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第23話 助けられない!?冷たい正解。

ひよりの家のリビングは、前よりも静かだった。


静かすぎて、時計の針の音がやけにうるさい。


ソファに座るひよりは、指先が冷たい。


喉の奥に、あの声が引っかかったまま。


――殺して。


そらは落ち着きなく立ったり座ったりを繰り返している。


かなでは背筋を伸ばしたまま、テーブルの一点を見ていた。


見ているのに、見ていない。


テーブルの上に、げんえんさんが乗る。


ぽふ。軽い音。


「おかえり」


その言い方が、少しだけ異様だった。


帰ってきたことが前提みたいな声。


ひよりが言う。


「……げんえんさんも、見てたんだよね」


「うん。後ろで確認してた」


げんえんさんはいつもの柔らかい声で、淡々と答えた。


「朝倉ひかりは、零彩擬核インバートに侵食されてる。


彼女自身の正しさが、刃になってる」


ひよりの耳が伏せる。


そらが、堪えきれずに言う。


「……じゃあ、引き剥がせば……!」


げんえんさんは首を傾げる。


笑っているのに、目が動かない。


「無理に引き剥がしたら、死ぬよ」


そらが固まる。


ひよりは息を吸い直した。


「それ、ネブラも言ってた」


「ネブラはそこだけは本当のこと言うタイプだね」


げんえんさんはさらっと言ってから、少しだけ声を落とす。


「でも――もっと嫌な話していい?」


ひよりの喉が痛い。


「……なに」


げんえんさんは淡々と続けた。


「無理に引き剥がしても、このままでも――朝倉ひかりは死ぬ」


そらの顔が真っ青になる。


ひよりの胸が、ぐっと重くなる。


「……このままでも?」


「うん。侵食が進めば、いずれ心が壊れる。


正しさだけが残って、他が全部削れる」


かなでは、そこで少しだけ息を吐いた。


「……だからです」


かなでは自分の胸元を押さえる。


七罪武装――ジャッジメント・セブンの気配が、まだ熱を残している。


「スティル・バインドだけでは足りません」


「次は、別の武器を使います」


ひよりの背筋が冷える。


「でも……侵食が……」


かなでは頷く。


「承知しています」


「飲まれる可能性もあります」


「敵味方の区別が壊れる可能性もあります」


そらが青ざめる。


「やめろよ……! それ、委員長と同じじゃん……!」


かなでは一拍だけ黙った。


その沈黙が、苦い。


そして、短く言う。


「……同じにはなりません」


「わたくしは、自分の中にも線を引きます」


「……もし、わたくしが敵味方の区別を失ったら」

かなでは、ひよりをまっすぐ見た。

「その時は――ハートに、止めてほしい」


ひよりは拳を握った。


痛いくらい強く。


(このままでも死ぬ)


選択肢が、最初から残酷だった。


げんえんさんが、いつもの声で言う。


「決めるのはハート」


「撃つなら、君が決めて」


ひよりは目を閉じる。呼吸が浅くなる。


げんえんさんが、ひよりの目を見る。


「さっきの『殺して』は、朝倉ひかりの“願い”じゃない」

「インバートはね、本人がいちばん恐れている結末を増幅して、言葉にする」

「朝倉ひかりがいちばん怖いのは――君たちを傷つける未来」

「だから、助けたいと止めたいが、同じ言葉に潰れただけ」


――殺して。


あれが本心なら、叶えるのは簡単だ。


でも、助けてが混ざっていたら。


ひよりは目を開けた。


「……助ける」


声が震える。


でも、言い切った。


「死ぬかもしれなくても、助ける」


そらが、泣きそうな顔で言う。


「ハート……」


かなでは静かに頷く。


「承知しました」


「わたくしが時間を作ります」


げんえんさんは淡々と告げる。


「アイギス・アンド・ノヴァなら、何とかなるかもしれない」


ひよりが顔を上げる。


「……ほんとに?」


「ただし、代償は大きい」


げんえんさんは、容赦なく続けた。


「ひよりが死ぬ可能性と、助けられない可能性」


「当然、二人とも死ぬかもね」


そらが、声を失う。


ひよりの胸が、ぎゅっと締まる。


怖い。

怖いのに。


ひよりは、もう一度言った。


「助ける」


今度は、はっきり。


「……絶対に、連れ戻す」


沈黙が落ちる。


その沈黙の中で、かなでは短く言った。


「作戦会議をしましょう」


そらが涙を拭って、無理に笑った。


「うん。やろう」


げんえんさんが、軽い声で言う。


「じゃ、始めよっか」


時計の針の音だけが、変わらず刻まれていく。


でも、ここで決めた。


もう、戻れない。

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