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匂い

作者: 立花そな
掲載日:2026/11/04

 加齢臭かと思っていた。

 父から放たれている匂い。

 本当に加齢臭だったのかもしれないけど、この匂いは鮮明に覚えているから、同じ匂いだと断言できる。

 人間の五感、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。

 この中で最も記憶に残るのは嗅覚だと聞いたことがある。

 だから、やっぱり、同じ匂い。

 父が死んでから半年後、父が可愛がっていた猫から同じ匂いがするようになった。それから半年、猫は死んだ。寿命だったのだろう。

 15歳だった。猫の平均寿命からしたら、そういう年頃だったのだろう。だから、どうにかできたかもしれないなどの後悔はなかった。

 駅のホームですれ違った若者。

 焦点が合ってなくて、危なっかしいなと思ったけど、あの匂いがした。

 どうすることもできない。

 見知らぬ人。

 もうすぐ死ぬかもしれませんよ。なんて、間違っても声をかけられない。

 運命には逆らえないもので、きっとお風呂に何度入っても、強い香水をつけても、この匂いは消えないだろう。

 数分後、駅に異常を知らせる音が鳴り響く。人身事故があったとアナウンスが流れ、家帰るのが遅くなった。

 これは加齢臭なんかじゃない。薄々気づいていたけど、気づかないふりをしていた。三度目は逃れようのない。

 匂いの記憶は鮮明で、時折、街を歩いていると漂ってくる。

 生と死は隣り合わせ。

 年齢、性別、境遇、善悪、問わない。あらかじめ決まっているのだろう。抗うことのできない運命。

 その先の展開を知っていたって、変えることのできないこと。

 季節はもうすぐ冬を連れてくる。

 厳しい夏が終わり、暑さと寒さを繰り返している。あと何回寝たら寒さだけになるだろうか。

 冷たい風が身を撫でる。

 あぁ、またこの匂い。

 最近、まとわりついて離れない。

 匂いの発信源は分かっている。

 多分きっと、死期が近づいているのだ。

読んでいただき、ありがとうございました!

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