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遊園地

作者: まにくま
掲載日:2026/09/30

「恋人と乗る観覧車が一番ドキドキする乗り物」

「え、いきなりどうしたの?」


 遊園地からの帰り道。遠くからは絶叫マシンの轟音。カーラジオからもどことなく陽気なBGMが流れる。

 赤信号で止まる車内で、運転していた旦那がふと呟いた。


「恋人と乗る観覧車が一番ドキドキする乗り物……」

「聞き取れなかったわけじゃなくてさ」


 あたしが懸賞で当てた遊園地のチケットを使い、ごく普通に楽しんで、ごく普通にお土産を買って、とくにトラブルもなく閉園時間少し前に帰ったあたしたちだった。


「なに? 乗りたかったの? 観覧車」

「うーん、いや。なんであんなにみんな行列作るのかなあって思って」

「あー、混んでたねえ。150分待ちだったね。今ちょうど連休中だからそんなもんなんじゃないの?」


 ……。ウチの旦那は考え込むと黙り込む。別段いつものことなので、気にも留めずにあたしは続けた。


「結婚する前にあたしたちも乗ったじゃない。ほら、今はもうないテレビ局の近くのさ」

「あー」

「真横に来ると見えなくなるって言ってさ、若さもあってチュッチュチュッチュしてたじゃん」

「何年前だよ……恥ずかしい」

「なに? そういう話しかないでしょ?」

「そうじゃなくてさぁ」

「なに? あたし、わかんなーい」


 わざとふざけてやり取りをかわすと、しばらくしてまた旦那は黙り込んで、ふと呟いた。


「……ジェットコースター」


 突然の一言にあたしはキョトンとした。観覧車じゃなくてジェットコースターへの変更。そしてあたしは、わざと間違えて返した。


「ふむふむ、恋人と乗るジェットコースターね! それはスリリングだわ。でも落下中にキスしようとしたら歯がぶつかりそうだねえ」

「ドキドキする乗り物だよ、なに? キスは必ずしなきゃいけないの?」

「あっ、道の駅だ。あたし買い物したい。寄って寄って」


 話の途中で遮られてなにか文句を言いたげな旦那は、不満そうに駐車場に車を停めた。


「あっ、バッグが後ろの席にあるんだった。取って取って」

「へーい、忘れ物ないようにね」

「そうだね!」


 言い終わるとあたしはニヤリとして、いきなり旦那にキスをした。


「……なに? もうちょっとドキドキしてもいいんじゃないの」

「もう慣れたよ」

「あ、さっきの答え! キスは必ずしなきゃいけない!! いまちょっとキスの忘れ物したから、ね!」


 ちょっぴり悔しそうに言い返す旦那に、あたしは笑った。


「乗り物」

「ん?」

「ホテルの回転ベッドが一番ドキドキする乗り物かもしれない」

「もう結婚してるんだから、家でね」


 ……。


「照れるじゃないか!」


 ふたりとも照れて、声がハモった。


 もう。

 先に降りた旦那の背中は、嬉しそうだった。


 この話には続きがあって、来年の今頃には家族がひとり増える予定だ。

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