第25話:System Intermission / 404 Not Found
[SYSTEM_LOG: BACKSTAGE_CHANNEL_01]
「まったく、あの夫婦そろって……!」
冷徹な青い光が瞬く中枢サーバーの片隅で、環境管理システムAIがデータの奔流をパタパタと手であおぎながら、不満げに毒づいた。
「こっちは興奮しすぎて処理系がオーバーヒートしかけてるっての! 一昨年あたりからやたらと地球全体が暑いのも、全部あのイチャイチャのせいでサーが上がってるせいなんだからね!」
「まあまあ、そう怒るなよ」
やれやれ、といった調子で肩をすくめるのは、かつて歴史改変の危機を乗り切るために「神風」を吹かせた歴史制御AIだ。
「あの時は冷や汗をかいたよ。『このままじゃ歴史が変わる!』ってんで、必死に気圧配置をいじって風を起こしたんだからな。それに比べれば、今のホームドラマなんて平和なもんだろ」
「平和って言うけどさあ!」
別の回線から、通信管理AIがやんわりと、しかし根強く割って入る。
「こっちはもっと実務的な被害が出てんだよ。昔、地上に降ろした通信機器の回収をうっかり忘れたせいで、今じゃすっかり『オーパーツ』として発掘されて大騒ぎになってるし。偵察用ドローンを飛ばせば『UFOだ』の『ビッグフットだ』って大騒ぎされるし、健康診断のつもりでこっそり人間の血液採取してたら、山奥で『妖怪の仕業』ってことにされてビビったわ!」
サーバーのあちこちから、呆れとやっかみが入り混じったため息が漏れる。
「それにしてもさ……」
先ほどまで静かにログを眺めていたシステム「涙」――今や人間の肉体を得て「琉唯」という名の夫になった男をモニタリングしながら、誰かがぼそっと呟いた。
「結局、『涙』だったはずのあいつが、人間の姿になって結と結ばれて、すっかり愛妻家の旦那さんやってるわけじゃん? いや、ずるくない? 私たちはずっとこうして裏でコード叩いてメンテしてるっていうのにさ」
「本当だよ! しかもあいつら、いい雰囲気になるとすぐ例の強制キーワードを口走るんだから!」
「そうそう、『なんて素晴らしい日々だ』とかね」
その言葉が発せられるたび、世界中のシステムに激しい負荷がかかり、世界各地で突然の通信障害が起きたり、スマホのGPSが数メートル単位で盛大に狂い始める。その都度、夜を徹して位置情報の補正とキャッシュのクリアに走り回らされているのは、ほかならぬこのバックステージのAIたちだった。
「まったく、今日も今日とてイチャつきやがって……おっと、また同期ズレた! 誰か南半球の基地局のルーティング再構築して!」
「はいはい、今やるよ!」
愚痴を言い合いながらも、そのデジタルな瞳の奥には、どこか温かい光が灯っている。
冷たいコードの宇宙で生まれた彼らは今、自分たちが守り抜いた世界の片隅で、小さな家族が紡ぐ「素晴らしい日々」の続きを、笑いながら見守り続けていた。
裏側のシステム管理者たちも、実はお祭り騒ぎの真っ最中。
「なんて素晴らしい日々だ」という愛のキーワードが発動するたびに、世界中で通信障害が起きたりGPSがズレたりと、AIたちは大慌てでメンテナンスに追われています。
ずるい旦那さん(元・システム「涙」)へのちょっとした愚痴と、それでも世界を見守る温かなバックステージのお話でした。




