第百十話 カオルから結婚をすすめられている理由 その3
は、恥ずかしい!
男子がベッドの下などに隠していたエッチな本を母親に見つかると恥ずかしいと聞くが、その気持ちが分かった!
「わ、私の寝室に忍び込むなんて!この泥棒!」
こんなことを言ったぐらいでカオルが精神的に傷つくはずがない!
だけど、言ってやらなくては気がすまなかった!
カオルは予想通り平然として……
……いいえ、違うわ。
かなり傷ついた表情をしている。
涙ぐんでいる!
「だ、大丈夫なの!?私ちょっと言い過ぎたかしら?」
可愛らしい顔立ちをしているから、涙ぐまれると、こちらに罪悪感がある!
「す、すいません。『泥棒』と言われたことが結構精神的にショックで……」
「ご、ごめんなさい」
「いいえ、気にしないでください。あなたの家に忍び込んで、この本を持ってきたのは確かに『泥棒』としか言えませんから。しかし、ほとんど忘れてましたが、『泥棒』と言われるとやはり嫌な思い出がよみがえりますね」
「『泥棒』という言葉に何かトラウマがあるの?」
「そちらは私がこの大陸に来る前、何をやっていたのか知っていますよね?」
「東方諸島国の宰相の猶子になって、大賢者さまの弟子になったのでしょう?」
「そうですけど、それより前は知っていますか?」
えーと、確か……
「旅芸人の一座にいたのよね?」
「はい、その通りです」
「旅芸人と泥棒が、どう関係するの?」
「旅芸人の一座というのは一か所に定住せずに、あちこち動き回るものですよね?」
「そうよね。あちこちの町や村を回って、そこで公演するのよね?」
「その通りです。言わば、どこの町や村でも『よそ者』なんです。それで嫌な思いをしたこともありました」
「例えば、どんなことで嫌な思いをしたの?」
「公演のために滞在した村で真夜中に村長の先祖代々の家宝が盗まれるという事件が起きたんです。その犯人に私たちの一座が疑われてしまって……」
「何で疑われたの?」
「普段は家宝は村長の屋敷の奥深くに仕舞ってあったんです。でも、私たちの一座が村長の屋敷の庭で公演した時に、村長が見せびらかすためにみんなの前に出したんです。その夜、村長の屋敷に私たち一座は泊まったんですけど、朝になると家宝がなくなっていて私たちが疑われたんです」
「それで、どうなったの?」
「村長の息子が犯人だと分かったんです。家宝を持ち出して売ろうとしていたんです。それがバレて一座の疑いは晴れました」
「良かったじゃない」
「結果的にはそうですけど、座長は私を『生け贄』にしようとしたんです」
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