第百十一話 カオルから結婚をすすめられている理由 その4
「『生け贄』って、どういうこと?」
私の質問にカオルは答えた。
「村長の家宝を盗んだ『犯人』として座長は私を差し出そうとしたんですよ」
「何故そんなことを座長はしたの?」
「まあ、つまり一座全体か疑われたので、一座の一人の単独犯行ということにして事をおさめようとしたんです。それで、単独犯が私というわけです」
「一座には他にも大勢人がいるのでしょう?何故あなたが単独犯として差し出されたの?」
「まあ簡単に言えば一座の中で私だけが『身寄りがない』からですね。他の人は故郷に家族がいますし、夫婦や兄弟で一座に所属している人もいます。私が犯人にされても嘆く家族はいませんから」
「あなたが身寄りがないから犯人として差し出したの?あなたのいた旅芸人一座の座長は酷い人なのね?」
私は顔も名前も知らない座長に対して怒りに駆られた。
「まあ、話だけを聞くと座長は『極悪非道』の人に聞こえますけど、『結構いい人』ではありましたよ」
「そんなことをしたヤツのどこが『結構いい人』なのよ!?」
「村長のバカ息子が真犯人だと突き止めたのは、座長でしたから」
「えっ!?どういうことなの!?」
「座長が私を無実だと分かっているのに『犯人』だと差し出したのは、『真犯人』を突き止めるまでの『時間稼ぎ』だったんですよ。その時間稼ぎの間に村長と村人たちに私はかなり責められましたけど」
「村人たちに責められたって、どんなふうに責められの?」
私はなにげなくした質問をしたのを後悔した。
カオルが辛い記憶を思い出してしまった表情になったからだ。
「ご、ごめんなさい!辛い記憶を思い出させてしまったみたいね!?」
カオルは首を軽く横に振った。
「いいえ、元々このことを話題にしたのは私の方からですから。でも、私の座長に対する気持ちは複雑なんです」
「それは聞いてもいいことなのかしら?」
私はおそるおそる質問した。
カオルはうなづいた。
「大丈夫です。誰かに聞いてもらいたい気持ちになっていたところですから。座長が『極悪非道』な人間であれば私は単純に憎めばよかったんですが、そういう人にではなかったですから。私への食事を抜いたり、意味もなく私に暴力を振るったりもしませんでした。ある意味『合理的な人』でした。だからこそ、あの事件の時に、私を『犯人』として差し出したのでしょう」
「どういうことなの?」
「私を『犯人』として差し出すことで、『真犯人』を油断させようとしたのでしょう」
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