第百八話 カオルから結婚をすすめられている理由 その1
「な、何を言っているのだ!?」
私は思わず怒鳴ってしまった。
カオルは冷静に答えた。
「あれ?聞こえませんでした?『学園長とあなたが結婚すればいいんじゃないですか?』と言ったのですよ」
「ちゃんと聞こえている!何を馬鹿なことを言っているの!私と学園長が結婚できるわけないだろう!」
「えっ!?あなたもしかして『女装した男性』ですか?」
「お前と一緒にするな!私は『正真正銘女性』だ!」
カオルは私に向かって微笑んだ。
「ならば何も問題はないじゃないですか、あなたは『女性』で学園長は『男性』ですから結婚できますよ」
「問題ばかりだろうが!?」
「何が問題なのですか?学園長は独身ですし、あなたも独身ですよね?」
「確かに、私も学園長も独身だが、独身同士だから結婚できるわけではない!まず、私と学園長は親子ほど歳が離れている!」
「ああ、やっぱり若い美男子があなたの好みですか?学園長は若くないですし、ブサイクと言うほどではありませんが、平凡な顔つきですし……」
「学園長を侮辱するな!」
私は思わずカオルの胸ぐらをつかんでいた。
「学園長を侮辱しているつもりはありませんよ。あなたのような若い美人さんなら若い美男子を結婚相手に選ぶのは当然でしょう?」
「私は若さと顔だけが自慢の男どもにはうんざりしているんだ!」
「それは、どういうわけで?」
「私は学園長からの仕事で『美女』に変装することがある」
「確かに、あなたは目鼻立ちが整っていますからね。化粧して着飾ればたいていの男の気を引くことはできますね。何で普段は地味にしているんですか?」
「もちろん、目立たないためだ。話を戻すと、私が『美女』に変装すれば、若い男どもは寄って来る。だが、やつらは私の『顔と身体』だけが目当てなんだ」
「と言うと?」
「ああいうやつらは『美女で少し馬鹿な女』を好むんだ。私が少し頭の良いところを見せると離れて行く。女に『知性』を求めていない証拠だ」
「ああ、なるほど」
「だが、学園長は違う」
「どのようにですか?」
「学園長が私に求めてらっしゃるのは『私の能力』だ。私を嫌らしい目で見たことなど無い」
「仕事の上司としては理想ですけど、あなたは学園長に『女』として求められていないことに本当に不満はないのですか?」
「な、なにを言ってるのだ?」
「妄想したことないですか?あなたが学園長と結婚して二人の間に赤ちゃんが生まれることを」
「な、なにを馬鹿なことを……」
カオルの言葉は私の心を鋭く刺した。
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