに視線を向けた。
「ボクが話すことにするよ。エレノアにとっては、ボクより嫌な記憶を思い出させるようなことになるけど……」
「構わないわ。話してちょうだい」
ユリアは話始めた。
えーと、どこから話せば良いかな?
そう、そう、今はボクは男装して男言葉を使っているけど、男装するようになったのは中学一年生からで、それ以前は普通の女の子の格好をしていたよ。
髪を長く伸ばして、長いスカートを履いていた。
それが男装するようになったのは、小学六年生の時に起きた出来事が切っ掛けなんだ。
まず、ボクとエレノアが幼なじみなった切っ掛けから話すことにするよ。
話が長くなるけど、ここから説明しないと分かりにくいからね。
ボクの父親が帝国の外交官をしていて、ボクが小学一年から三年までの時期に、連邦首都のジョージシティにある大使館に駐在することになったんだ。
父はボクたち家族も一緒に連れて赴任して、ボクはジョージシティにある連邦人向けの小学校に通学することになった。
ジョージシティには帝国人の子供向きの学校もあるのだけど、父は外交官としてボクに子供の頃から「国際交流」を学ぶことを望んでいた。
だから、ボクが連邦人の子供の「友達」をつくることを期待していたんだ。
そして、小学校に入学してできたボクの一番の友達がここにいる「エレノア・フランクリン」というわけさ。
ボクが小学校に入学した初日は緊張していた。
なにしろ、周りは連邦人ばかりで帝国人の子供はボクだけだった。
そんなところに、いきなり初対面でペットやヌイグルミにするように、ボクを抱き締めたのがエレノアだったんだ。
何?エレノア。「だって、あの頃のユリアはとても可愛いかったのだもの。抱き締めたくなるのは当然よ」だって?
確かに、小学校低学年の頃のボクはエレノアより背が低かったからね。
えっ?「小さいだけじゃなくて、銀髪を長く伸ばしたしていて、銀細工のお人形さんのようだったわ。可愛くてたまらなくて、思わず抱き締めてしまったの」だって?
エレノア。君が女の子だから良いけど、可愛いモノを見ると見境無く抱き締める癖は、どうにかした方が良いよ。
もし、君が男なら変質者の犯罪者だ。
あっ!?何で、いきなりカオルくんに抱き付くんだ?
しかも、エレノアの胸をカオルくんの顔に押し付けたりして!
えっ!?「カオルさん。私に、こんな風に抱き締められて、気持ち悪い?」と、カオルくんに質問しているのかい?エレノア。
カオルくんは顔を真っ赤にして、息苦しそうにしてるじゃないか!離してあげなよ!
ああ、やっと離した。
カオルくんの答えは、「気持ち悪くなんか無いです。むしろ、とっても気持ちが良い……」か……、ん?カオルくん。何で頭を下げて謝るんだい?
エレノアに胸を押し付けられて、エッチなことを考えてしまったから?
まあ、エレノアの胸は女でそっちの趣味が無くてもムラムラしそうな巨乳だからね。
女の子のカオルくんが妙な気持ちになったとしても、罪悪感を持つ必要は無いよ。
あっ!目を離したすきに、エレノアは今度はアンさんを抱き締めている!
えっ!?エレノア。ここにいるみんなに質問?エレノアに抱き締められて気持ちが良い人は手を挙げて?
カオルくんが顔を真っ赤にして手を挙げているね。
アンさんも恥ずかしがりながら手を挙げている。
不本意だけど、ボクも手を挙げなきゃならない。
「満場一致で、『私の抱き締め癖は、気持ち悪くない』と議決されました」と、ドヤ顔になってるんじゃないよ!エレノア!
カオルくん。アンさん。小学校の時のエレノアも、こんな風に同級生の女の子たちを抱き締めていたんだ。
小学生の時のエレノアは、もちろん胸はまだ無かったけど、抱き締められると不思議と気持ちが良いんだ。
抱き締め方が上手なんだろうね。
それが切っ掛けで、ボクとエレノアは友達になれたんだ。
小学三年生までの三年間をボクとエレノアは、楽しく過ごした。
そして、ボクが小学四年生になる時に、ボクの父親が帝国外務省の本省に転勤になって、ボクたち家族も帝都に戻ることになったんだ。
ボクはエレノアとはこれでお別れになるかと思ったんだけど、エレノアのお父さんが仕事で家族を連れて帝都に赴任することになって、今度はエレノアがボクと同じ帝都の小学校に通うことになったんだ。
ボクとエレノアは小学四年生の同じクラスになった。
そして……、そこでサリオンと出会ったんだ。
エレノアは、初対面でいきなりサリオンを抱き締めた。
ん?何だい?カオルくんにアンさん。変な顔をして?
えっ!?カオルくん。「サリオンさんが、いきなりエレノアさんを抱き締めた」の間違いじゃないかって?
ああ、今朝の出来事からは、そう思えるよね。
間違いじゃないよ。
今でこそ、サリオンは、野生の虎か熊が二本足で立って歩いているような雰囲気だけど、小学四年生ぐらいの頃は可愛かったんだ。
今の姿からは想像もできないぐらいだけど、女の子によく間違われていた。
エレノアもサリオンのことを女の子に間違えて抱き締めたんだ。
あの頃のサリオンは、カオルくんに少し似ているとボクは思うよ。
えっ!?カオルくん。「何故、わたしと昔のサリオンさんが似ていると思うのですか?」だって?
うーん。何と言ったらいいかな。
今のサリオンはもちろんだけど、昔の女の子みたいな容姿だったサリオンにも、姿形はカオルくんはサリオンに似ていないけど、雰囲気がなんとなく似ているんだ。
あの頃のサリオンは、見た目が女の子みたいだから、意識して男らしく振る舞っていた。
カオルくんとボクはこの学園に来るのに一緒の列車だったよね。
列車ではカオルくんは男装していて男の子の振りをしていたのをボクは見ていたんだ。
その男の子の振りをしている演技があまりにも自然だったから、今の「女の子」のカオルくんの方が不自然に見えるぐらいだよ。
まるで、今のカオルくんは意識して「女の子」の振りをしているみたいだ。
それが、何となくカオルとサリオンが似ている感じかするんだ。
あれ!?カオルくん。どうしたの?無表情になって、黙り込んだりして……。
ああ、ごめん。ごめん。
ボクの方が無神経だったね。
例え話にしても、あのサリオンにカオルくんが似ている所があるなんて失礼な話だったね。
改めて、お詫びするよ。
話が少し脱線したから戻すけど、エレノアはサリオンとは小学四年生の時に初めて会ったのだけど、ボクはサリオンと面識があった。
ボクは准皇族でサリオンは皇族だから、かなり遠いけど親戚ではあるからね。
サリオンとは小学校に入る前に何度か会ったことがあった。
一緒に仲良く遊ぶ仲だったよ。
小学四年生で再会した後には、ボクとエレノア、サリオンの三人で仲良く遊ぶようになった。
今、思い返すと懐かしいな。
あの頃は、ボクたち三人ともお互いに「男の子」「女の子」ということを意識せずに、いつも一緒だった。
それが変わったのは、小学六年生に進級した頃からだった。
サリオンの体がだんだん男らしい体つきになっていったんだ。
それで、お互いに「男の子」「女の子」という性別の違いを意識するようになったんだ。
でも、その頃はボクもエレノアもサリオンのことは嫌いにはならなかった。
ただ、お互いに「性別の違い」を意識するようになって、前ほどは気楽に一緒にはいられなくなった。
そして、ある時、サリオンがボクに告白して来たんだ。
「ずっと、一人の男として、ユリアのことが好きだった。今までのように友達とじゃなくて、男と女として付き合って欲しい」ってね。
ボクは告白されて最初は戸惑ったけれど、サリオンの気持ちを受け入れた。
お付き合いを初めて最初の頃は、本当に楽しかった。
今思えば、それが悲劇の始まりだったんだけどね。
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