遊園地
「恋人と乗る観覧車が一番ドキドキする乗り物」
「え、いきなりどうしたの?」
遊園地からの帰り道。遠くからは絶叫マシンの轟音。カーラジオからもどことなく陽気なBGMが流れる。
赤信号で止まる車内で、運転していた旦那がふと呟いた。
「恋人と乗る観覧車が一番ドキドキする乗り物……」
「聞き取れなかったわけじゃなくてさ」
あたしが懸賞で当てた遊園地のチケットを使い、ごく普通に楽しんで、ごく普通にお土産を買って、とくにトラブルもなく閉園時間少し前に帰ったあたしたちだった。
「なに? 乗りたかったの? 観覧車」
「うーん、いや。なんであんなにみんな行列作るのかなあって思って」
「あー、混んでたねえ。150分待ちだったね。今ちょうど連休中だからそんなもんなんじゃないの?」
……。ウチの旦那は考え込むと黙り込む。別段いつものことなので、気にも留めずにあたしは続けた。
「結婚する前にあたしたちも乗ったじゃない。ほら、今はもうないテレビ局の近くのさ」
「あー」
「真横に来ると見えなくなるって言ってさ、若さもあってチュッチュチュッチュしてたじゃん」
「何年前だよ……恥ずかしい」
「なに? そういう話しかないでしょ?」
「そうじゃなくてさぁ」
「なに? あたし、わかんなーい」
わざとふざけてやり取りをかわすと、しばらくしてまた旦那は黙り込んで、ふと呟いた。
「……ジェットコースター」
突然の一言にあたしはキョトンとした。観覧車じゃなくてジェットコースターへの変更。そしてあたしは、わざと間違えて返した。
「ふむふむ、恋人と乗るジェットコースターね! それはスリリングだわ。でも落下中にキスしようとしたら歯がぶつかりそうだねえ」
「ドキドキする乗り物だよ、なに? キスは必ずしなきゃいけないの?」
「あっ、道の駅だ。あたし買い物したい。寄って寄って」
話の途中で遮られてなにか文句を言いたげな旦那は、不満そうに駐車場に車を停めた。
「あっ、バッグが後ろの席にあるんだった。取って取って」
「へーい、忘れ物ないようにね」
「そうだね!」
言い終わるとあたしはニヤリとして、いきなり旦那にキスをした。
「……なに? もうちょっとドキドキしてもいいんじゃないの」
「もう慣れたよ」
「あ、さっきの答え! キスは必ずしなきゃいけない!! いまちょっとキスの忘れ物したから、ね!」
ちょっぴり悔しそうに言い返す旦那に、あたしは笑った。
「乗り物」
「ん?」
「ホテルの回転ベッドが一番ドキドキする乗り物かもしれない」
「もう結婚してるんだから、家でね」
……。
「照れるじゃないか!」
ふたりとも照れて、声がハモった。
もう。
先に降りた旦那の背中は、嬉しそうだった。
この話には続きがあって、来年の今頃には家族がひとり増える予定だ。




